第1章 春と誓い
大会が始まる前日。朝練習を軽く終えて、私はグラウンドを見る。
今日はいつもより早く終わったのでもしかしたらと思ったのだったが、案の定グラウンドを歩いている利斗君を見つけた。そして私は、利斗君の元に駆け寄ったのだった。
「利斗君、おはよう」
「あぁ」
「いよいよ大会が始まるんだよ」
「そうだな」
「明日は個人戦」
「その話、昨日もしてたぞ」
「あ、ごめん。…悔いのないように大会頑張ってくるね」
「あぁ。……頑張れよ」
「……もう1回言ってほしいな」
彼はもう一度言ってくれることはなかった。利斗君にそう言ってもらえて、とても嬉しかった。一度だけでも「頑張れ」と言ってくれた瞬間のことを、忘れることはないだろう。
もし試合中に諦めそうになったりした時は、利斗が言ってくれた時のことを思い出そう、そう思ったのだった。
私は利斗君と分かれた後、部室に向かい、澪夏を待たせないように急いで着替える。部室の中でも、大会の話で持ちきりだった。みんな試合に応援に、やる気十分のように感じた。
今日も何事もなく、授業が終わって放課後部活に行く。何も疑いもせずに、そう思っていた。
「彩葉、教室戻ろう」
「うん!」
「あー、お腹空いた」
「今日お弁当じゃないから、購買行ってもいい?」
「いいよ。私も自販機で飲み物買おうかな」
「私も買う。付き添ってくれるお礼に、今日は奢るよ」
「ほんとに?ありがとう。それじゃあ今度の時は、私が奢るから」
4時間目は体育の授業だったため、更衣室で着替えた後に教室へと戻る。教室に戻ると、利斗君は既に教室に戻ってきていたようだった。
利斗君にお昼を買いに行くことを伝え、私は澪夏に付き添ってもらい、財布を手にして購買に向かったのだった。
「あ、こんにちは」
「こんにちは」
歩いていると、部活動の後輩2人と廊下で会った。彼女達は2年生で、2人も購買に向かうとのことだったので、一緒に行くこととなった。私も後輩達とは普通に話したりはするが、特に澪夏は後輩から相談を受けたりすることもあるので、2人とも仲がよかった。
昼休みの廊下は、購買に行く人や自販機に行く人など、多くの生徒で賑わっている。
私と澪夏が前を歩き、その後ろを後輩達が歩いていて、そのまま階段を下りる。私が澪夏の右側を歩いていたので、上がってくる人とすれ違う側だった。
階段を下がり始めるのと同時に、前から4人の男子生徒達が歩いてくるのが見えた。彼らも話に夢中で、話が盛り上がっているようだった。
彼らのことは、見たことがある。秀君と同じバスケットボール部で、1年生だ。秀君を昼休みに見に行った時に、体育館で見かけたことはあったが、挨拶もしたことはまだなかった。秀君を見に行ったからといって、1年生の彼らが必ずいるとは限らないので、見かけたことがあるのもまだ2回くらいだ。
バスケットボール部の2、3年生とは話をしたり、廊下で会えば挨拶もするが、1年生とはまだ言葉を交わしたことがないので、顔を見たことがある程度だった。
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