第1章 春と誓い

「……一ノ瀬、お願いはどうするんだ?」

私が中々お願いを言わないためか、彼の方からそう言ってくれた。しかし、私は考えても思い浮かぶことはなかった。

「……思いつかないし2人には悪いけど、何か適当にやったことにしようか」

「何かないのか?」

「珍しいね。いつもの利斗君なら「そうか」で終わらせちゃいそうなのに」

「…誕生日の日くらいはな。可能な限りは何か言ってくれ。やってほしいことじゃなくても、聞きたいこととか、後は今に限ったことじゃなくてもいいだろ」

聞きたいこと…。利斗君からそう言ってもらえて、私はやってほしいことではなく、気になっていることを聞いてみようと思った。

「……利斗君、気になってること聞いてもいい?」

「あぁ」

「2年前の私の誕生日の日、教室で話しかけてくれたでしょ?それまで必要最低限しか私達会話したことなかったし、挨拶もしたことなかったのに、どうして声かけてくれたのかなって思って…。あ、覚えてなかったらいいんだけどね」

あの日のことは、私にとっては大切な日になったわけだが、利斗君にとってはただの1日にしか過ぎないだろう。それなら覚えていなくても、おかしいことではない。

「今更だな」

「そうだよね、ごめんね。やっぱり大丈夫だよ!」

私は紙コップに注いである飲み物を一口飲む。喉が特に乾いていたわけではないが、気まずくなりそうだったので、つい飲み物に自然と手がいってしまったのだった。

「……放課後ため息ついてたろ。それに悲しそうな表情してたから、ついな」

確かにあの時は…、私は誕生日が嫌いだった。今では誕生日は利斗君を気になったきっかけの日でもあるし、利斗君に「おめでとう」と言ってもらえるおかげで、その思いは消えている。

2年前は昼間にみんなにおめでとうと言ってもらえて、笑顔でお礼は言ったのだが、心からは喜べなくて、内心みんなに申し訳なかった。その思いもあって、色々考え込んでしまっていたのだった。

「誕生日パーティーに誘った日もだったけど、私がため息ついてたら気になるの?」

「…さあな」

利斗君に気にかけてもらえたことは、もちろん嬉しい。でも私は、つい口に出してしまった。

「…じゃあもし、2年前教室でため息をついてたり、そんな表情してたのが他の子でも、声かけてた?」

「そうかもな」

あの日、教室にいたのが私じゃなくて別の誰かで、その人が私と同じようにしていたら、利斗君はその子に声をかけていただろう。

利斗君は、「一ノ瀬 彩葉」ではなく、「ため息をついている、悲しそうな表情のクラスメイト」に声をかけただけに過ぎない。

そしてあの日が誕生日でなければ、同じことは起こっていなかった。あの日のため息とその表情は、誕生日だったから間違いなくあったものだ。もし、誕生日ではない日に教室で2人きりになったとしても、声をかけてはくれなかっただろう。

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