第15話

その14

今日はタブレット型魔道具の試作機が出来たので、試験もかねてワイルドウルフを討伐する予定である。

狼タイプの魔物なので武器は持たないがスピードが速い。集団戦法が得意と言う結構めんどくさい相手である。

大きさも2mほどあって、武器はなくとも爪や牙は十分な攻撃力を持っている。

とは言え対応できないほどの速度ではないので、1対1ならば問題ないが、周りを取り囲まれて、一斉に飛び掛かられたら対処の 仕様がない。

結構危ない相手なのでウルフのデーターを集めてもらって、バーチャルでずいぶん練習したが、刀だけで処理できるのは3匹までだった。

目標は刀で5匹だが、魔術の訓練も有るので今日はそこまで無理する予定はない。

いつも通りカラスに先導されて森の中を進む。

いつの間にか森の中は紅葉が始まっていて、ちらほら色づいた木の葉が降りかかってくる。

紅葉の森となると、つい前世の日本の秋を思い出してしまうが、感慨深いというか、深くないというか、途中出会うのがゴブリンとなると、余計微妙な気分になる。

ゴブリンには3回、計12匹遭遇した。

この世界では駆除対象になっているので、タブレットの試験を兼ねて、誠意討伐させていただいた。

以前レディーが”ウォーターバレット”として使っていた魔法を名前が長すぎるので”バレット”と改名して使う。

で、これは”ウォーターカッター”の改良版、ガーネットの砂の代わりにー70℃と同じ結晶構造を持つ氷の弾丸を水流で飛ばす。発射速度は”ウォーターカッター”と同じマッハ3、弾丸の硬度は6、ほとんどライフルと言っていい性能で、レディーはマルチタスクで3,000発いっぺんに発射できるが、私のタブレットだとぐっと処理能力が落ちて5発までだ。

ちょうど最初に出会ったのがゴブリンの5匹のチームだったので使ってみた。

出会い頭でまだお互い様子見みたいな段階だったので、5匹いっぺんに倒せたが、動き回っている相手には多分無理だ。

しかし、「バレット!」の一言で5匹のゴブリンがいっぺんに倒れるのは、壮観と言うか、快感と言うか、いにしえの厨二病の心が震えて、「ああ、本当に魔法を使っている!」と感激してしまった。

次に出会ったゴブリンチームは3匹で、距離は5mほど、こちらに向かって動き始めてから魔法を使ったので、いっぺんに倒すだけの余裕はなく、”バレット”単発3回で仕留めたが、この辺が現在の私の魔法の限界のようで、次に出会ったゴブリン4匹チームでは最後の1匹は魔法は間に合わず、刀で切り殺した。

やっと見つけたワイルドウルフは10匹の群れで、こちらを取り囲むつもりでゆっくり移動しつつ様子をうかがっている。

今日のミッションは刀で3匹同時に相手をすること。

刀の間合いに入る前に7匹ほど間引かなければならないが、木立の陰に入りつつ移動するし、こちらも取り囲まれないように動かなければならないので、最初にゴブリンと出会った時のようにまとめて倒す事が出来ない。

”バレット”単発で1匹倒した途端に、ワイルドウルフの群れは襲い掛かってきた。

”バレット”、”バレット”、”バレット”、続けざまに3発バレットを発射するが、木陰に隠れながら走り回るワイルドウルフに狙いをつける暇もなく、みんな外してしまう。

「あ~・・・・」

”あきれた。”と言うようにため息を漏らすのはレディーである。

”クッソ、仕方がないだろう。”インチキなのはレディーの方であって、100匹でも1000匹でもナノセカンドで処理できるような能力は普通の人間にはないのだ。何も私が愚図だからではない。

で、結局3匹残しの6匹を瞬殺したのはレディーである。

向かい合うワイルドウルフは3匹、ほぼ正面右手に1匹、左前方に1匹、さらに左から後ろに回り込もうとしているのが1匹。

俺は右に右に回り込みながら、刀と視線で前方のワイルドウルフを牽制する。

後ろに回り込んだワイルドウルフが俺の死角から飛び掛かるのと同時に、振り向きざますれ違うように飛び込んで、刀をたたきつける。

すかさず左に飛んで、振り向くとちょうど飛び掛かってきた2匹目に横に弾き飛ばすように刃を当て、さらに踏み込んで3匹目を逆袈裟に切り上げる。

そのまま走り抜けて3匹から距離を取って残心。

魔法には及ばないが、剣術的には瞬殺と言っていいと思う。

切れ目のない一筆書きのような動作で、3匹を倒す。

素人目には達人と見えてもおかしくない。

もちろん俺は達人ではないので裏がある。

一人で多数を相手にする場合、1度に複数の魔物に飛び掛かれないようにする必要が有る。

それには相手のすべての動きを認識している必要が有るが、目で追えるのはせいぜい3匹まで、それ以上になったら武術の達人のように気配で感じるしかない。

それでは30年頑張っても、いや、俺だったら100年頑張ってもそこまで行けない自信がある。

だいたい武術ってやつは一生やってなんぼってもんだ。

そこで、気配の代わりに魔力を使って周りを認識するシステムを造ってみた。いや、俺が作ったのではなくレディーにやってもらった。

一種のレーダーみたいなものである。もちろんタブレットで動かす。

本当なら自前の魔力だけで動かしたいところだが、出来るようになるまで時間がかかるし、やってみてダメだったら目も当てられない。

と、言う訳で種明かしをすれば、ワイルドウルフ1匹を後ろに回り込ませたのはわざと隙を作っての誘いである。

刀を前に突き出して前の2匹をけん制しつつ、後ろの1頭に襲わせる。

襲い掛かるタイミングさえわかれば、ワイルドウルフ程度のスピードでは問題なく処理できる。

後ろの1匹を切り捨てざま左に飛んだのは俺が背中を見せた瞬間残りの2匹が攻撃に移ったのが分かったからであり、攻撃の軸から身をかわしつつ、身近のワイルドウルフを盾にして、後ろの1匹の攻撃を遅らせる。

あとは振り返って、1匹づつ処理すればいい。

スムーズで迷いのない動きと見えるが、これも裏がある。

実は3日ほど前からバーチャルで死ぬほど訓練をしてあったのである。

3匹程度との戦いならばよほど環境が複雑でない限り、およそのパターンは決まってくるので、今回も練習したパターン通り動けばよかっただけである。

最後の残心は日本の武術の基本で、倒したはずの相手が最後の力を振り絞って襲ってくる可能性を排除するため、最後の最後まで気を引き締めるためのものである。

今日のメインミッションがワイルドウルフ3匹で、うまくいって良かったねと行きたいところだが、サブミッションのバレットによる攻撃がさんざんで木陰から木陰に動き回られると、バレットが当てられなかった。今後の課題である。


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