第1章 春と誓い
そして澪夏が利斗君のことを誘おうと提案をしてくれて、来てはくれないと思いつつも、澪夏がそう言ってくれただけで、少し緊張してしまっていた。
彼とは休みの日に会ったことがない。しかし、前に一度だけ声をかけたことはある。澪夏と秀君と出かける時、誘ってみたことがあったのだったが、その時は断られてしまったのだ。
後から利斗君に、休みの日は何をしているのかと聞いたのだが、平日と特に変わりなく勉強か読書だと、答えが返ってきた。私はそれを聞いて、誘ってしまったら迷惑になるのではないかと思い、それ以降誘ったことがなかった。
「やっぱり利斗君のこと誘わない方がいい気もする。迷惑になっちゃいそうだし…。前に断られた時もあるでしょ?それに今は受験生なわけだから余計に…」
先程までの緊張を少し落ち着かせ、私は冷静に考えた上でそう言ったのだった。しかし、澪夏は私の考えとは違い、いつもと変わらない様子でこう言った。
「利斗君だって、誘われた後に自分の判断で行くか行かないか決めるんだから、こっちが誘ってみるのは自由だと思うけど」
澪夏のその言葉に甘えてしまい、私は誘うだけ誘ってみる決意を固めた。
今日は金曜日なので、彼に会えるのは来週だ。週明け誘ってみようということになり、今日はそこで話を終えた。そして利斗君には、私が声をかけてみることになったのだった。
その日の夜、お風呂に入りながら誕生日パーティーのことを考えていた。彼は、来てくれない可能性の方が高いだろう。しかし、彼が決めることならば仕方がないことだ。
そして誕生日といえば、2年前の誕生日。私が利斗君のことを、気になり始めるきっかけとなった日だ。あの日のことが脳裏に浮かぶ。利斗君に声をかけられ、「誕生日おめでとう」と言ってもらえたあの日のことは、忘れることはない。
あの日の放課後、もしどちらかが教室に行かなかったら、もしくはどちらとも教室に行かなかったら、あの日の出来事は起こっていない。ましてや、同じタイミングではない可能性だってあった。
恋に限ったことではないけれど、タイミングというものは本当に不思議なものだ。一つどこかが違えば、結果は変わってしまう。私と澪夏だって同級生でなければ、近所に住む人だったかもしれない。
そして、あの日同じタイミングで2人とも教室に行ったとしても、利斗君が声をかけてくれなければまた違ったかもしれないのだ。
タイミングよくあの時のことが起こり、声をかけてくれた彼。
……でも、考えてみればどうしてあの日、利斗君は私に声をかけてくれたのだろうか。
誕生日の言葉をくれるためではないような気がする。あの時彼は一度帰ろうとした後で、立ち止まり振り返ってお祝いの言葉をくれたから。
確かに同じクラスで、ましてや隣の席なわけだが、それまではちゃんと話したこともなかった。もし私が逆の立場だったら、気まずくて話しかけることができないように思う。
利斗君が、声をかけてくれた理由は…?
私がいくら考えても、分かるはずはない。この答えは、利斗君にしか分からないことなのだから。そもそも彼は、あの日のことを覚えてくれているのだろうか。
今までは利斗君のことを好きになったきっかけの日としか考えたことがなかったが、一度思ってしまうと、その事が脳裏から消えてはくれない。いきなり思い始めてしまった私は、そのことを事あるごとに思い出すような気がする。そしてなんだか、答えを知りたくなってしまうのだった。
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