第十一話  命の脈動

 Side 玲


 星の欠片の鼓動と同じモノを感じる。

 星狼さんからそう聞かれた私達は困惑しました。

 私達は人間です。

 このゲームの中ではどうなっているのか分かりませんが、何か現実とは違う感覚もない以上星の欠片が体内に存在するなんてことはないはずです。

 ……あ、心臓のことでしょうか?

 鼓動って言ったらそれくらいしか思いつきませんし。

 「心臓の鼓動のことじゃないですか?それ以外には思いつきませんよ?」

 (そうか……心臓以外のモノがある気がするが、お前達がそういうならそうなのだろう)

 そう言うと星狼さんは横たわって、東の空を見ました。

 (そろそろ夜が明ける。町へと帰ったらどうだ?)

 そう言われて思わず東の空を見ると、星空が消えて薄くオレンジがかってきていました。

 休憩したのが確か1時位だったので、かなりの時間寝てしまっていたようです。

 「そうします。……あ、最後に一つだけ聞いても良いですか?」

 (こちらの質問に答えてもらったからな、一つだけだぞ?)

 「あなたにとって家族ってどんな存在ですか?」

 (ふむ……難しい質問だな、なぜこれを聞く?)

 「私達は親を知りませんから。どんななのかなって思っただけです」

 本当に、ただ思いついただけで特に意味はないのです。

 (そうさなぁ、私も家族と呼べる存在は終ぞ見ることなく成長したからなぁ、家族がいる意味はあまり分からんが。赤子だった頃に抱かれていた温かさは覚えている。あの温かさは唯一無二だろうな)

 「成程、家族というのは温かいものなのですね」

 いい勉強になりました。

 (さて、そろそろ本当に行くがいい。狩りをするのも程々にしろよ?)

 「はいなのです、また会えるといいのです!」

 (ふっ、そうだな)

 そこまで話して、星狼さんは眠る体勢になりました。

 もう話すつもりは無さそうですし、町に戻りましょうか。

 晴天の青色が空を満たし始めた頃に、私達は町へと足を進めました。

 星は消え、ただ一つの太陽が姿を現し始めていました。




 町に着くと、門の前に人集りができていました。

 近づいてみると、行商の荷馬車が大部分を占めている事が分かりました。

 何かイベントでもあるのでしょうか?

