観察日記6

 




「しゃああああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!! 慎太郎君のLINEゲットぉぉぉおおおおおおおああああ!!!!!!!!」




「っ!! ビックリした……」




 ドキャァァアンと部屋のドアが開き、紗和が入ってきた。


 今日も今日とて、バカ話に興じるのだろうか。


 と言うか、この子1人でこんなこと毎日やってるからね?


 俺いなかったら成立していないよ?




「どうしよう……、慎太郎きゅん♡のLINEを手に入れてしまった……ぁぁぁぁ」




 ワナワナと手を震わせながら、スマホを持っている。


 めちゃくちゃ興奮しているのか、目の焦点も合っていない。




「南無三っ!!」




 ベットの上にポフリとスマホを置き、合掌をする紗和。


 大袈裟だなぁ……。


 あと、多分そのLINE俺本人じゃねぇし。




 どこぞの詐欺垢を追加したのかと、俺もベッドの上のスマホを覗き込んでみた。








「☆☆‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✧̣̥̇‧✦ 慎ちゃんだお♡♡o,+:。☆.*・+。」
































 …………いやいや、気づけ。


 というか、お願いだから気づいてくれ。


 頼む。


 もう頼むしかない。




 ここまでテンプレのようなアカウント名。


 無駄なキラキラ。


 詐欺じゃない要素を探す方が難しい。




「自分のこと慎ちゃんって言ってる〜〜〜〜♡♡ めちゃくちゃ可愛い〜〜〜」






 おいそこ!


 悶えるな!!!


 嫌だろう!? 一人称が「慎ちゃんだお♡♡」のやつ!


 この調子なら俺が水虫になっても「可愛い〜〜〜♡」とか言い出しそう。


 もう何でも可愛いのね。




「えぇ!! どうしようどうしよう! LINEしていいの!?」




 露骨に手が震える紗和。


 連絡しようとしているのは明らかな詐欺垢だ。








 ……ヤバい。


 ちょっと面白いじゃねぇか。


 どうなるの???


 普通にどうなるの?


 詐欺垢に返信しようとする人、初めて見たんだけど。






「えぇと……『こんばんは!』とかが無難だよね……?よし!」




『こんばんは!』




 スポっと音がして、メッセージが送信される。


 すると、間髪入れずにメッセージが帰ってきた。








  『こんばんは。お金儲けに興味はありませんか?』








「凄い!! 慎太郎、もしかして資産運用とかしているの!?」




 な訳ねーだろ!!


 ってか、このLINEの相手ももう少しオブラートに包め!


 なんだお金儲けって。


 ちょっと可愛い言い方すぎるだろ。






『資産運用とかしているんですね!! 慎太郎君凄いです!!!』






  『アナタもすぐできるようになりますよ』








『ホントですか!? 慎太郎君と一緒にやってみたいです!!』








  『ぜひ、一緒にやりましょう!』






「きゃぁぁぁぁあああああああ!!! 奇跡っ! 奇跡が起きているよぉおおお!!!!!!」






 だから落ち着きなさいって!!


 ほんっとにアホだな!


 この子は!!!


 犯罪の片棒を担ぐ気満々じゃないか!




「ヤバい……ヤバい……。慎太郎君とLINEしてるだけでもヤバいのに…!! きょっ、きょうどう作業!!!!?」










『ては無配とあわむのっ!ちあほおそ』










 だから、落ち着けって!!


 全然打ててねーじゃん!!!!




 ……この子、危険だ。




 近い未来、悪徳商法に騙されまくりそう。








  『すいません、大丈夫ですか?』






 詐欺野郎にも心配される始末。


 本物の慎太郎はココ!


 ここにいるから!!!


 LINEとかしないでも、君の話全部聞いているから!


 筒抜けだからね!?




「ヤバい……ヤバい……引かれちゃう……! 頑張れ……頑張れ……私!!!!」










『心たりょう君れ! 私とぜひゃ!ぜひ今ど!! おきゃねもえけを!!』






 訳:慎太郎君!私とぜひ!ぜひ今度!!お金儲けを!!








  『ごめんなさい』








 無情な通知音がポキポキと鳴り響き、部屋には静寂が訪れた。








 その後、そのアカウントから返事が来ることはなかったと言う―――――――――。


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