第16話
その15
山頂だけだった雪が中腹近くまで降りてきた。
我々のアジトの森もすっかり色づいて、吹く風に秋の葉が踊っている。
私はそこで刀を振っている。
澄み渡る刀身は清冽な秋の風に浸って、時に淡く、時に鋭く輝き、吹く風に舞い踊る木の葉のようで、時に早く、時に緩やかに、私はそこで刀を振っている。
私が剣を取ったのは死にたくなかったからである。だが剣の道は教える。生にとらわれるなと。
私が剣を取ったのは臆病だったからである。だが剣の道は教える。恐怖に惑わされるなと。
生きたいが故に剣を取り、死を恐れるが故に剣を取った。
もし、生えの渇望が剣を強くするものならば、私は達人になったであろう。
もし、死への恐怖が剣を強くするものならば私は達人になったであろう。
だが剣の道は語る、それらすべては剣を弱くすると。
本末転倒である。不条理であり、不合理である。その思いは私の胸の中に小さく硬いしこりを作った。
だが季節の風の中で剣を振るとき、そのしこりは少しづつ溶けて行った。
晩秋の風の中におのれを解き放ち、静かに吸い込む大気は私を秋色に染める。
緩やかに舞う剣は晩秋の風を受けて季節を染め上げ、秋色に舞う木の葉は私の心を染め上げる。
私はそこで刀を振っている。時に早く、時に緩やかに。
私は少しだけ強くなった。
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