第1章 春と誓い

話をしながら教室へ入ると、彼は先に着いて本を読んでいるようだった。

利斗りと君、始業式と学年集会お疲れ様」

「あぁ」

「それ、新しい本だよね?」

「昨日買ったばかりの小説だ」

私は利斗君の隣の席に座る。私達は3年間同じクラスだけではなく、他にも3年間同じことがあった。

私達の学校は、男女混合で出席番号が決まると共に、出席番号順で座席も決まる。そして、席替えが一度もない。

私と利斗君は、3年間席も隣同士だった。

私の名字は一ノ瀬だが、1年生の時も2年生になっても、私はクラスでは出席番号が1番だった。

利斗君の名字は大村おおむらなので、隣の席ではなく、例えば同じ列の1番前と1番後ろの可能性だってあったはずだ。

なのに、変わることなく3年間隣の席になれた。それはまさに…。

本鈴が鳴ったが先生の姿はまだなかった。利斗君が読書をやめたために、私は利斗君に声をかけた。

「ねぇ、利斗君。3年間も隣の席ってすごくない?すごすぎるよね?」

本当は運命という言葉を使いたかったが、私は口にすることはできなかった。

「ただの偶然だろ」

「利斗君らしいといえばらしいけど、偶然で表せないことだってあるよ」

「俺には偶然としか思えないな」

「そっか…。とにかく利斗君、今年度もよろしくね」

「あぁ」

彼は、あまり笑ったりすることはない。しかし彼は、勉強だって分からないところを聞くと教えてくれるし、何かあれば助けてくれたりもする。優しい人だということに、変わりはない。

笑わない彼のことを勘違いする人はいる。利斗君のことを、「無愛想」「冷たい人」と言っているのが聞こえてきた時もある。

その時私は怒りを覚え、文句の一つでも言おうとしたが澪夏に止められたのだった。怒りもあったがそれと同時に私は、利斗君の良さを知っているので、勝ち誇ったような気分にもなってしまった。

教室のドアが開く音が聞こえ、一瞬にしてクラス中の話し声が消えた。ドアを開けたのは、担任の先生だった。

浦辺うらべ 春彦はるひこ先生は、私達にとっては1年生の時からの担任だ。朝のホームルームで、今年度最初の挨拶は終わっていたが、プリントを配って今年度の予定など、細かい話をしていく。

私はプリントに目を通していたが、ふと顔を上げた。私の席から先生や黒板を見ているふりをして、利斗君を少しちらっと見てしまうことは、私の日常でよくあることだった。

「一ノ瀬、なに笑ってるんだ」

利斗君を見ることによって、私の頬は緩んでしまっていたようだった。見たのは、一瞬だったのだが。

クラス中の視線が私に向けられ、居心地の悪さを感じていた。

「いえ、なんでもありません」

「集中しろ」

「はい、すみませんでした」

先生は私に注意をした後、そのまま話を続けていた。私は机の上のプリントに視線を戻しながら、先生に注意された恥ずかしさで、体が熱くなってしまっていたのだった。

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