第3話【ボイスor獣耳メイド】

俺は肉の無い骨だけの両手で木のスコップを握りしめるとスケルトンたちと向かい合う。


睨み合うスケルトンとスケルトン――。


墓場の地面から湧き上がったスケルトンたちは30体以上は居そうである。これらすべてを倒せればクエストは完了出来るだろう。そうしたのならば声か獣耳メイドが手に入る。


俺は握り締めた粗末なスコップを見つめながら思う。それは謎の自信。何故か、この一対多数の状況でも勝てると意味不明な自身が湧いてきていたのだ。まったくもって根拠の無い自信だが、その自信に俺は疑問を抱かなかった。その謎の自信のままに眼前のスケルトンたちを強く睨みつける。


俺は心の中で気合を込めると大きくスコップを振りかぶった。そして、横一線に全力で振るった。するとパコーンっと音が響き一つの頭蓋骨が飛んで行く。攻撃命中。ホームランである。


一体目のスケルトンを撃破。頭部を失ったスケルトンの体がバラバラに崩れて落ちる。それっきり動かない。


思ったよりもスケルトンは弱かった。喧嘩もしたことがない俺でも勝てる程度の敵である。非力で動きも遅く、防御も取らない。これなら勝てるだろう。余裕だぜ。


調子に乗った俺はスケルトンたちと大乱闘を繰り広げる。俺はスコップを振り回し次々とスケルトンの頭を砕いて回った。こいつらでは敵にならない。俺、つえー。否、相手が弱すぎる。


だが、俺に不運が起きた。10体目のスケルトンをスコップで叩いた刹那である。スコップの柄がポッキリと折れたのだ。武器を失う。


まあ、仕方ないだろう。薄気味悪い墓地で拾った粗末な武器である。どこかのアンダーテイカーが忘れていった穴掘り道具だ。武器としては不向きだったのだろう。


そんなこんなで俺はスケルトンたちに囲まれた。ピンチである。


俺を囲むスケルトンたちの眼光が嫌らしく光って見えた。同じスケルトン同士なのにスケルトンがスケルトンをリンチしようなんて卑劣なスケルトンたちである。だから死んでも成仏できずにスケルトンになって蘇ってくるのだ。性根が腐ってやがる。否、肉は腐ってもう無いのかな。とにかく卑劣なスケルトンたちだった。


そんなことを考えていたらスケルトンたちが一斉に飛び掛かってきた。躱せる隙間も無い。あっという間に俺はスケルトンたちの下敷きになる。


そしてスケルトンたちは俺に噛みついてきた。歯をガチガチと鳴らして俺の骨に齧りついている。


だが、痛くない。複数の者に噛まれているのに痛くないのだ。どうやら俺の体には痛覚が無いらしい。まあ、筋肉も脂肪も無いのだから神経が無くっても不思議ではないだろう。流石はスケルトンボディーである。


更には複数のスケルトンたちに埋もれていたが重さも感じなかった。それどころか力任せに立ち上がれた。どうやらパワーも普通のスケルトンより俺のほうが強いようだ。ラッキー。


「御主人様、大丈夫で御座いますか!」


時空の扉が焦った口調で問いかけてきた。その問に俺はスケルトンたちの隙間から頷いて見せる。


すると時空の扉が提案してきた。


「御主人様、一旦あの世に避難してください!」


あの世とはどの世だろう?


俺が首を傾げていると時空の扉が開いて四畳半の景色が見えた。あの世とは、元居た俺の世界のことを言っているらしい。


「ささ、こちらに。あの世にはこの世の魔物は入れません。安心してください!」


敵のスケルトンは扉をくぐれないのか。ならばと俺はスケルトンたちを引きずって時空の扉をくぐって四畳半に避難する。


すると扉の境目でスケルトンたちは謎の力で俺の体から接ぎ落とされる。俺だけが四畳半に帰還できた。扉の境目では見えない壁に阻まれたスケルトンたちが爪を立てて無空を掻きむしっている。こちらには来れないようだ。音すら遮断されて聞こえてこない。


「御主人様、お聞きください。説明を致します」


俺は黙って話を聞く。


「わたくしめの扉をくぐれるものは御主人様が許可した無生物のみ。生物はくぐれませんし、許可した物以外もくぐれません。それと無生物でも魔物の類いもくぐれません」


なるほどっと俺は手を叩いた。それからアパートの玄関に向かうと雪解け用のスコップを取ってくる。


今度はこれで戦おう。粗末な木のスコップではなく、立派な現代風スコップだ。これならば簡単に壊れない。強度も極上のはず。


それと俺は今着ているジャージの持ち込みも許可した。いくらスケルトンでも全裸は少し恥ずかしい。スケルトンに変身してしまえばビーチクもチンチロリンも無いが服ぐらい着たいものである。俺には露出の趣味はない。


そして俺はスコップを槍のやうに小脇に構えると扉の向こう側に突進していった。パワーでスケルトンたちを弾き飛ばす。そこからまた一騎当千だった。現代スコップで次々とスケルトンたちを破壊していく。そして、気付けば周囲には立っているスケルトンの姿は失くなっていた。バラバラに粉砕した人骨だけが散らばっている。辺りは静かで怪奇な墓地に戻っていた。


それから俺は墓地の上に置いた本の中身を見る。クエスト001は完了していた。どうやら今の戦闘で30体以上のスケルトンを撃破したようだ。それなのに俺の体には疲労感もダメージも感じられなかった。噛まれた小さな傷が骨に少し残っているだけである。このスケルトンの姿はなかなか強いらしい。儲け物である。


さて、問題は―――。


【クエスト001・完了】

アンデッドを30体倒せ。

成功報酬、【アンデッドボディー・声】or【ファミリア・獣耳メイド】どちらかひとつを選択。


さて、どちらを選択するかだな。


俺は迷わなかった。獣耳メイドを選択する。当然だ。メイドさんは男の子の夢だろう。声なんてあとからでも何とでもなるさ。ヒャッハー。




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