第44話
その23
ギルドに依頼完了を報告した二日後、アズミとカズはまたギルドに姿を見せた。
カズはドアを開ける前に一息大きく息を吸い込んで、覚悟を決める。ギルドに入るのに何をそんな大げさなと思うかもしれないが、問題はアズミのいでたちである。
全体的な印象は少し細身のゴスロリと言えばいいのか? 全身、白と黒に薄めの茶のアクセントが入った、これ、絶対ゴスロリを意識している。流石にゴスロリのバルーンスカートとかは冒険者の衣装には動きにくいので、ミニスカートにしているが、いや、本人曰く、ミニスカートではなくて、アーマーの草刷りで、ケープに見えるのは大袖だそうで、防具の一部と言い張って、ワイバーンの皮を使っているそうだが、どう見てもミニスカートとケープにしか見えない。
で、ミニスカートの下はもちろん素肌ではなく厚手のタイツ様パンツにロングブーツを履いているが、パンツの右足と左足で柄は同じでも白と黒が入れ替わっている。おまけにヘアーバンドはフリフリのバンダナルロリータとかリボン付きのチョーカーまがいには鈴までつけて、”お前は猫か?”って、よく考えたら、アズミは犬か猫かと言えば、猫なんですな。
この世界は西洋の中世風なので、貴族ではなくても少し大きな町のお金持ちのお嬢さんなら、フリフリのドレスとか着ていて、ロリータっぽいファッションは見かけるが、さすがにゴスロリはない。
要するに目立ちまくりなのである。だが、まあ、アズミの名誉のために言って置くが、この二日間、アジトに戻ったのはアズミがゴスロリの衣装を作るのが主とした目的だったわけではない。多分そうであるはずだ。カズの希望的観測によると、アズミは刀をもう少し刃渡りの長いものに変えたかった。そのために身体強化の練習もしてきた。それで、刀を今までの”籠手切江”からカズと同じ”高橋長信改”に変えた。これが本来の目的だったはずである。ただし、刀の造りは衣装に合わせて、白と黒に薄茶のアクセント入りである。それを腰に差すには長すぎるので、背中に背負っている。
小柄な少女が長刀を背中に背負っているのである。結果として目立つというより、自分から、何が何でも目立ちたがっているとしか見えない。”あれっ、アズミってこんなキャラだったのか? そういえば、アジトにいる時はメイド服だったし、あれって、ゴスロリに似ているよな。”
よくよく考えると、いじめられ体質の自分より、アズミの目立ちたがり屋体質で、トラブルを引き寄せているような気がするカズであった。
それはさて置き、アジトに行く理由はアズミだけでなく、カズの魔術の事もあった。生活魔法以外でも、カズは少しではあるが、自力で発動できる魔法は有るには有る。氷の弾丸を水圧で飛ばすバレット、高周波と窒素ガスで地面をアリジゴク状態にするサンド、あと、防御のために氷の壁を作るウォールである。しかし、アズミのようにさっと出来るわけではない。どうしても精神集中に時間がかかりすぎて、とっさの時には使い勝手が悪い。
で、実際に魔法を使う時には、生活魔法まで含めてバングルにお世話になることになる。今回の依頼中に考えた刀の斬撃と同時に無属の炎を放つ技と、同じく無属性の風でトウガラシの粉をまき散らす技を登録しておきたかった。
もう一つ問題なのが、見た目魔術書仕様になっているタブレットである。最近はわざわざ取り出す必要がないバングルばかりを使って、魔術書の出番がない。
しかし、男子たるもの、魔導書をズイと掲げて、モーゼの海割のようなどでかい魔法をぶっぱなす、これはもう最大の夢である。今は無理でも、そのうち何時か、そのうち何時かなのである。要するに、今は使わなくても無くすわけにはいかない。
で、現在の所はまるで役に立っていないので、そこの所を何とかすべく、タブレットの編集機能を使って、バングルに新しい魔法を書き込めるように機能を拡張した。
と、言う事が有って現在ギルドの入り口に立っている訳であるが、まず深呼吸をして、気持ちを落ち着けてから、覚悟を決めてドアを押すカズであった。
例によって”カランコロン”と鳴るドアである。
ドアを開けると、この町のギルド唯一無二の受付係であるビビアンさんは少々多忙・・・、いや、この町では見かけなかった冒険者パーティーと、少々トラブル気味に誠意対応中であった。
「なあ、おねえさん、俺たちBなんだけど、もう少し骨のある依頼はないのか?」
