第7話【コボルト】
俺は村の村長さんにコボルトについて訊いてみた。
なんでも村長さん曰く、村の西側にある森にコボルトが群れで住み着いたらしく困っているらしい。村の住人が西の森に入らなければ襲ってこないのだが、狩りや薬草取りですら森に侵入することを拒むらしく、はたはた迷惑しているらしい。
しかも20匹から30匹の大きな群れらしく村人たちでは討伐は不可能であるとか。それに村が貧乏だから冒険者を雇って退治もしてもらえないらしい。
そんなところに墓場のスケルトンたちを壊滅させた俺が救世主の如くあらわれたのである。そりゃあ外見がジャージ姿のダサいスケルトンですら輝いて見えてしまうのだろう。
村長さんは手揉みをモミモミしながら腰を低くして述べる。
「私たちの村が支払える報酬は、この指輪がひとつでやっとです。こちらで退治をお引き受けできませんかのぉ……」
村長さんは自分の指から指輪をひとつ外して俺に見せた。なんだか装飾の少ないシンプルな指輪であった。だが、その輝きは金に見える。それに指輪の内側には『妻に永遠の愛を込めて』と書かれていた。結婚指輪なのだろう。こんな物を貰って良いのかな。まあ、いいか。
しかし、俺はこの世界での金の相場を知らない。コボルト退治でどれだけの報酬が貰えるのか検討もつかないのだ。金の指輪がいくらになるかも知らない。だからこそ軽い気持ちで了解する。骨の指でOKサインを作って見せた。
「おお、本当ですか魔法使い様。感謝いたしますぞ!」
まだコボルトを一匹も退治していないのに感謝された。でも、誰かに感謝されるってなんだか嬉しいものである。癖になりそうだ。
それに本物の金なら現実世界に持ち帰って金券ショップに売りつければお金になるのは間違いないだろう。これは美味しい話かも知れない。
そして、俺はルンルン気分で村長さんの家を出たのだ。スキップで西の森を目指す。そんな俺の後ろを早足でチルチルが着いて来ていた。彼女もコボルト退治に同行したいようだ。まあ、危なくなったら逃げ出すだろう。獣人だけあって足は早そうだから問題ないだろうさ。
そして直ぐに件の森に到着した。
森は墓場周辺の森と違って艶々の青々しい葉で覆われている。獣系のモンスターが住み着くには快適そうだった。
コボルトとは、RPGで言うところの雑魚モンスターだ。頭は犬で体は矮躯な人型である。二本足で立って歩ける。武器や防具などを装備することが珍しくない。その強さは人間の一般兵より少し弱いとされている。強さ的には以前戦ったスケルトンと同格ぐらいだろう。だから今の俺なら20匹や30匹程度ならば倒せない敵ではないだろうさ。まあ、スケルトンを一戦で30体も倒せたのだ、余裕だろうと思う。
そんな感じでコボルトを舐めきった俺が森の中に踏み込んだ刹那である。風切音が聞こえてきた。その直後に俺の腹部に違和感が突き抜ける。
その違和感に俺が自分の腹部を見るとジャージに穴が空いていた。
「御主人様、敵襲です!」
チルチルが慌てて木の陰に隠れる。俺もそれに習ってチルチルの背後に身を潜めた。
そして、俺が先程まで立っていた場所を見ると、背後の木に矢が一本刺さっていた。どうやら俺は弓矢で狙撃されたらしい。敵が放った矢が腹部を貫通してジャージに風穴を開けたようだ。だが、俺には腹の肉がないから矢がすり抜けたのだろう。故にノーダメージだ。ラッキー。
そして木の陰に隠れているチルチルが述べる。
「済みません、御主人様。風上に立っていたからコボルトたちの臭いに気が付きませんでした」
ああ、チルチルも獣系の人種だから臭いには敏感なのかな。でも、風上に居たから先手を取られたのね。まあ、これは俺のミスだろう。チルチルには何も責任はない。
そして俺はチルチルが担いでいる鞄から鉄製のバールを引っこ抜くと木の陰から姿を曝す。
「御主人様、危険です。お戻りください!」
俺を心配するチルチルが叫んでいたが気にしない。俺は前に歩む。
すると森のブッシュから再び矢が放たれた。しかし俺はその矢をバールで撃ち落とす。それから走ってジャンプした。
見つけた。飛び越えた草木の裏側にコボルトを3匹発見する。
そのコボルトに向かって急降下した俺は、なんの躊躇いもなくコボルトの頭にバールを振り下ろす。するとグサリとバールのL字部分がコボルトの脳天に突き刺さった。頭を刺されたコボルトは即死する。
飛び散る鮮血。頭蓋骨を砕いた感触。生々しい感情。それらが津波となって俺の精神に押し寄せた。
初めてである。自分の手で動物を殺すのは――。
スケルトンを倒した時とは違う感触だった。破壊と殺害の差がハッキリと分かった。
「「ガルルルルッ!!」」
だが、現代日本では感じられることが少ないと思われる生と死を理解する前に、残りのコボルトたちが石斧を翳して俺に向かって襲いかかってきた。犬面が凶犬のように牙を向いている。
それに反応した俺の骸骨ボディーがコボルトの頭からバールを引き抜いて左右に振るった。本能で動いた感じである。
その二振りで俺は二匹のコボルトの首元を切り裂いていた。コボルト二匹は喉仏をバールで抉られ赤い鮮血を散らしながらバタリと倒れ込む。
3匹を瞬殺――。
やはり戦力は俺のほうが圧倒的だ。これなら行けると確信した。
そして、周りを見回すと俺の周囲は血まみれだった。その中央に返り血を浴びた俺が立っている。スケルトンが血塗れなのだ、それは嘸かし怪奇だっただろう。
だが、木の陰から姿を見せたチルチルは血塗れの俺を見ても動じていない。彼女は獣に近い人種だから血には慣れているのかもしれないな。おセンチに浸っているのは俺だけかも知れない。現地人の精神は流石である。
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