第1章 春と誓い

そして週が明け、誕生日パーティーのことを利斗君に話そうと思ったのだが、タイミングが掴めずにいた。

秀君には澪夏が話してくれて、秀君も参加したいと言ってくれたらしい。今日秀君が、「利斗君に話すの協力しようか?」と、私に言ってくれたのだが、私が自分の力だけで話してみたかったので、ありがたいことだったがその提案は断った。

連絡先は知っているので、家に帰ってからスマートフォンでメッセージを送ることもできるのだが、スマートフォンでやり取りをしたことがないために、それはそれでハードルが高かった。

「利斗君ちょっといい?」と声をかけて、話せばいいだけなのだが、私にはそれが簡単にできずにいた。

「……はぁ」

私はどうしたものかと、自分の席でため息をついてしまった。

「一ノ瀬」

利斗君に呼ばれて利斗君の方を見ると、本を広げたままこちらを見ている姿が目に映った。どうしたのだろうと私は思ったのだが、つい先程、ため息をついてしまったことにすぐに気づいた。

「ごめんね、ため息うるさかったよね…」

「いや、そうじゃない。昼休み、お昼食べた後でいいから、手伝って欲しいことがあるんだ。一緒に来てくれないか?」

「手伝って欲しいこと?」

「5時間目に使う物を昼休みに取りに来て欲しいと、先生に頼まれたんだ」

どうして日直でもない利斗君が?と思い、彼に聞くと、先生も最初は日直に頼んだらしいのだが、日直の子は昼休みに部活動の集まりがあるらしく、行けないとのことだったそうで、利斗君が代わりに頼まれたらしかった。

「嫌なら別にいい。気にするな」

「嫌じゃないよ!というか手伝いたい!手伝わせて!」

「悪いな、助かる」

「むしろ私でいいの?」

「一ノ瀬に俺から頼んだんだ。その質問はいらないだろ」

「それもそうだね」

私は笑いながらそう言ったのだったが、彼の表情が変わることはなかった。

「それと、次の授業の準備した方がいいんじゃないか?そろそろ授業始まるぞ」

そう言って利斗君は、また本を読み始めていた。

利斗君から頼みごとをされて気分が上がったせいか、昼休みに誘えるような気にもなったのだった。

もうすぐ次の授業も始まるというのに、私の机の上はまだ変わっていなかった。彼に言われた通り、次の授業の教科書とノートの準備を始める。

準備を終えた私だったが、嬉しい気持ちを抑えきれず、ノートの端に小さくハートを書いてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る