「近場には大物の魔獣は出ません。骨のある依頼なら泊りがけで出かける依頼を探してください。」
「は~、田舎は困るね~。ね~、暇なんだけど、お姉さんお茶しない?」
「あのねえ~、昨日から女とみれば片っ端から声かけてるくせに、そんなのを散々見せつけといて、私に声をかけるってどういう神経? 」
と、まあこういう状況下でカズがカランコロンとドアを開けたわけである。
「あっ、カズ、ボスがスタンピード推薦の事で…。」
見慣れない冒険者グループにイライラマックスだったビビアンは、カズが姿を見せたのをこれ幸いと、話を振ってきたが、後から入ってきたアズミのいで立ちを見て、思わず言葉を詰まらせる。
ビビアンの視線を追って振り返った冒険者たちは、
「「「オーッ!」」」
一斉にどよめきを上げる。
”アズミ! これ自業自得だからね! 自分でケリを着けるんだからね。”
本当にどうゆうつもりか知らんけど、事をどうゆう風に収める心算だろう。
「お嬢ちゃん、うちのパーティーに来ない。」
「お嬢ちゃん、背中の剣、頑張りすぎ、俺が剣の使い方教えてあげる。」
当然のことながら色々な声が掛かる。
「アズミちゃん、こいつらの言う事、聞くことないからね。昨日から女とみると声をかけまくりだから。他の女の子もパティーに誘ってるし。」
「アズミちゃんて言うんだ、かわいい名前だね。」
「アズミちゃん、剣術教えてあげる。手取り足取り。」
「うるさいわね~! アズミにはB級のコーチが付いているからいらないの!」
「こんなド田舎のB級じゃなくて、立派な都会の”ダカン"のBが親切丁寧に教えてあげる。」
「チョットオ!! あんたたち大概にしなさいよオ!!」
さすがにビビアンさんもブチ切れである。
「マスター! アズミちゃんたちが来ました。」
気の強いビビアンさんがこれほど苦戦するのは珍しい。実に、このビジターパーティーの面の皮の厚さだけは尊敬に値する。
まあ、何はさておき、とりあえず気を取り直して、2階の階段に向かって声を張り上げるビビアンさんであった。
「おう、来たか。」
声がして、ドスドス足音がして、ギルドマスターのアルマダが姿を見せた。
「あ~、ちょっと聞こえてたんだが・・・・。」
「聞こえてたんじゃなくて、わざわざ部屋のドアを開けて聞き耳立ててたのよ。まったく!」
ビビアンさんがカズに耳打ちする。めんどくさいパーティーの相手を丸投げされて、少々オカンムリである。
「あ~、”ダカンの明星”だったか? アズミに剣をコーチするとか言ってたが、アズミとやる前にカズを相手にしてくれないか? 」
「なんで俺が試合わなきゃいけないんですか? 」
カズとしては、ギルマスが止めてくれるとばかり思ったのに、逆に煽ってくるとは思わなかった。
「そうだ、俺だってこんなチンケな男などとはやりたくないぞ。」
”ダカンの明星"?のメンバーの一人も異を唱える。
「あ~、まず、カズだが、ノーザンピークの対スタンピード要員としての推薦のために、腕を見ておきたい。あと、さっきもそうだが、お前たち教えた”銀翼”を侮辱されている。教えを乞うたものとして、ちょっとは骨の有る所を見せとくべきだろう。」
「まあ、推薦の件についてはわかる気はするが、ダンさんがそんな事を気にするとも思えないよな。それに俺の腕を見たけりゃ、ギルマス自身やっても良いんじゃね。」
「そりゃまあ、その、あれだ。アズミにたかった煩いハエを追っ払うって意味もあるし、それにお前、ダンの弟子みたいなもんだろ、ま、百分の一ぐらいだけど。それなら、ひと言ぐらい物申さなくちゃ。だいたい、ダンと比べて"ダカン”連中をどう感じる?」
「ダンさんみたいに、怖さは感じないですよね。逆に意識して隠してるならすごいですけど。」
「おい、"ダカン”の、カズはお前たち怖くないとよ。ところでまだ個々の名前は聞いてなかったよな、まっ、良いけど。アズミの師になるつもりなら、彼にもちゃんと納得させなきゃまずいんじゃね。」
”何だろ~なあ~?”
どういうつもりか知らないが、ギルマスは無理やりにでも"ダカンの明星”と俺を戦わせたがっている。
ここまで焚き付けられれば、これは双方試合うしかない。ぞろぞろ町はずれの練習場に向かう事になる。
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