第九話  星降り月光る籠の中で

Side 先生

 

 「んぅ……?」

 「おぅ、やっと起きたかねぼすけ共」

 真っ白な頭が2つ、起き上がってこちらを白黒レンズ越しに見ている。

 まだ寝ぼけてやがんなこいつら。

 「んー、セーフなのです?」

 「一応な」 

 定期検査前には起きてくるだろうと思ってたから伝えてなかったな、そういや。

 ここに来た時からずっと、夕方辺りに定期検査を行うようにしている。

 こいつ等の症状は早々変わるもんでも無いんだが、こいつ等と会う口実がなくなっちまうからな。

 「なら良かったのです」

 「おう。んじゃ今日の検診なー」

 「「はーい」」

 検診、と言ってもただ話聞いて健康確認するだけなんだけどな。

 「んで、どうだったよStardustは?」

 「「すっごいキレイなのですだった!」」

そっから言葉が出てくるわ出てくるわ、よっぽど色のある世界がきれいだったらしい。

 そこまで喜んでもらえると送り込んだ甲斐があるってもんだ。

 日が落ちかけた頃に始まった話は、月光のベールが病室を包み込むまで続いた。

 今までここまで続いたことは無かったな。

 「さて、話も一段落したし、飯にするか」

 「「手伝う(のです)!」」

 今日はこいつ等の誕生日だから任せてほしいもんだが……まぁ、ここまで楽しそうにしてて水を差すのも酷なもんか。

 「うし、じゃあ今日はお前らの誕生日だから何でも好きなもん作ろうか」

 「いいの!?」

 「おう、何でもいいぞ」

 「じゃあオムライスがいいのです!」

 そんなんでいいのか。

 なんとも安上がりな、いや、単純に物を知らないからか。

 「なら、冷蔵庫から玉ねぎ持ってきてみじん切りにしといてくれ」

 そう言うと、双子は手を繋いだまま、空いた方の手を使って病室の隅にある調理場と冷蔵庫を二周して材料を持ってきた。

 何時から手を常に繋いで行動するようになったっけな。

 少なくとも赤子の頃からとかじゃなかったからなんかのきっかけがあったと思うんだが。

 無理だ、思い出せん、それよりも料理に集中しなければ。

 



 「美味しかったのです、ごちそうさまでした」

 「おう、お粗末様でした」

 四人前で作ったらきれいに食べきったな、丁度1.5人前ずつ。

 そういう事はいつもの事だからあんまり気にしてなかったが、よくよく考えたらすごいよな。

 「さて、晩飯もひと段落したところで、お前らにもう一つ朗報だ」

 「まだなんかあるのです?」

 「おう、今まで俺はお前らに早く寝るように言っていたな?」

 「そうだね」「そうなのです」

 「それ、撤回な」

 「「え⁉」」

 「但し、Stardustにログインして、中で寝ることが条件だ。あれは使っている間は体が休眠状態になるからな。」

 「それくらいならいつもと同じなのです!」

 「お前らも気づいているとは思うが、あれの中は現実の1秒が4秒になる。その分時間のズレがあるとは思うが、まぁお前らならいい感じに調節できるだろ?」

 「もちろんやってやるのです!」

 おし、この調子なら問題なさそうだな。

 何だったらこいつ等にはルールを破ることの背徳感と楽しさを知ってもらいたいしな。

 「お前らも早くやりたいだろうし、今日の検診は終了、解散!」

 「「ありがとうございましたー!」」

 挨拶するや否や、今までに見たことのない速さでベットへと戻りStardustにログインする双子。

 やっぱりこいつ等に足りないのは色だったかと、その姿を見てそう思った。

 俺が唯一渡せなかった物だと。そう、思った。



 Side 玲


 夜でもStardustにログインすることを許されたので早速ログインしました。

 午後6時に先生との検診が始まって、丁度一時間くらい経ってログインしたので、Stardust内は夜の9時になっていました。

 やっぱりこの時間帯もプレイヤーのマークが沢山ありますね。

 でも、そんなことよりも僕達が目を奪われたのは、空に輝く星空でした。

 まず、空が黒じゃないんです。

 もっと深い……私達が見てきた黒とは全く違う、本当の黒が広がっているんです。

 そして、それを悉く塗りつぶしていく星の光。

 バビさんからもらった羊皮紙は、持っているだけで視界の横にあの板で表示してくれるらしく、『赤』や『青』といった星に宿る光の色を教えてくれました。

 その光が、全てを等しく照らしているのです。

 ここに来てから感動してばかりです。

 本当に、ここを勧めてくれた先生には感謝しないといけません。

 元から感謝はいつもしているんですけどね?

 「どこに行きましょうか」

 と考えては見ましたが、レベルがまだ7にしかなっていないし、インベントリの中で休眠状態になっているらしいレオトポリーに至ってはまだレベル1なので、南門からアリアドネーの草原に行くしか無いんですよね……

 「夜の狩りの時間なのでーす!」

 僕よりもちょっとだけテンションの高い澪を連れて、星のスポットライトに照らされた大通りを進んで草原へ向かうのでした。




 さて、草原までやって来ましたけど……相変わらず黒狼ですね。

 太陽が出ていた昼の活気とは一変して、柔らかい月の光に照らされて、草の緑が薄く光って幻想的です。

 その上に、星の光で見え辛くなった黒狼がちらほらといます。 

 「でも、目が赤く光っているから分かりやすいですね」

 逆に言えば、それくらいしか目印が無いので実質的に弓は頭しか狙えない事になってしまいますね。

 でも、それくらいなら。

 「重弓ヘヴィショット

 キュインッ!「ギャッ……!?」

 朝昼にやっていたことと同じです。

 

 (肉:一般を手に入れました。インベントリに保管します)

 (経験値3を獲得しました)

 (レオ・ポリーのレベルが6に上がりました。ステータスポイントを付与します)

 (レベルが10に上がりました。ボーナスポイントを付与します)

 そのまま僕達は、昼よりも少し少ないくらいの、大体79匹くらいの黒狼を狩りました。

 「これくらいで止めないと、またあいつが来ちゃうから止めないとだね、町に戻ろう」

 「ねぇねぇ玲、あそこで休憩してみない?」

 沢山の色が混ざった色だという虹色のポリゴンが散らばり、霧散していく中で帰ろうとすると、澪が引き止めてきました。

 その指が指す先には、草原の中に一本だけ立っている大きな木がありました。

 「良いね。さっき狼も倒したし安全だろうし休憩しようか」

 僕達はその木の側まで近づいてみました。

 その木は、近づけば近づくほど大きくなっていくように感じました。

 木肌に触れてみると、とてもガサガサとした触り心地で、上の星の光で柔らかな色合いになっている葉っぱと対比するように乾いていました。

 だからどうというわけではありませんが、何だか寂しくなってしまいました。

 こういう時は、澪とハグしながら眠るに限るのです。

 木の根元に横になって地面に浮き出た根を枕にして、ニコニコと笑っている澪と抱き合って目を閉じます。

 あぁ、澪はこの世界でも温かいです。

 天蓋に星の光を、抱き枕にそれぞれの身体を携えて、僕達は更に深い眠りへと沈んでいきました。


 「ヴォッフォッフ」

 

 あれ……?なんで狼のこえが……

 意識はそこで切れました。



 (状態異常:眠りの揺り籠になりました。自然解除まで残り3時間です)

 (スキル:安眠を獲得しました)

 (称号タイトル:安息なる眠りを獲得しました)






 

 



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 明日も投稿しますぜ……へっへっへ…… 

 

 







  

 

 






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