第1章 春と誓い

お昼はいつも、澪夏が私の席の方まで来てくれる。秀君はその日によって、一緒に食べたり食べなかったり。私の後ろの席の子も移動して食べるため、澪夏がその子の席を借り、私は自分の机を後ろの席に密着させてお弁当を食べていた。

彼とは席を密着させているわけではないが、隣で食べているわけなので、一緒に食べている…と言ってもいいだろう。

秀君は昼休みにバスケットボールをしに行く日があるので、その場合は同じ部活動の子達と一緒に部室に行って食べて、そのままバスケットボールをしている。今日は、そんな日だった。

「私、食べ終わったら秀を見に行くけど彩葉も一緒に行く?」

「ごめん、ちょっと用事が…」

「用事?」

私は利斗君の方をちらっと見る。利斗君のお弁当は今日もバランスがよくて、色のバランスも綺麗だった。前に聞いたことがあるのだが、お母さんが料理上手らしい。

用事と言って彼の方を見た私を、澪夏は不思議に思ったようだった。

「え?なに?」

「えっとね、利斗君に手伝い頼まれたんだ」

「利斗君、そうなの?」

「あぁ」

利斗君の返事を聞くとすぐに、澪夏はにやついていた。

「へぇ〜、そうなんだ。ちなみになんで彩葉なわけ?」

「…」

「おーい、聞こえてる?」

「澪夏、やめなよ」

私はそう言いながらも、利斗君の答えを知りたいと思ってしまっていた。

手伝いを頼むのであれば私ではなく、他の生徒でもいいはずだ。前に比べれば、利斗君が他のクラスメイトと話しているのを見ることも増えた。向こうから声をかけてくるのが9割ではあるが、利斗君も話しかけられれば言葉を返している。

「何か理由があるんでしょ?」

理由を聞きたい気持ちを持ったまま、彼に諦めずに理由を聞く澪夏を、止めようと私はしていた。

「澪夏、利斗君困って…」

「…一ノ瀬は、隣の席だからな」

「利斗君困ってるよ」と私が言い切る前に、利斗君の声が私の言葉を遮る。

隣の席…。利斗君にはっきりそう言われたのは、初めてのことだった。隣の席というのは事実を言ったに過ぎないのだが、利斗君からその言葉を言われて、私は嬉しかった。

「なるほど。確かに2人は3年間も隣の席なわけだし、頼むのは当たり前か」

澪夏は「3年間」を強調して話していた。

「……そうだな」

利斗君が認めた…。いや、事実を認めただけなのだが、彼が認めただけでも私は顔が熱くなってしまう。

「じゃあ隣の席同士、いってらっしゃい」

澪夏はそう言うとスマートフォンを持ち、メッセージを打っているようだった。すぐに私のスマートフォンに通知がきたが、画面を見なくても澪夏からだと分かる。

「チャンスじゃん」とメッセージがきていて、「頑張るね。ありがとう」と、私は返したのだった。



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