第1章 春と誓い

しかし職員室に向かう間は、結局誕生日パーティーのことを話せずに終わった。今日は諦めて明日以降にしてしまうと、それでは先延ばしになってしまうだけだと思っているので、今日中には話そうと考えてはいた。しかし、教室に向かうまでに話せなかったら、今日は話せない気がしたので、教室に着くまでには絶対に話そうと、心に誓ったのだった。

5時間目の授業は担任である、浦辺先生の現代文の授業だった。デスクに座って作業をしている先生に声をかける。

「大村にはプリントを取りに来いとは言ったが、なんで一ノ瀬までついて来たんだ?」

先生に頼まれた物は、授業前にあらかじめ配っておいてほしいプリントのみだった。利斗君は、頼まれる物がプリントだということを分かっていたようだった。1人に2種類ずつ配るその紙は、1人でも普通に持てる。

「俺が頼みました」

「そうなのか?俺はてっきり一ノ瀬が無理について来たのかと思ったぞ。まあいい。プリント配っておいてくれ」

「はい」

私達は1人でも余裕で持てるプリントを、1種類ずつ手にした。先生に一礼をし、職員室を後にしようとしたのだったが…。

「一ノ瀬」

先生に呼ばれて、私は足を止め振り返る。利斗君も一瞬止まったが、「先に行ってる」と言い、職員室を出て行ってしまった。

「いつでもいいから、何かあったら隠さずにすぐに話せよ」

「…ありがとうございます」

「1人で抱えてても、自分を苦しめるだけだからな。頼れるものは頼れ。少なくとも俺は、教師としてお前の力になってやりたい」

「…じゃあ、どうしたら恋が上手くいきますか?」

「そっちは自分でなんとかしろ」

「酷い!何か言ってくれてもいいじゃないですか!」

「ま、恋愛の方はせいぜい自分で頑張るんだな」

私は先生との話を終え、職員室を出ようとドアに手をかけた。彼に追いつくために急がないといけないと思ったのだったが、私は思いがけない姿を目にする。

職員室を出ると、利斗君が入り口の横に立って待っていてくれたのだった。先に行ったと思っていたのに、彼がその場にいたのが目に入った瞬間、胸が高鳴った。

「待っててくれたんだね」

「俺から手伝いを頼んでおいて、先に戻るわけないだろ。行くぞ」

「うん。待たせてごめんね」

先生の言葉が、私の中に残っていた。「頼れるものは頼れ」という先生の言葉。それができたら、少しは楽になるのだろうか。

澪夏にだって話していない私のこと…。このことは、絶対に秘密にしておきたいわけではない。話す決心がつかないし、心配をかけたくないだけだ。

いつかこの事を話す時は、来るのだろうか。その日が来るのであれば、その時澪夏はどう思うのだろう。

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