Side Leda  水を貯める甕

Side レダ

 


 俺は、女が嫌いだ。

 女は誰だって簡単に裏切る。

 ずっと幼馴染だったあいつも、あの時何のためらいもなく裏切った。


 「○○君のお金を奪ったのはあなたですね?陽介君?」

 「は?麗奈先生、なんで俺だと思って―――」

 「あなたの幼馴染が教えてくれたんですよ。比奈ちゃん

 呆然とした。

 今となってはあいつ幼馴染が情報源ということが一番ショックだが、当時はそれ以上に目の前に立っていた女教師が担当の生徒の名前すら憶えていないということにショックを受けていたっけな。

 でも俺は耐えた。だって、俺の親父おやじが『男は耐え忍ぶもんだ』って言っていたから。

 その所為せいで大学に進学するまでずっと一人だったな。

 まぁ、あんまり悲しくもなかったな。

 悲しんでも、見てくれる人がいなかったから。


 俺は、親が嫌いだ。

 俺は本当の母親を知らない。

 物心つく頃には、もういなかったから。

 俺は親父の爺さんと婆さんが殆ど親代わりだった。

 親父は何というか……今思い出せば、仕事して帰ってきてパソコン触ってってそれくらいしかしていなかったな。

 でも、子供の頃の俺はそんな親父にいつもついて行っていた。

 たまにどっかに出かけて歳を重ねる。

 そんくらいでよかったんだけどな。

 俺が中学に上がった頃、義母がやって来た。

 あの人は、親父と仲が良くて、俺に抱擁をして『家族になろうね』なんて言ってきたんだ。

 そして俺はあの人達について行って爺さん婆さんと離れる選択をした。

 ……心の中では“普通の家庭”を望んでいたんだろうな。

 今じゃ誰とも関わりたくないとしか思えないんだがな。

 始めは楽しく生活できていても、段々とそれぞれの欠点ばかり目につくようになっていった。

 俺はなるべく二人の仲を取り持つために頑張ったさ。

 

 義母の家事の手伝いをした。

 余計なことをするなと怒られた。

 その後何か月か経って、義母から『あんた達は手伝いもできないのか』と罵られた。

 僕は不満も言わずにただ耐えた。


 親父が給料の半分をギャンブルに使っていた。

 『には黙っていろ』と言われた。

 僕は耐えた。

 

 両親が口も利かなくなった。

 俺は自分でバイトをして食い扶持を稼いだ。

 成績は最下位まで落ちた。

 僕は耐えた。

 

 義母に『お前なんか家族でもなんでもない』と言われた。

 僕は耐えた。


 親父が義母を殴った。

 部屋でその一部始終を聞いていた。

 僕は耐えた。

 

 爺さんが死んだと連絡がきた。

 あいつらは、葬式に行こうともしなかった。

 だから、バ先の先輩にお金を借りて、一人で行った。

 俺を見た婆さんが泣いた。

 僕は耐えた。

 

 帰ってくると親父と義母は別々の場所で酒を飲んでいた。

 僕は耐えた。


 警察に電話した。

 当事者を警察署まで連れてこいだってさ。

 僕は絶えた。


 義母を刺し殺した。

 俺は壊れた。


 婆さんが死んだ。

 俺は泣いた。


 その後の事は知らない。

 ずっと病院に居るからな。

 ただ、あの義母カスは生きているらしい。

 まぁ、もういい。

 精神が正常になったらここを出れるらしいから、そうしたら義母をもう一度刺しに行こうと思う。

 そしたら親父も刺し殺して。

 全部終わりにしようと思う。

 



 病院でつまらない日々を過ごしていると、チャラそうな医者がやってきて“ゲームをやってみないか”なんて言ってきやがった。

 断ろうかと思ったが、そのゲームでは殺人をしてもいいらしい。

 あいつらを殺すための練習ににおあつらえ向きだ。

 そんな訳で、俺は“Stardust Online”に参加することにした。

 (Stardust Onlineへようこそ)

 (ゲーム内での名前、スキル、ステータスを設定してください。尚、外見はプレイヤーの目の前にある鏡で参照、調節が可能となっています。)

 何でもいい。

 人を殺すことさえできれば。

 (オートに設定しました。プレイヤー名を設定してください。)

 レダだ。

 (プレイヤー名をレダに設定しました。)

 “それでは善き旅を、星屑の流れ者達よ”

 俺はレダとなって、PKをするようになった。

 

 

 俺は、女と親と人が嫌いだ。

 でも、子供だけは嫌いになれなかった。

 「おどりゃ何しとんじゃァァァ⁉」

 「ギャイン⁉」

 子供はまだ染まっていないからな。

 大人というゴミ屑の色に。

 









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 水瓶座……その男は水を貯め続けました。

      いつか来る豊穣ほうじょうの雨を降らせるために。

      でもそのかめの器は有限です。

      無限を求められ貯めこまれた水は。

      有限の器に入りきることなく。

      溢れた水は男の身を焦がし続けました。

      ぐずぐずにどろどろに、男は水に溶けていきます。

      それでも男は甕を持ちます。

      いつか来る豊穣の雨を降らせるために。


 

 


 

 

 

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