第1章 春と誓い

「彩葉の気にしすぎだよ。でもまあ、そのくらい利斗君を思ってるってことでもあるのかな」

私達はダイニングテーブルの椅子に座り、話しを続ける。

「あの日教室にいたのは、彩葉だった。その上で、利斗君は声をかけてくれた。それだけが事実。それでいいと思うけど」

「…分かってる。過去は変わるはずがないんだから、今だけ見ればいいって。…本当は不安なんだよね。声をかけてくれなかったら、今どうなっているんだろうって」

もし過去が違くて、利斗君が声をかけてくれなかったら、今の私達はないのかもしれない。そうなれば、私達はただの隣の席の人。

私は彼に恋をして、いろんなことが変わった。誕生日だって、また好きになれた。…人生がまた、楽しいと思えた。

「もしあの日、彩葉が教室にいなかったとして、利斗君を好きになってた可能性もあるでしょ。こういう時は、利斗君の好きなところを考えてみればいいんじゃない?そうすれば、利斗君のこと、違うきっかけで好きになった可能性があったかもって思えるよ」

それから私達は2人で30分くらい話をし、そうしているうちに澪夏の家族も帰ってきたので、私はお礼をしてお暇することにした。

澪夏に言われたことを考えながら、帰り道を歩く。

利斗君の好きなところ…。

なんだかんだ優しいところ、頭がいいところ、勉強したり読書したりしている時の横顔がかっこいいところ…、その他にも沢山ある。

もし違うきっかけがあったとして、それはどういったものだったのだろうか。

人から見れば私が今考えていることは考えなくてもいいことで、考えるだけ無駄だと思う人もいることだろう。

それはもちろん、自分でも分かっている。でも私は、考えざるおえないのだ。

過去がどうであっても、利斗君のことを絶対好きになってる保証がほしい。そうでなければ私は…。

結局それは、自分を自分で満足させたいだけの自分勝手なことでもある。利斗君を好きになって人生が変わった私の今は、過去がどうであれ必ず今の通りであってほしい、そう思うのは私の身勝手な気持ちなのだ。

片思いは楽しいというけれど、楽しいことばかりではない。片思いが楽しいというのは、ただの綺麗事のように思えてしまう。片思いだって楽しいこと以外にも、考えて、悩んで、落ち込んでしまう時だってある。

歩いているとスマートフォンの通知音が鳴り、私は止まってスマートフォンを開いた。

「ケーキ買っていくけど、何がいい?」

送り主は、母だった。

私は「ごめん、今日はもう食べたから大丈夫だよ」と、返信をする。

「じゃあ、何か食べたいものは?」

「お母さんが好きなものでいいんだよ」

それ以降は、通知が鳴ることはなかった。

私は再び歩き始めたが、頭の中は彼のことでいっぱいだった。

2年前のこと、利斗君に聞こうとしなければよかったのかもしれない。気になったままでいればよかったのかもしれない。つい利斗君の答えを知りたくて聞いてしまい、私は勝手に考え込んでしまっているのだから。

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