第1章 春と誓い
「……分かった」
断られると思っていたが、利斗君が発した言葉は、私の待っていたものとは全く違った。
「え?……分かったって来てくれるの?」
「あぁ」
「ため息ついてた私が言うのもなんだけど、ため息ついてて同情したとかだったら、無理しなくていいんだよ?私が利斗君に、中々声かけられなくてついため息が…」
「そういうわけではないから気にするな」
「本当に?」
「あぁ。詳細決まったら教えてくれ」
利斗君はそう言って教室を後にする。私は時が止まったかのような感覚に陥った。
利斗君が来てくれる?休みの日にも会える?夢…ではないのだが、夢のような気分だった。
教室を出て利斗君にすぐに追いついた私は、利斗君の隣を歩く。中々言えずに悩んでいた時間より、誘って返事をもらえた時間の方が遥かに短い。一瞬の出来事は、私の気持ちをふわつかせていた。
「ごめんね、気にかけてくれたのにこんなくだらないことで」
「人の悩みにくだらないなんてこと、あるわけないだろ」
「…ありがとう」
彼が迷わずに真っ直ぐに言ってくれる言葉が、
頭の中から離れなかった。
こうして利斗君の隣を友達として歩けるだけでも嬉しいが、いつか恋人として歩ける未来は来るのだろうか。
来年になったら私達は高校を卒業して、大学生という次のステップに進む。私達は希望の大学が違うため、振られてしまったら会うことも少なくなるだろう。
振られてしまったその時は、私は利斗君のことを諦める、そのつもりだ。
最後の告白の日が来てほしいような、来てほしくないような、複雑な思いだった。
だけど、誕生日パーティーはもちろん早く来てほしいに決まっている。それまでに美容室に行って、新しい服でも買っておこう。早く当日になってほしいが、当日までの準備も楽しみだった。
「利斗君、楽しみにしてるね」
「あぁ」
「利斗君は、お菓子食べないんだよね。好きな飲み物はある?」
「飲み物は、基本お茶だ」
お菓子を食べないというのをなぜ知っているのかと言うと、前にバレンタインデーの日にあげてもいいのかどうか気になり、普段お菓子を食べるかどうか聞いたことがあるからだった。
しかし、基本食べないということだったので、あげても迷惑だと思い、バレンタインデーもあげたことはなかった。
飲み物の話は、初めて聞いた。些細なことでも利斗君のことを1つ1つ知れていくのが、私は嬉しい。彼のことは、どんなに些細なことでも知りたいと思ってしまう。
教室に戻った後、私もプリントを配るのを手伝おうとしたのだが、「1人で配るからいい」と言われ、私の手から彼はプリントを持っていった。
私は澪夏に、利斗君も来てくれることになったと連絡を入れた。そしたらすぐに「よかったじゃん!待って、すぐ戻る!」と、返事がくる。
今日は利斗君が隣の席と言ってくれて、利斗君が心配してくれて、利斗君が誕生日パーティーに来てくれることが決まって、嬉しいことがたくさんある、そんな日になったのだった。
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