観察日記4
俺が死ぬ日の49日前。
文字通り四十九日という訳だ。
なぜかは全く分からないけれど、どうやら俺は死んで過去に来てしまったらしい。
「おっぱい大きくなったら、慎君に気づかれるかな?」
目の前には必死に胸周りから肉をかき集め、おっぱいのサイズを盛ろうと必死になっている紗和。
そんな様子を部屋の片隅からぼーっと眺めていた。
いやいや、気づかないと思うよ……。
生前の俺は巨乳しか興味なかったから。
学年の巨乳の子は大体分かっている。
もはや教養の部類と言ってもいいだろう。
そういうエロ系の男の情報網をナメてはいけない。
例えば、学年で1番可愛いと有名な女の子が居た。
その子が体育中に、学校指定のTシャツの脇からブラが見えた。
……薄水色だった。
その情報は1時間もかからず学年の男子の間を駆け巡ったと言うから驚きだ。
その時ほど、世界は平和だ、と言うのを実感した時はない。
「もうちょっと……! ふんっ」
紗和は未だなお、少し大きめのブラに頑張って胸を入れている真っ最中。
……女の子って大変なんだな。
普通に生きてきたけれども、毎日毎日俺を思いながらこんな苦労をしていたのか。
生きている俺、ちゃんと気づいてあげろよ。
今日は5月31日。
霊になって過去に戻ってから数日が経った。
俺が死んだのは7月2日だから、大体あと1ヶ月で、
1か月前の俺か……。
どんな風に過ごしていたかな。
当たり前だけど、「死ぬ」なんてこと考えずにのほほんと生きてたな〜……。
「あっ……、ごめんなさい。目の前見てなくて……」
「??」
唐突に何かにぶつかるフリをして、見えない何かに謝る紗和。
急に何が始まった??
「ダメダメ…、前もちゃんと見てないマヌケと思われるよね……! もう1回!!」
もしかして……?
「痛いっ!! どこ見てんのぉ!? 誰よ!!!」
いやぁ……。
それはやめた方がいいんじゃないかな。
二言目には「あんたバカァ!?」と言い出しそうなキャラ設定。
もしくは「ただの人間に興味はありません。」
これはひょっとすると……。
俺と偶然ぶつかる練習か?
「これじゃ愛想悪いよねー……、キャラ設定をどこに持っていくかが重要だよね」
深呼吸をして、再度リプレイ。
「いったい!! どこ見てんのよ!!? 慰謝料、はい、慰謝料!!!!いーしゃーりょう!いーしゃーりょう!!」
手をパンパンしながら突然の慰謝料コール。
……この子は、マジで言っているのだろうか。
さすがにボケてるよな…?
というかボケじゃなきゃもう怖い。
色々と。
「これじゃ怖いよね……」
自分の言動が異常だと分かっていることに安堵する。
この子すげぇな……。
地味そうに見えて、意外と頭の中は宇宙が広がっているのかもしれない。
無限の可能性を秘めすぎだろ。
何か、普通に学校でも仲良くなれそうな気がするぞ。
恋愛的な関係性にはなれなさそうだけど。
「ぶつかったら……、お詫びとかもしなきゃ……。 ……!!! もしかしたらお詫びにかこつけてLINEとかゲット出来るかもっ!!!」
おぉ……。
急に現実的なプランになった。
ぶつかったお詫びをしたいから、とりあえずLINEを、か。
むしろ、いい手段じゃないだろうか。
少し打算的に思わないでもないが、無茶苦茶なキャラ設定よりは全然。
「ごめんなさい!! ぶつかったお詫びがしたいです!!!」
今のところはいい感じ。
……若干勢いが良すぎるけれど。
「なので………! LINE! はい! LINE!! らーいーん! らーいーん!」
はいっ!
台無しっ!!
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