第2話 メイメイのお誕生日会

「ハッピバースデートゥーユー♪」


 アカペラでバースデーソングを歌いながら、イチゴのホールケーキを乗せた台車を運んでいく。


「ハッピバースデーディア・メイメーイ」


 17本のろうそくの炎が消えないように、ゆっくりと慎重にカメラの正面へ進んでいく。


「ハッピバースデートゥーユゥゥ~♪」


「わ~、ありがとうございます~!」


 メイメイが立ち上がり、顔の前で小さく拍手をする。


「メイメイこっちきてロウソクの火を吹き消してー」


 トトトと小走りにケーキの前に近づくと、メイメイは顔を近づけて一気に火を吹き消した。


「メイメイ、17歳のお誕生日おめでとう!」


「おめでとう!」


「おめでとうございます!」


「おめでとうございますですわ~」


 一斉にみんなの祝福の声が重なっていく。

 後ろでレイや都たちがクラッカーを何連発も鳴らす。照明が点灯してクリスマスなBGMが流れ始め、一気ににぎやかなムードへと変化する。


「クリスマスが誕生日なんてステキね! サツキ、一言ちょうだい!」


 ハルルがメイメイの横に立ち、さながらインタビューのマイクのように、銀色に輝くスプーンを手渡す。


「えっと、今日は私の誕生日を祝ってくれてありがとうございます! 私、12/25生まれでクリスマスと誕生日が同じなんですけど~、プレゼントはいつも1つにまとめられちゃうし、あんまり良い思い出がなかったんです。でも、こうしてみんなにお祝いしてもらえて、クリスマスに生まれて良かったなって思いました~」


 メイメイの目尻にうっすらと涙がたまっていた。

 去年まではおばあちゃんと2人暮らしだったし、派手なクリスマスパーティーなんてやったことがなかったと思う。今年からずっと毎年、みんなでお祝いしていこうね。


“メイメイハピバー!”

“お誕生日おめでとうございます!”

“今日が前夜祭だから明日も祝う!”

“バースデーイラストをアップしました”

“メイメイおめでとう!”


「これから良い思い出にしていこうね! サツキが生まれてきてくれて良かったわ!」


「ハルちゃん大げさ~」


「かえでくん、ケーキ切り分けます」


 ハルルとメイメイのほのぼのトークをよそに、レイが巨大なナイフと取り皿をお盆に乗せて現れる。


「レイ、それってウェディングケーキ用のやつじゃない? なんか白いリボンもくっついてるし」


「ちょうどこれしかなくて。気にしないでください」


 ちょうどそれしかない状況って、そんなことある? まあいいや。配信中だし手早く切り分けよう。


「かえでくん、このナイフ重たいので一緒に持ってもらえますか?」


「うん? まあ、だいぶ太いし、落としたら危ないから一緒に持とうか」


 レイと一緒に巨大なナイフを持ち上げて、ホールケーキに入刀する。


「ちょっと! どさくさに紛れて2人で何してるのよ!」


 ナギチが鬼のような形相で迫ってくる。

 ホコリ立つから静かにして!


「何って、ケーキをみんなで食べようと思って切り分けてるんだけど。切りたかった?」


「そうじゃないわ! なんでレイちゃんと2人でウェディングケーキ入刀してるの⁉」


「いや、これバースデーケーキだから……」


 と、レイのほうを見ると、いつの間にかサンタコスではなく、真っ白なドレスに着替えていた。

 これは……。


「かえでくんがどうしても一緒にケーキ入刀しようと言ってきたのでしかたなく」


「そのわりにはノリノリなかっこうですけど、いつの間に着替えたのさ……」


「私も入刀したい!」


 ナギチの鼻息が荒い。

 はいはい、どうぞ。


「重いから気をつけてね」


 と、ナギチに場所を代わろうとする。


「もう! 楓と――」


 ナギチの口をふさいで強引に黙らせる。

 それ以上は言わせないぞ! ハルルが気づいたらカオスになるから、この話は終わりだ!


「はいはい、もう後はボク一人で切っておくから、みんなお皿と飲み物を並べてて」


 何か言いたげなナギチとレイだったが、完全に無視して1人で巨大なナイフをふるう。今日はメイメイが主役なんだから! いつもの展開にはもっていかせないぞ!



* * *


「は~い。それではケーキと飲み物、行き渡りましたか?」


 ハルルが全員の前を見渡す。

 スタジオのセッティングを変えて、長テーブルに5人が並ぶように座っている。

 左からハルル、ナギチ、メイメイ、サクにゃん、ウーミーと横並びだ。主役のメイメイがセンター!


「せ~の。メリークリスマス! アンド ハッピーバースデー!」


 いえーい!

 ありったけのクラッカーを鳴らせー!


“おめおめおっす!”

“オレもケーキ食うぞ~!”

“シャンパン開けろー”

“メイメイの写真とケーキをSNSにアップ、と”

“誕生祭ができて良かった!”

“あ、ずるい。ハルルの誕生日なんてデビュー前だぞ……”

“来年までお待ちくださいw”



「ケーキおいしいわね~。これもしかして?」


「間違いなくシェフの味です~。マスカルポーネが混ぜ込んでありますね~」


「やるわねシェフ。いずれスイーツ対決を申し込まなければ……」


 みんな口々にケーキの味を誉め始める。

 おそるべし、食堂に住まう謎のシェフ……。


「早月さん17歳ですか! お姉さんですね! 早月お姉さんはどんなプレゼントがほしいんですか?」


 サクにゃんが立ち上がる。

 何か怪しげな機械でもプレゼントする気かな? 放送できるものにしてね? ちなみに『脳波信号・音声変換くんType-A(試作版)』はギリアウトで、『脳波信号バイパスくんUltima』は完全アウトなので1つの基準にしてみてください。


「私、今年のクリスマスプレゼントにほしいものは決めてるんです~」


 メイメイが待ってましたとばかりに両手をポンと打ち鳴らす。


「そうなんですか⁉ それって今聞いちゃってもいいものですか⁉」


 サクにゃんがチラッとボクのほうを見てくるが、事前に聞いていないので、良いとも悪いとも言えない……。


「えっとね~。私がほしいのは~」


「ほしいのは~?」


「カエくんの妹のモミジちゃんに会いたいんですよ~」


 ……は?


「カエくんの妹のモミジちゃんに会いたいんですよ~」


 いや、2回言わなくても聞こえなかったわけじゃないです……。


 ボクに妹なんていませんよ? 一人っ子ですし。


「楽しみだな~。放送中にモミジちゃんに会えちゃうなんて~」


“妹だと?”

“カエデとモミジ”

“マ?”

“ロリ?”

“会いたい”

“スタジオにくるぅ?”


 いや、知らない……妹⁉ え、どうするの⁉


 と、誰かに力強く肩をつかまれる。しかも両肩を同時に……。


「カエちん」


「カエデ」


「えっ? シオ、ウタ? 何?」


「あっちで準備しよか」


「レイさんが用意してくれてるわよ」


 2人に耳元で囁かれる。


 準備って……まさか、あれ⁉

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