第1章 春と誓い
3時間目が終わった後、澪夏がすぐに私の席に来て、彼女からトイレに誘われたのだった。
歩きながら先生に注意された話をされる。彼女はその話をするために、トイレに誘ったのだろう。
「彩葉、絶対利斗君のこと見てにやついてたんでしょ」
「…うん。正解です」
利斗君を見てたからだと案の定ばれていて、私が認めると笑われてしまった。
「学年主任にばれたら、恋にうつつを抜かすなって怒られるよ」
澪夏が笑いながら、冗談っぽくそう言っていた。
「でも私は、誰に何を言われたとしても、利斗君のことが好きだけどね」
私は誇らしげにそう返した。私がそう返すと澪夏は笑うのをやめ、私に質問をしてくる。
「彩葉ってさ、利斗君のこと、どこが1番好きなの?」
「1番って難しい質問だね」
「どこが好きなのか聞くと、いつもは全部って答えるから、1番はどこなのかなってふと思ったんだよね」
「1番…1番か…。なんだかんだ優しいところ?」
「なんで疑問系なのさ」
「うーん、それも利斗君の好きなところではあるんだけど、1番と言われるとその答えでいいのかなって思っちゃって…」
澪夏の質問が悪いとかでは決してない。好きな人の1番好きなところを聞くのは、おかしいことではないのだから。恋バナの中の、一つの会話だ。
澪夏が秀君と付き合い始めたばかりの頃、「秀が好きなことに全力で向き合う姿勢が1番好き」と、言っていたのを思い出した。
私も今答えてみたけれど、その質問に答えても納得できていない自分がいることを自覚していた。
1番好きなところ…。こういうのはもっと簡単に答えられるものだと思っていたけれど、いざ聞かれると納得のいく解答をすぐにだすことはできなかった。
「いいよ、いいよ。彩葉ごめん、今の質問なかったことにして。彩葉の好きな人は、利斗君。それで、利斗君の全部が好き。それだけでいいよ」
私が考え込んでしまったのを見て、澪夏はそういうふうに言ってくれていた。謝る必要はないのだが、謝らせてしまったことに申し訳なさを感じる。
私は小学生の頃、好きな子ができた。それが私にとっての初恋だった。その子のことは、「顔がかっこいいから好き」と、よく言っていたのを思い出す。
でもその思いは自然と消え、告白をすることもなく終わってしまった。それは、子供の頃の短い想いだった。
利斗君のことは、気づいたらこんなにも好きになっていた。初めて彼と会った時は、彼に恋をするなんてもちろん思ってもみなかったことだ。
気になるきっかけは些細なものだったけれど、そこから少しずつ好きの気持ちが大きくなっていき、今ではどうしようもないくらい彼が好きなのだ。
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