第1章 春と誓い
「…一ノ瀬、嫌だったら使わなくていい」
「ううん、使うよ!ペンケースもシャーペンも!本当にありがとう」
利斗君から誕生日プレゼントを貰える日が来るなんて、思ってもみなかったことだ。物で心が満たされる、そのような感覚だった。
今度は私が、利斗君の誕生日にあげる番だ。彼の誕生日は秋なのでまだ先のことではあるが、考えるだけでも楽しみだった。
その後は4人でトランプをして楽しんだ。神経衰弱をしても大富豪をしても、利斗君は頭が良くて一人勝ちだったのだが、ババ抜きになった瞬間それは変わった。
しかもババ抜きをする前に、1位の人は最下位の人に何か1つ、お願いできるというルールが加わった。そしてなんと私は順調にいき、1位を取ることができたのだった。
後は3人の行方を見守る。利斗君が負けるはずないよなと、私はそんなことを思いながら見ていた。
私の次に澪夏が上がり、私達はハイタッチを交わす。
そして利斗君と秀君の一騎打ちになり、なんと利斗君が負けたのだった。
「利斗君でも負けることあるんだ…」
「あるに決まってるだろ」
「新鮮すぎてびっくりだよ」
「驚かせて悪かったな」
最初は利斗君に会えることを緊張していたが、今はもう慣れてただ純粋に楽しめている。私服の彼に慣れたきたのもあるが、今日という日は今日しかないのだから、緊張ばかりしていてはもったいないと思ったら、自然とほぐれていったのだった。
「じゃあ1位の彩葉が、利斗君にお願い聞いてもらうということで」
私はその事をすっかり忘れていて、澪夏の言葉で思い出したのだった。
「彩葉ちゃんが1位というのもめでたいな」
「ほんとに。…彩葉のお願いも気になるけど、私と秀はちょっと出てくるから、2人で進めておいて」
「え?どこ行くの?」
「ケーキ頼んでおいたから取ってくる。2人は待ってて」
そう言って澪夏と秀君は立ち上がり、部屋を出ていく。部屋を出ていく前に、澪夏が私に向かって軽く頷いたのが分かった。
ドアが閉まる音がした後、私達の間には沈黙が流れた。いきなりでこの状況、どうすればいいのか分からなかったが、ずっと沈黙というわけにもいかないので、彼に思い切って声をかけてみることにした。
「……今日は来てくれてありがとね」
「あぁ」
「……」
再び沈黙に戻ってしまう。
澪夏と秀君はどちらにせよ、私達を2人にしようと2人でケーキを取りに行こうとしていたのだろう。私のためにやってくれたこと。2人が作ってくれたこの時間を、無駄にしたくはない。
私は、自分に落ち着くように言い聞かせる。
「……えっと…、…利斗君はお菓子は食べないって言ってたし、ケーキも食べないの?」
「いや、年に3回は食べる」
「3回?」
「俺の誕生日と母親の誕生日と、クリスマスの日だ。俺はいいって言うんだが、母親が買ってくるからな」
「そうなんだね」
利斗君は母親と2人で暮らしていると、話の成り行きだったが、前に聞いたことがあった。
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