第1章 春と誓い
それからはいつも通りの日常が続いた。変わったことがあるとすれば、利斗君から貰ったペンケースとシャープペンシルを使い始めたこと。
まだ自分の思いが晴れたわけではないが、日常は止まってはくれずに過ぎていくのみ。普通の日々が、1日1日と終わっていく。
「大会まであと3日。今日もしっかりやっていこう!」
澪夏の掛け声と共に、全員で声を出す。
負けたら引退が決まってしまう、最後の大会。
澪夏と2人で出る最後の大会なのだから、悔いが残るようなことはしたくない。
準備運動も終わり、それぞれ次の準備をしていると、利斗君がグラウンドを歩いているのを見つけた。
テニスコートはグラウンドのすぐ横にあるので、帰る生徒達の姿がよく見える。利斗君を見つける時もあるし、私も部活に集中していて見つけられない時もあるが、今日はタイミングもあったおかげで、見つけることができた。
私は心の中で「利斗君、また明日ね」と呟く。彼がこちらを見ることはないけれど、私は彼のことを見れただけで、部活を頑張れる、そんな気になれるのだった。
そのおかげもあってか、今日の部活で行った練習試合では、全て勝利することができた。
「彩葉、調子いいじゃん!」
「ありがとう」
「彩葉が調子いいのは利斗君のおかげか。準備運動終わった後、帰るところ見てたし」
「ごめん、部活に集中してないわけじゃないよ」
「分かってる。練習中だったらともかく、あの時は彩葉は準備終わってたわけだし、許す」
「ありがとう、キャプテン」
「彩葉、大会頑張ろう」
「もちろん!」
大会が終わって引退した後に、後輩達が引退試合を開いてくれるが、それが終わればこのコートに来ることもなくなるだろう。
今までのことを思い出すと、部活に行きたくない日ももちろんあった。1,2年生の時は、先輩達に怒られた後は、特にそうだった。
しかし、コートから利斗君を見つけることができた日は嬉しかった。それは朝練習でも同じことで、練習中に見つけられたら教室に行った後に話すこともあったし、朝練習が終わった後に彼を見つけられたら、彼の元に走って向かったこともあった。その時は早く会えたことが嬉しくて、利斗君には関係のない朝練習の私の話だけを、1人でぺらぺらと喋ってしまっていた。利斗君にとってはうるさかったかもしれないが、私の話が終わるまでその場を動かずに聞いてくれていた。
大会は、澪夏のためにも自分のためにももちろん頑張る。でもそれだけではなくて、利斗君にいい報告ができればいい、そういう意味でも私は、大会を頑張ろうと改めて思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます