第45話
その24
「さっきはずいぶん舐めた口をきいてくれたけど、まずはゴミムシ退治ね。あ、俺の名はローダー、B級ね。"ダカンの明星”のリーダー、プチっとするだけだから、名乗る程のこともないと思うけど、ギルマスも立ち会う事だし、名乗っとく。」
「あ、宜しくです。俺はカズ、アズミとともに現在Dです。俺の事はともかく、知りもしない俺の師匠の事までくさすのは下品です。俺たち田舎者の事を上から目線で散々こき下ろしていますが、都会人ならもう少しスマートに立ち回りましょう。だいたい、あんたなんかより、うちの師匠の方が強い。はっきり言ってあんたがた、ウザい。」
俺にしてはずいぶん頑張って、煽りを入れているつもり。試合は剣を構える前から始まっているのだ。
相手を熱くさせて罠を張り、とにかくD級がB級から1本でも取ってしまえば、これはもうこっちのもの、大金星で、でかい口とか絶対叩かせない。
”ダカン”のローダーは両刃の直剣を使う。もちろん二人とも木剣である。
日本刀はそりが有って斬撃に優れるが、両刃の直剣は突きに優れる。切り結んでわざと身体中央の軸を譲って突きの隙を見せ、そこに罠を張るつもりである。
突き技に誘うならば、互いに正眼に構えて互いの切っ先を少しクロスさせた方がやり易いのだが、ローダーはすでに上段の構えである。
「ターッ!」
「オーッ!」
四つに切り結んだ瞬間、近すぎる間合いを、押されるかのように下がり、突きの間合いを作って、体の正面を開ける。
ローダーがこのまま真っすぐ剣を突き出してくれば、俺の刀を抑えながら、喉を着く事が出来る。
だが、しかし、もしローダーの動きを変えさせずに、俺が横に半歩ずれる事が出来れば、ローダーの剣は何もない空に向かって突き出され、ローダー自身は自から俺の剣に突き刺さりに飛び込んでくることになる。
通常その様な事はできない。横に動こうとすればすぐに察知され対応されてしまう。しかし、日本の剣術には相手の刀の軌道を変え、横に移動するのと同じ効果を出す技がいくつか存在する。
一つは刀のそりを使って相手の剣筋を反らす技、そして、もう一つが何時も切り結んでからの影げ抜きに使う、股関節の抜き技である。
股関節の抜きを使えば、相手の正面に立ちながら、相手に察知されずに横方向から力を働かせ、相手の剣を反らす事が出来る。
「グエェェェッ!!!」
自ら俺の剣先に飛び込んで、喉を突かれたローダーが異様な悲鳴を上げて転がりまわる。
ギルマスは反射神経の速度でポーションをひっ掴むと、ローダーのもとに駆け寄って行った。
”ヤバイ! やりすぎたかも知れない。” カズは少々焦り気味である。当たった瞬間思った以上の圧力を感じて、力を逃がしたものの結構なダメージを与えてしまった。
”まさか殺したりしないよな” ギルマスにポーションを飲まされ、刀の当たった場所にはポーションをかけられたローダー。心配しながら見守っていると、ヒューヒュー変な呼吸音は続いているが、だいぶ状態は安定してきた。
「ああ、焦った。殺しちゃうかと思った。」
カズが漏らすと、
「殺すはオーバーだろうが。ま、もうちょっと強く当ててたら一生声が出ないとかは有るかもしれない。」
ギルマスのアマルダが答える。
「で、だ。」
ギルマスが続ける。
「おい、"ダカン”の。これで終わりか? あれだけでかい口を叩いたんだ。まさか開始早々、自分から相手の剣に刺さりに行って、”はい、お終い。”はないよなあ。」
”えっ、この状況はいったい何?”
ギルマスの言葉にカズは思わず固まってしまう。
確かに第三者から見れば、勝手にカズの刀に刺さりに行って自滅してしまった、ただのおバカさん…いや、とんでもないおバカさんに見えるだろう。
しかし、アマルダぐらいの腕になれば、これはカズが仕掛けた罠だとわかるはずだ。
つまり、もうスタンピードのテストも、”銀翼”侮辱の件も終わりにして良いはずだ。
なのに、ギルマスはさらに煽り立てている。”ダカン”のお行儀が悪くて、少々頭にきているにしても・・・そこまでやる?
