第3話 カエデの妹・モミジちゃん登場⁉
2人に引きずられるようにして、別室に連れていかれる。
「やーだー。絶対やだ! 生配信中だよ⁉」
絶対やだ!
「大丈夫です。わたしたちがフォローしますから」
「せやで。配信は2秒遅らせてあるから、ほんまに何か起きたら視聴者に届く前に止められるから安心せいや」
いやどすえ。そんなの安心できない!
「そんなに駄々をこねるなら……血吸うわよ」
それもやめてください。
まだ吸血鬼になりたくないんです。
「ちゃんとサンタの服も、モミジちゃんに合わせたサイズで用意してあります」
レイがうれしそうに子供服サイズの赤いミニスカートのワンピースを見せてくる。
「そういう問題じゃなくてだね……。ていうか、モミジ is 誰⁉」
はいはい、全員無言で指さしてくるのやめて。もうわかってましたから。
「さつきさんのお誕生日ですから。お願いを叶えるのもサンタさんの役目だと思います」
「ボクがサンタでボクがプレゼントって。やかましいわっ!」
ぜんぜんうまくないんだよ。……ホントバレないよね?
「さ、薬を飲んでから飲んでから時間も必要ですから、もう覚悟を決めてください」
レイが≪REJU_s≫のカプセルをボクの手のひらに乗せてくる。
謎の脳研究者・麻里さんによる脳内の年齢情報を書き換えて、体を10歳に再構成する危険な薬……。
「ほい、お水やで」
シオがキャップを空けたペットボトルを反対の手に握らせてくる。
「まだかしら? そう? 口移しで飲ませてほしいのならやぶさかではないわよ」
「ボクはやぶさかなので、1人で飲めます……」
もうウダウダ言っててもしかたない。
男は度胸! 女も度胸!
えーい!
カプセルを口に含み、一気に水で喉の奥に流し込んだ。
すぐに胃を中心に体が熱くなる。体が燃えて再構成が始まっていく。
「かえでくん。横になって楽にしてください」
レイに促されるまま、ボクはソファーに横になる。レイの膝枕と胸アイマスクのサンドイッチ付きで。
「服、脱がせるわよ」
手慣れた手つきでウタがボクの服を脱がせていく。
熱でヨレヨレになるとあとで着られなくなっちゃうからね。
「寒いとあれやから、部屋の温度上げておくで」
シオがエアコンの温度調節をし、バスタオルを体にかけてくれた。
体の深部が熱い。でも皮ふは寒い。
「緊張しなくて大丈夫ですよ。何も問題は起きませんから」
レイの声を聞きながら、ボクの意識は溶けていく。
「おし。カエちん、全部終わったで」
シオがボクの太ももを叩いていた。
徐々に意識が覚醒する。
「かえでくん、起き上がれますか?」
真上からレイの声が聞こえる。
ボクはアイマスクをはずして体を起こす。
「うん、大丈夫そう」
何度飲んでもこの瞬間だけはつらい。慣れることはないんだと思う。なんて言ったって、体を無理やり10歳の状態に再構成しているんだから、慣れるわけはないよね。
「動けそうならいきましょう。そろそろ10分経ちます。みなさんもお待ちでしょうから」
「そうだね。行こうか」
ボクはソファーから飛び降りる。
普段との目線の違いを確認。
「靴はこれよ」
ウタからファー付きブーツを渡され、それに足を通す。
「よっしゃ。いくで、モミジちゃん!」
そうか。ボクはモミジ。カエデの妹のモミジ。
不安は残るけれど、やるしかない!
* * *
レイに手を引かれてスタジオに戻る。
「あ、帰ってきた!」
ハルルがボクらに気づいたのか、うれしそうな声を上げる。
「モミジちゃ~ん♡」
メイメイが立ち上がり、カメラの前に駆けよってくる。
「かえで……もみじちゃん、行ってください!」
レイに背中を押されて、ボクはカメラの前へ。
「モミジちゃんだ~♡ はじめまして~!」
メイメイが膝を折り、両手を広げてボクを出迎える。
「えっと……はじめまして。ななせもみじです。さつきおねえちゃんお誕生日おめでとうございます」
ボクは小さく頭を下げる。
「かわいい♡」
メイメイの両手が強引にボクを抱き寄せる。
“激かわ!”
