観察日記5

 


 6月に入った。

 今日も今日とて、紗和は元気です。




「お弁当作戦でもしてみようかな!!」


 がんはるぞいっ、と拳を握る紗和。

 弁当はなかなかハードルが高いぞ……。

 というか、あまり面識が無い相手に弁当なんて作っても、受け取ってもらえないんじゃないの……?


 あれ、多分そうだよな……。

 何か……自信がなくなってきたぞ。

 一般的な感性の持ち主だと自分では思っているけど、最近は紗和を見ているため根本的な価値観が揺らぎ始めている気がする。


「何入れようかな……? 王道なのは卵焼きとか、ウインナーとか」


「うんうん」


 そこら辺なら全然嬉しいだろう。

 王道の中の王道を行く感じだ。

 後はもう米を握って、おにぎり弁当とかでいいんじゃないないだろうか。

 具とかも考えなくていいから。

 塩。

 塩でどうよ。

 シンプルよ?


「あとは何かな……? あっ、野菜がないか」


 ……おぉ。

 非常にまともだ。

 ツッコミのしようがない程まとも。

 お弁当に入れる野菜系のおかずかぁ……。

 なんだろう、きんぴらごぼうとか?

 おひたし……?とか。

 ポテトサラダとかもいいなぁ。


「何使おう……。野菜といえばオクラだよね…………」


 確認しておこう。

 野菜と言えば、オクラ、では、決して、ない。


「ネバネバだから……納豆とかと混ぜるといいかもっ!」


 臭い!!!

 もう臭い。

 想像だけで臭いんだけど……。

 教室でどんなバイオテロを起こすつもりなんだろうか。


「だったら、他のおかずも和風寄りにした方がいいよね……。茶碗蒸しとか?」


 和風に寄せすぎだろ。

 ビチャビチャなるわ。


「だったら……ご飯もお寿司とかがいいかなぁ?」


 おーい。

 生物なまもの

 バリバリ生物。


「茶碗蒸し……お寿司……に負けないおかずかぁ……。可愛いおかずがいいよねぇ……。…………ベビーチーズ?」


 それは名前が可愛いだけじゃ……。

 あと、ベビーチーズっておかずか?


「よしっ! それでいこう!!」


 いくないくな。

 もうちょっと考えよう?


「あっ、そうだ。デザート!! デザートどうしよう?」


 うーむ、と腕組みをして考える紗和。

 大丈夫。

 ツッコミの準備は出来ている。


 しばらく考え込んでいたが、紗和はやがて可愛らしくポンっと手を叩いた。


「モロッコヨーグル!!」




 ンンン駄菓子ィ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る