第2話

 ある時

 少女が昼寝をしている間に一羽の鴉がやってきました。

 艶のある漆黒の鴉。


「こんにちは、カナリア」


「こんにちは。僕に何かご用?」


 カナリアは籠の中から木に止まる鴉を見上げます。


「いいえ。偶然ここで休もうとしたらカナリアがいたのでね」


「大変だね。外は」


「そんなことはありませんよ。カナリアのような不自由はありませんので」


 くすりと鴉が笑いました。

 カナリアは少し機嫌が悪くなりました。

 危険な外にいる鴉に不自由だと言われたことがカナリアには気に入らなかったのです。


「僕のどこが不自由だって言うんだい?ご飯は探さなくてもいいんだよ?籠の中は安全だし、僕の歌声を聞いて、誉めてくれる人もいる」


 まくし立てるようにカナリアが言います。

 鴉はどこか楽しげそれを聞いていました。

 そして答えました。


「確かにそうだね。私たちは毎日餌を探して飛び回り、時には人間に石を投げられたりする。確かに不自由なのだろうね」


 鴉はカナリアの言ったことを全て肯定しました。

 今度はカナリアが笑いました。


「僕は幸せだよ。君と違ってね」


 誇らしげにカナリアは鴉に言いました。


 鴉はそれを静かに聞いてその闇色の瞳に鮮やかなカナリアを映しました。


「そうだね。幸せなんだろうね。でも、カナリアは何を持って私を不幸せだとばかりに言うんだい?」


「先に言っただろ?危険な外で暮らしてさ。何時死ぬかも分からないんだよ」


 カナリアは高い声でそう言いました。

 狭い籠の中で羽を広げれば籠に当たってしまいました。


「そうだね。でも、それは私が選択した先にあるものだからね。仕方ないものさ。カナリア、私には毎日を約束されてはいないけどね、私は選択出来るのだよ。いくつもの選択が」


 鴉は一度大きく翼を広げました。

 のびのびと何も邪魔されずに。


「カナリア、君には籠に入った時から選択がなくなってしまったのだよ」


「…それでも、僕は幸せだ」


 しっかりとカナリアは鴉を見て言いました。

 鴉は穏やかに微笑みました。


「棲めば都、とはよく言う…カナリアが幸せならそれでいいと私は思うよ」


「すめば…みやこ?」


 言葉を繰り返すカナリアに鴉はまたくすりと小さく笑いました。

 それからバサリと木から飛び立ちました。


「君の幸せが続けばいいね。でも…」



「君は何羽目のカナリア?」

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