“ちっちゃいカエデじゃんw”
“ロリ!”
“合法!”
“いや非合法だからw”
“連れて帰ったらダメ?”
「な~に⁉ カエちゃんの妹⁉ そっくり!」
ナギチが駆け寄ってくる。
「ホントかわいい!」
「かわいいですわ~」
遅れて他の3人も近づいてくる。
「次、私にも抱っこさせて!」
「ダメですよ~。私の誕生日プレゼントです~」
メイメイがめずらしく自己主張。独占欲を発揮されるのは正直心地いい。
「カエデちゃんにこんなかわいい妹がいたなんて知らなかったわ。あれ? カエデちゃんはどこかしら?」
ハルルがキョロキョロ辺りを見回しだす。
おっと、誰かフォローをお願い!
『トイレに行っています。大きいほうなので時間がかかります』
レイ! フリップに何を書いてるのさ! やめてよー!
ハルルも「あらあら♡」みたいな顔するんじゃありません!
「お姉ちゃんいなくて淋しい? 1人で大丈夫?」
ナギチが横から声をかけてくれる。こういうところはやさしいんだよねえ。
「だいじょうぶです。さつきおねえちゃんがいるからさみしくないです」
「もうかわいい♡ 好き♡」
メイメイがほっぺたを摺り寄せてくる。
メイメイさん……とってもうれしいんですけど……ボクの正体をわかっててそれはちょっとはずかしいです。
「ねぇねぇ。モミジちゃん。春お姉ちゃんとポッキーゲームしようか♡」
こらー。幼女に何をさせようとしてるんだ! しかも配信中やぞ!
「私のネコミミ貸してあげます!」
と、サクにゃんからネコミミを強制装着されてしまった。さっそく耳がウニウニ動く。
「『うれしいけれどはずかしい』なるほど~。モミジちゃんかわいいですね!」
人の感情を勝手にネコミミシステムで読み取らないで!
「わわわわたくしも抱っこしてみたいですわ……ダメ、ですの?」
ウーミーが遠慮がちにメイメイに懇願する。
「うみ先輩……ちょっとだけですよ?」
あ、ウーミーは良いのね。ナギチはダメなのに?
ボクの体が空中で受け渡される。宙に浮く感覚は怖い!
受け渡される瞬間、地面に落ちないように、必死にウーミーにしがみつく。
「あら~。とってもかわいいですわ~」
あ、いや、やばい。
ウーミーやばい……。レイよりすごい……。やわらかさが……まさかノーブラ⁉
「モミジちゃん顔が真っ赤です! みっちゃんは私のみっちゃんですからね!」
サクにゃんが覗き込んでくる。……わかってるけど、わかってるけどすごいんだよ⁉
「どれどれ~。私も抱っこするぅ」
ハルルがウーミーの胸から奪い取るように、ボクを自分に引き寄せた。
「ああっ、もう少し!」
ウーミーが切ない抗議のあげるも、ゴリラのパワーには勝てない!
もう少し……ボクも同じ気持ちでした。ウーミーに抱っこしてほしい! でもハルルも良い匂い……。
「あなた……ホントにかわいいわね。カエデちゃんにそっくり……」
ハルルの唇が吸い寄せられるようにボクに迫ってくる。
ノー。
こんなところでダメです。
ハルルの唇に手を当てて拒否する。
「ねえ、プレゼントも渡したし、そろそろ配信終了の時間じゃない?」
カメラに醜態晒していないで、リーダーのお仕事してね?
「いけない! もうそんな時間! なんと楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、今日の特別生配信も終了のお時間が来てしまいました!」
「もうですか~。私の誕生日まで配信しましょうよ~」
メイメイさん、無茶言わないでください……。
「今年の生配信はこれで終了となります。また来年元気にお会いしましょう! 以上、≪The Beginning of Summer≫でした。ありがとうございました~」
クリスマスイブの夜は更けていく。
ボクもそろそろ元の姿に戻りたいから、ハルルさん放してください……。
≪本編へ続く≫
聖夜の生誕祭~アイドル≪The Beginning of Summer≫緊急生配信☆Xmas特番☆~ 奇蹟あい @kobo027
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