 取り敢えず並ぼうとすると、町を出るときに声をかけてくれた門番の兵士さんがこちらに手招きをしているのが見えました。

 「よう、無事に帰って来れたみたいだな」

 「ギリギリでしたけどね……」

 「だろうな。夜になる前に帰ってきたほうがいいって言ったろ?」

 「次からは気を付けます。それで、この行列は一体何なんですか?」

 兵士さんは知らないのかとでも言うかのように肩をすくめた後、すぐ側に張り付けられていた紙を指差しました。

 「これだよこれ、星誕祭があるんだよ」

 「星誕祭、ですか?」

 貼り紙に視線を移してみると『毎年恒例星誕祭開催!最終日にはオークションも開催!』という見出しがでかでかと載っていて、日にち欄には明後日の日程が記されていました。

 「お祭りですか?」

 「有り体に言っちまえばそうだな、まぁ本来は星の始まりを記念する祭事だったんだがな」

 「そうだったのですか。ところで中に入ってもいいですか?」

 「おっとすまん、帰りの途中だったな。これからはこんな風に並んでるのを見かけたときはこっちに合図してくれりゃここを通してやる。そんじゃまたなー」

 そこまで説明すると、兵士さんは荷馬車の列まで走って行ってしまいました。

 口調は軽い感じがしましたが、あれでも優秀な人なのでしょうね。

 そうでないと門番という重要そうな役割はできませんから。

 「―――――⁉」

 「――――――――――!」

 町に入り黒狼の素材を売りにマーケットへ向かっていると、広場の方から口論の声が聞こえてきました。

 「聞き覚えのある声ですね……?」

 少し見に行ってみましょうか。

 広場まで近づくと人波の中にぽっかりと空洞が空いていて、人相の悪いムキムキスキンヘッドと金属鎧を纏ったイケメンが言い争いをしていました。

 スキンヘッドはレダさんですね。

 言い争いをするような人ではなかったと思うのですが。

 「もう一度言わせてもらう、君が奪った装備を返せ!」

 「だから、俺じゃもうどうしようもないっつってんだろ!オークションに流れたわ!お前らが道連れしてくれたおかげでな!」

 「お前がPKするからだろうが⁉」

 「草」

 「草を生やすな‼」

 おおう、中々に熱い会話の応酬ですね……。

 とりあえずレダさんに聞いてみましょうか。

 「おーいレダさーん」

 「お?おぉ、お前らか」

 「一体何があったのですか?」

 そう聞くと、レダさんが口を開くよりも早く隣に突っ立っていたイケメンがまくし立ててきました。

 「こいつが俺のアイテムを奪ってきたんだよ!」

 「奪った、ですか?えーと、レオンハートさん?」

 「あぁそうだ、こいつが俺をPKしてな!」

 「PKって何ですか?パンツを切り裂く?」

 「なんでそうなるの?」

 頭文字をとったらPKになるじゃないですか。

 レオンハートさんが唖然としている隙に、私達の前にレダさんがやって来ました。

 「それについては俺が説明する。まず知っておいてほしいのは、PKって行為はこのゲーム内じゃ認められてる行為ってことだ。その上で説明すると、まぁあれだな、めちゃくちゃ端的に言えば殺人だ」

 「えぇ⁉レダさんは人殺しなのです⁉」

 「ほら、俺がお前らに会った時ネームタグが赤かっただろう?あれがPKしたやつの証みたいなもんだ。あと多分お前らが思っているような殺しではないぞ?俺が殺すのはプレイヤーだけだし、そのプレイヤーは死んでもここで復活するからな」

 レダさんは私達の正面に鎮座する大きな建物を指差しながらそう教えてくれました。

 「おい、PKしたら殺した相手の持ち物をランダムに奪えることも教えておけよ、都合のいいことだけ教えるなよ」

 「くっ……」

 なるほど、本物の人殺しにはならないんですね。

 びっくりしました、レダさんが関わったらまずい人種なのかと思いました。

 「な?こいつヤバい奴だろう?君達もこいつには関わらない方がいいよ」

 「……?どうしてそうなるのですか?」

 あくまでこのゲームで想定された遊び方なのですから、悪いも何もないでしょう。

 「いや、だって、人を害した上で償いもしないんだよ?みんなが楽しく遊んでる中で輪を乱すんだ、明らかに悪い奴だろう?」

 さも当然かのようにレオンハートさんはそう宣います。

 「どうしてそうなるのか分かりませんが、レダさんはレダさんの遊び方があるはずです。そうやって一人を吊るし上げるのはどうかと思いますよ?」

 そう言うと、レオンハートさんは深くため息をついた後、辟易とした声色で、

 「だからぁ、こいつは輪を乱す悪なんだよ、分かる?言ってることの意味」

 と、同じことを繰り返してきました。

 その後も、自分は正義でレダさんが悪の一点張りで話が進みそうにありません。

 事情を聞こうと思っていただけなのに、どうしてこんな会話にすり替わってしまったのでしょうか?

 ……あ、そうでした。

 先生から渡された棒、あれはこういう時に使えということだったのでは無いでしょうか?

 この状況なら“いざこざ”に該当しますよね!

 インベントリから例の棒を引っ張り出します。

 「えっなにそれは」

 「先生から面倒臭いいざこざに遭遇したらこれを使えって言われているので。しばいても良いですか?」

 「うん?」

 「じゃあ遠慮無くッ!」

 「うぇ⁉」

 一応許可も取った所で、思いっきり振りかぶって一応致命傷にならないように金属鎧に覆われた胴体に澪と合わせて打ち込みます。

 「ひょああぁぁぁぁぁぁ⁉」

 レオンハートさんは一切動くことなくその打撃を受けて、空高く吹っ飛んで行きました。

 ……なんでそうなるので?

 

















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ひと段落したので再開です。


 双子の使った棒

 name パーティークラッシャー  rank ユニーク

 とある名高い遊び人が作成したドッキリ道具。

 パーティー続きで疲れていた遊び人の、パーティーを冷めた空気にさせればお開きになるのではないかという狂気の発想を基にされた。

 これで攻撃すると、ダメージがノックバックに変換されると同時に対象の体に対衝撃装甲バウンサーシールドを展開する。

 結果として、お遊びで打ち込んだ相手に吹き飛ばされる恐怖のみを与えるお遊び道具パーティーグッズが完成することとなった。

 その遊び人は一回だけ使ったのだが、よりにもよって想い人の参加するパーティーでの事だったため、想い人から大目玉を食らい以来使うことはなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

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