観察日記2

翌日。

 彼女はほんの少しだけ寝坊したらしく、慌ただしく部屋から飛び出していった。



 この部屋から出られないから、という言い訳を先にしておく。


 ……着替えとか寝顔とかも見た。

 いやいや、だって仕方ないよね?

 同じ部屋なんだもの!!

 でも彼女の尊厳を守るためにも、1つ言っておく。

 ガッツリは見ていない。

 ほんのちょこっと覗くくらい。

 着替えてた時も背中向けてたりしたし。

 …………まあ、幸いにもムラムラしたりすることはなかった。

 死んでいるから性欲も無くなっているのか?

 ムラムラしたところで、物に触れないから発散する手段もないんだけれど。


「はぁ……、疲れたな」


 体じゃなくて心が。


 昨日の夜から、彼女はずっとあんな感じだった。

 スマホを見ては「〜〜〜♡」となり、時折意味の分からない言葉を叫ぶ。

 そんで最後は俺と付き合う妄想でもしていたのか、「愛してるよ…慎ちゃん……」と言う言葉を最後に寝てしまった。



 はぁ…………。

 何か、色々とすごい。


 恋する乙女だわ。

 しかし。

 現実は非常なり。


 今日、彼女は学校で俺の死を知ることになる。




 えぇ…………。

 どうなるの?

 想像するのも正直怖い。

 自惚れかもしれないけど、後追い自殺とかしないか……?


 でも、もしもそうなった時に止める手段とかもないしなぁ。

 どうしたものか、


「いや、まぁ……考えても仕方ないか」


 その時はその時だ。

 目の前で死なれても嫌だけど。



 ***




 暇だ。

 まだ彼女が出ていってから1時間とかしか経っていないぞ?

 部屋の中にいてもやることないし……。

 当たり前だけど、死んでいるため食欲や睡眠欲もない。

 必然的に暇になってしまう。

 何しよう……。

 とりあえず横になるか?



 何の気なしに床に横になり、改めて部屋の中を見回す。

 そして…………ゆっくりと目を閉じた。



 昨日から彼女を見ていて、色々と分かったことがある。



 *分かったこと、その1

 彼女の名前は「紗和さわ」と言うらしい。

 彼女が家から出る前に、お母さんが下の階から名前を呼んでいた。


 *分かったこと、その2

 どうやら彼女は一人っ子。

 多分、父親と母親と3人暮らしっぽい。


 *分かったこと、その3

 俺のことがめちゃくちゃ好き。


 *分かったこと、その4

 彼女は俺の隣のクラスの子。

 制服に「2-B」のピンがついていた。

 俺は2-Aだから、あまり面識がないのも仕方がない。


 と、こんなもんか。


 名前と在籍が分かっただけでも御の字だろう。

 しかし、隣のクラスかぁ……。

 被っている授業あったかなぁ。

 B組とは、体育と日本史が合同授業だ。

 もしかしたらその時に俺の事を知ったのか……?

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