第13話

その12

カラスに上空から初心者用にゴブリン8匹の群れをを見つけて、誘導してもらう。

気配を消すように意識しながら木立の間を抜けて行くとゴブリンの群れが現れた。

実戦訓練の初っ端にしてはちょっと数が多いんじゃない?と思ったら、

「ウォーターバレット!」

ゴブリンの群れが見えるなり、レディーのトリガーワードが響いて群れの後ろの方の5匹が水と氷の噴射で倒れた。

1度にである。

この世界の魔法がどのように発動されるのかわからないが、我々の知る方法で行うなら、緻密な論理化とイメージが必要なため、人間であれば1度に1発がせいぜいで、それも倍ぐらいの時間がかかる。

しかし、見た目は女の子でもレディーはスパコンである。

コンピューターにとって、”ウォーターバレット”に使うイメージなど動画1本に使うメモリーの半分にも満たない。

メモリーだけならば10万でも100万でも同時に行けそうであるが、マルチタスクで動かさなければならないので中央演算処理装置のタスクの同時展開は1万程度が限界である。

もっとも、魔力の量がタスクの数に追い付かず、”ウォーターバレット”程度の魔法ならば3000程度で底をつく。

つうじょう魔力が底をつくと回復するまでに一晩ほどかかるが、レディーの場合そこでズルをする。

要するに余剰次元をこじ開けて、ダークマターやダークエネルギーを放り込み魔力や希望する物体に変換して取り出す事が出来る。

人間だったら個人用自前のバケツから柄杓で1杯づつ浴びせるように魔法を使うのに、水脈直結でポンプで直接くみ上げながら放水車でぶっ放すようなアコギなことをやる。

レディーを好き勝手暴れまわらせたら、何も原爆や反陽子爆弾を使わなくても、この世界をおかしくしてしまいそうなのは分かってもらえると思う。

早い話が、俺でなくてレディーなら簡単に魔王に成れそうではある。

「ぼんやりしないで!」

余計なことを考えていたら、レディーに怒られた。

「囲まれないように!常に1対1で戦う!」

レディーの指示が飛ぶ。

しかし、どうも実感がわかない。

このゴブリンと言う奴、見た目、顔だけは獰猛だけどそれ以外は小学生の低学年相手をしているレベルなのだよ。

3匹のうち2匹が錆びだらけの剣を持ち、あと1匹は何とただの棒っきれだ。

体力と力は俺よりありそうだが、いかんせん動きに切れがない。一目見ただけでそのたどたどしいとさえ言える剣筋まで見切れてしまう。

”本当にこいつらを殺しちゃって良いのかい?”と誰かに聞きたくなる。

もっとも、ゴブリンとくれば、女子供の天敵で、成人男子だって、素手で4~5匹に囲まれればやばくなるのは承知していたので、駆除しなければならないのは解っている。

解っているつもりなのだが、ちょっと実感が湧かない。

で、取りあえず動く。周りを囲まれないように、手前のゴブリンを盾にして、あるいは立ち木を盾に、右に回ると見せて、左に回り込む、つねに1対1になるように、自分が動き相手を動かす。

今日の1番の目的は魔物狩りにありがちな1対多の戦い方を習得する事なので、すぐに殺さなくても問題はない…ま、いいわけではあるが。

いつまでも逃げ回っているわけにもいかず、こちらの体力があるうちに勝負する。

倒すのは簡単、ゴブリンは振り上げた剣を振り降ろすだけ、切り下げのタイミンもまる見えで剣速も遅い、ので、相手が切りかかってきたタイミングで相打ちの剣筋で刀を走らせ、同時に足さばきで相手の剣筋を躱す。

いわゆる2寸5分の陰と言う技、踏み込む前足をまっすぐ前ではなく、斜め前に踏み出して後足を踏み出した前足の後ろに滑らせれば、体半分相手の剣筋からずれることになる。これを3回繰り返せば3匹倒してチョンチョン!!

初めての本格的魔物討伐と言うのになぜか達成感がないのである。

とは言えやる事はやる。クズとは言え魔石を持っているのでそれを取り出して、残りの遺骸はまとめてアリジゴクの魔法で地中にうずめて始末をした。

その後、2回ゴブリンを見つけて5匹倒した。

最後にはぐれ者のオークに遭遇して、対決する事に成ったが、このオークちょっと変わり者で、俺の刀の倍くらいの長さの大剣を横殴りに使ってくる。

上からの振り下ろしならば、剣筋を避けながら回り込んで間合いを詰めることも出来るが、横殴りだと影抜きで剣を避けても間合いがまだまだ届かない。

無理に飛び込んで燕返し並みの返し技が来たら避けようがない。

5~6回横殴りの剣筋を影抜きで避けてフェイントをかけて様子を見る。

何しろオークと来た日には身長が2mもあり、見た目筋肉の塊のように見えるものだから、つい心配してしまったが、日本刀の”物干しざお”のような細身の刀ならばともかく、幅も厚みもごつい大剣は扱い切れておらず、目が慣れてしまうとそのたどたどしさがほほえましくさえ感じてしまう。

横殴りに剣を使うのがちょっと珍しいと思ったが、これで縦に振ったら剣を止められずに地面をたたいてしまうだろう。

まあ、せっかくのご厚意なので、レディー推奨の影抜きの技をたっぷり練習させていただいてから、一気に飛び込んで、すれ違いざまに首筋に刀をたたきこんだ。

身長差もあって刃筋が通りにくく、両断とはいかなかったが、急所なので十分致命傷は与えられた。

オークともなるとそれなりの魔石を持っていて、有難く頂戴する。あと、食用として広く食べられているようだが、首から上は豚だが、体の見た目が人間に近い、すぐさま口にするにはちょっと引いてしまう。

”根性なし!”、レディーにジト目でにらまれながら、とにかく解体して、お肉の塊にすれば、ま、1週間もすれば気分が変わって、何とか食べられるようになると思う。

俺だってそんなに”出来ない子”ではないのだ。ほら、ちゃんと一人でオークを倒したし。


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