第1章 春と誓い
澪夏と話しているとインターホンが鳴り、2人が来たのだと分かる。私は部屋に残り、澪夏は2人を迎えに行った。
下からの話し声が聞こえ、その後階段を登ってくる足音が聞こえ始める。足音は部屋の前で止まり、ドアが開いた途端に大きな音が鳴った。
「彩葉、誕生日おめでとう!」「彩葉ちゃん、誕生日おめでとう!」
部屋に入ると同時に、3人でクラッカーを鳴らしてくれていた。私は驚いたが、それよりも嬉しさの方が勝り、自然と笑みが溢れる。
「ありがとう!」
澪夏が私の向かえ側に座り、その隣に秀君が座る。そうなると利斗君の座る場所は、私の隣だった。
教室でも隣の席だが、教室では席と席の間が空いている。しかし今日は同じテーブルに、しかも隣に利斗君が座るのだ。平常心を保たなければと、私は自分に言い聞かせる。
「一ノ瀬」
利斗君の方を見ると、いつもとは違った格好の彼が隣に座った。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう、利斗君」
利斗君に話したいことは沢山ある。
「来てくれてありがとう」「私服、似合ってるね」「休日に会うの新鮮だよね」
頭には色々浮かんでいるのだけれど、言葉が出てこなかった。せっかく休日に会えているのだから、色々話したいのに…。
そう思いながらも、澪夏が下に飲み物を取りに行ってくれているその間に、私達はお菓子を広げて準備をしていく。
「さ、彩葉の誕生日パーティーを始めますか」
「まずはプレゼント渡しちゃおうぜ」
そう言って渡してくれたのは2人からのプレゼントで、開けてみるとそこにはポーチが入っていた。薄いピンクのポーチの中にも何か入っているようで、ポーチの中を開けると、私が好きなブランドのアイシャドウとチークが入っていたのだった。
私は2人にお礼を伝える。ポーチもコスメも、私の好みのもので、見ているだけで笑顔になれるようなものだった。
「……じゃあ次は利斗君、どうぞ」
「え?」
私が2人からのプレゼントを眺めていると、澪夏が彼に向けてそう言っていた。
横を見ると、利斗君は自分のショルダーバッグから物を取り出しているようだった。
澪夏とは毎年お互いの誕生日になれば、プレゼントを渡しあう。去年からは、澪夏と秀君の2人からということで、プレゼントを貰うようになった。なのでお返しにと、秀君の誕生日にもプレゼントを渡すようになった。
しかし、利斗君からは何かを貰ったり、利斗君に何かをあげたりという経験はなかった。
彼は、私に綺麗に包装されたものを手渡そうとしてくれていた。手が震えないか、そのことが心配だった。
「気に入らなければ使わなくていいからな」
私はお礼を伝え、中を開ける。中は、おしゃれなペンケースだった。
「ペンケース…。ちょうど新しいのに変えようとしてて、まだ買ってなかったの」
「あぁ」
「利斗君、知ってたみたい。私と彩葉が話してるの聞いてたって。実は昨日さ、利斗君も一緒に買い物行ったんだ」
「そうなの!?」
2人が利斗君のことも誘い、昨日3人で買い物に行ったらしく、そこでプレゼントも選んでくれたとのことだった。私がペンケースを変えたいという些細な話を澪夏としていて、その会話を聞いて覚えていてくれた、その事実が私は嬉しかった。
そしてペンケースの中には、シャープペンシルが1本入っていた。これは、ただのシャープペンシルではない。利斗君がよく使っているものだった。
「利斗君が待っているシャーペンの色違い…」
「西谷と佐々本が同じシャーペンにしろってうるさくてな」
「私達みたいに中に何かいれて渡そうとしてたみたいだから、せっかくなんだし同じシャーペンにしたら?って数回言っただけじゃん」
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