第二話  蟹の目から溢れる世界 

side みお


 少しの浮遊感と脱力感。

 ほんの数瞬のそれを過ぎると、足元の感触が変わっていることに気付いたのです。

 その感触に驚く間もなく、嗅いだことのない不思議な……けれど、何処か悪くないと思える匂いが鼻腔を刺激します。

 そして、最後に視界が戻ってきました___________________________________________________きれい……。

 私達は、目の瞳孔すら動かせなかったのです。

 本当に、本当にきれいなのです。

 いつか何かの図鑑で見たヨーロッパ風の建築に似た建物には、白と黒の陰影だけではない、様々な色が使われていて、目を細めてしまうほどにきれいなのです。

 足元の土も本で見た灰色ではなく、表現できない……茶色だったっけ、そんな色が人の隙間に埋まっていっているのです。

 上を見れば、青色が、私達が字面で一番好きだと思っていた色が見渡す限りに広がっているのです。

 ……あんま好きではないのです。

 「あの子達かわいいなー」

 「どっちも真っ白で似てるし双子かな?」

 「ねー、ビックリするほど似てるのなー」

 周りの声も視線も気にならないほどに集中していると、私達の後ろから、肩に手を置かれたのです。

 「よっすお二人さん、楽しんでるゥ?」

 「「先生!」」

 「おう、お前らの主治医さんですよい」

 私達の担当医の先生が現実の見た目そっくりそのままそこにいたのです。

 ……なんかすっごい気持ちの悪い色の服を着ているのです。



side 先生

 

 あいつらは、可哀そうな奴等だと思った。

 物心すらない赤子の頃に両親に捨てられ、この病院に保護された。

 ……いや、保護じゃなくてか。

 医療の発展に伴って、この世界の倫理観はぶっ壊れた。

 ヤクの臨床試験に、モルモットとか猿ではなく障害を持った子供必要ない同族を使うようになった。

 本当に救えない。

 だからこそ、俺はあいつらを実験対象にした。

 俺の研究は薬を使わない物だ。

 実験に参加するテスターさえあればできるものだ。

 場所も作ってもらった。

 Stardust Online

 俺の実験場であり、あいつらにとっての救い。

 医者人間非人類に「救い」を求めるってのも皮肉ではあるんだがなぁ。

 あいつら笑うとかわいいんだよ。

 救わなきゃって思うんだわ。

 まぁ、何はともあれ、あいつらの前では精々おちゃらけてみましょうかね。

 ……あいつら笑ってくれるかなぁ?

 

 










____________________________________   

 VRMMO要素は次回から本格的に。ここまでは世界観的な稚拙ちせつなナニカです。

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