「ウルセーッ!! ローダーの奴はちょっとバグっただけだ!! 俺がきっちり落とし前を付けてやる!!」
ガタイのいい大剣を背負った大男が吼える。声だけはデカいが、やはりダンほどの威圧感がないのが悲しい。
「ほお、威勢だけは良いな。ちなみに名前を聞いてもいいか?」
ギルマスに声をかけられて、
「そこのガキに教える名前なんぞ、まあいいか、俺はリカオルだ。」
一人倒したからこれで無罪放免かと思ったら、もう一人と戦う事になったカズである。
お互いに距離を取って木剣を構える。
リカオルの使うのは大剣である。相手をオーガと思えばまず間違いがない。そう思うと肩の力がスッと抜ける。
「タァーッ!!」
「ドァッー!!」
八相の構えからの袈裟切りを、リカオルも袈裟切りで切り結んでくるが、カズは”影抜き”ですり抜けて、控えめに籠手を打つ。
割と軽く当てているように見えるが、そこそこのダメージは有るはずである。
「まだまだッ!!」
リカオルが叫ぶが、カズにとってはそれが狙いである。一発で決めてしまっては、また新しい相手を押し付けられかねない。しっかり、俺の方が強いんだぞアピールをしなければならない。
「タァーッ!!」
「ドァッー!!」
リカオルは四つに切り結んでしまえば、力押しできると踏んでいるようだが、カズにして見れば、リカオルよりもはるかにガタイのでかいオーガで場数を踏んでいる。
並の力では押し切られる気はしない。
ガキッと四つに切り結んだ瞬間、股関節の抜きで”影抜き”を決め、再び籠手をたたく。
「グ、グ、!!」
「ま、まだだ!」
もれそうになる悲鳴を必死でかみ殺して、リカオルがうめく。
本当はもう勝負はついている。二度打たれた籠手は痛みのために既に力は入らない。短刀程度ならともかく、大剣を振り回すのはすでに無理なのだ。
上から目線のええかっこしいにザマアするのは快感ではあるが、ボロボロになった奴をいつまでもネチネチいたぶる気にはなれない。
”次で決める。”
そう決意するカズである。
「タァーッ!!」
「ドァッー!!」
リカオルもさすがに同じ過ちを3度もしない。切り結ぶと見せて、一瞬ためを作り、身体をひねって刀を躱しざま、通り過ぎるタイミングで切り込んでくる。
しかし、大剣を振るってのこの微妙な操作は、リカオルの技術では苦しい、まして利き手にダメージを受けてのこの剣戟は無理筋である。さらに、日本の剣術には似たような術理で、さらに洗礼された、新陰流の”合撃”などの技が有り、当然カズもその対策ぐらいは考えていた。
切り結ぶべく、袈裟懸けに切り下げられたカズの刀が、スカされた瞬間、自身の身体を刀の下にねじりこみ、同時に籠手を返して切り上げる。
日本剣豪史上有名な佐々木小次郎の”燕返し”である。自身の身体をねじ込む圧を使っての瞬時の切り返しと、自身の刀の下に身体を置くことによる防御と、攻防一体の優れ技である。
「グアアァ・・・ッ!」
振り下ろし掛けた剣の、またもや三度目の籠手を取られて、リカオルの悲鳴が響く。
痛みに硬直した瞬間、リカオルの足が払われ、さらにたまらず膝をつくと、首筋に刀を当てられる。
「それまで!!」
アマルダが宣言する。
「ああ、なんだな、別にB級の冒険者証を取り上げるとまでは言わんが、悪いが、"ダカン明星”にはこの町の依頼はD級以下を受けてもらう。Dなんかに、あれだけボコボコにされたんだから文句は言わさん。割のいい依頼が欲しいなら、ほかの町に行ってくれ。
それから、昨日何とか言ってた臨時でパーティー組む件は無かった事にしてもらう。」
”アッ、これか? やたらと俺達をけし掛けてたのは、臨時パーティーを壊したかったからなのか?”
ギルマスのアマルダは元とは言え、昔はA級の冒険者であった。ギルマス自身が”ダカン”をボコっても、当然と言われかねない。しかし、D級がB級をボコったともなれば、いくらでも突っ込める。どうも、カズは臨時パーティーのぶち壊しに使われたらしい。
「それからアズミたちにはもう一仕事頼みたい。明日ギルドにきてくれ。」
「え~っ、もうテストは十分でしょう? 」
「推薦の条件はギルマスの裁量範囲だ。何をしてもらうかは俺が決める。まあ、スタンピードの予行演習みたいなもんだから、カズにも悪い事は無いはずだ。」
このギルマス、相変わらず人の鼻面を捕まえて引きずり回すようなことをする。基本的に双方に利益は有るのだが、微妙に元が取れていない気がするのは何故だ?
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