第1話 今日はクリスマスイブ緊急生配信
「メリークリスマス!≪The Beginning of Summer≫です!」
今日はクリスマスイブ!
ハルルの元気な宣言で緊急生配信が始まる。
≪初夏≫メンバー5人そろい踏み。
まずいつもの席順。
前列に左からハルルとサクにゃん。後列にナギチ、ウーミー、メイメイ。
今日は全員サンタ風のコスプレをして登場だよ。真っ赤なミニワンピだけど、スタジオは温かいから寒くない!
あ、うん……ボクたちマネージャー陣も同じサンタコスさせられてる……。
“メリークリスマス!”
“待ってました!”
“ケーキ準備したぜ!”
“チキンを両手にダブルスラッシュ”
“おっすおっす”
“スタジオがクリスマス仕様だー”
「は~い。今日はクリスマスイブの夜なのに、たくさんの人が集まってくれてうれしいです!」
ハルルが笑顔で手を振る。
ハルルは純粋に喜んでいるだけなんだけど。そんなネタ振りしちゃうと――。
「恋人がいる人は無理に参加しなくても大丈夫よ~。え~いないの~? それなら今日だけは、ナギサがみんなの恋人になってあげてもい・い・よ♡」
ナギチの投げキッス。
しょっぱなから全開で飛ばしてくるじゃんか……。世界中のヘイトをすべて集めてどうしようというのさ。クリスマスの配信とか気を遣うんだよねえ。
“あ、間に合ってます”
“心に決めた人がいるんで”
“メイメイ、おっすおっす”
“ちーちゃーんしゃべってー”
“ハルル、ナギサ黙らせてw”
“恋人待たしてあんだよwバッ筆箱から出てくるなって”
“ウーミーと結婚するので(真顔)”
“カエデどこ?”
“メリクリー”
あーあ、コメント欄もカオスになっちゃった。どうするのさこれ。
頼むから予定通り、進行して!
「あ~もう、時間も限られてるんだから、ちゃんと自己紹介からしましょ。クリスマスだから、初めて見てくださる方もいるかもしれないし」
ハルルが主導権を握りなおす。
頼むよー。諸々の事情もあって、ちゃんとみんなが誰なのか自己紹介してもらわないと困っちゃうからね。
あ、ボクはマネージャーの七瀬楓(ななせかえで)です。メイメイこと夏目早月(なつめさつき)の担当マネージャーをやってます。
≪The Beginning of Summer≫通称≪初夏≫は5人のアイドルに5人のマネージャーがついて二人三脚で活動をしているアイドルグループなんですよー。
良かったら生配信見ていってくださいね。よし、宣伝終わり。
「じゃあまずは私から。新垣春(あらがきはる)17歳です。≪The Beginning of Summer≫でリーダーを務めさせていただいてます。ハルルって呼んでください。ハルちゃんって呼んでくれる人もいますね。来年初春に私がナズナ役で出演している映画『朝日は西から昇る』が公開予定です。よろしくお願いします!」
“ハルル愛してるー!”
“ハルルいいよー”
“今日もかわいい!”
“映画楽しみにしてる!”
“ナズナナズナ!”
さすがハルル。しっかりと映画の宣伝も入れてくるぅ。あ、ちなみに映画にはなぜかボクも猫のチィタマ役で出演してます。メイメイもエキストラとして出演してるのでぜひ。
「ありがとうございます! エチュードの様子なども公式ホームページに紹介されていますのでご覧ください! じゃあ次、サクラ!」
隣に座るサクにゃんにトークのバトンを渡す。
サクにゃんがアイコンタクトで受け取り、カメラのほうに向き直った。
「はい! 小宮桜(こみやさくら)15歳にゃん。サクにゃんとか、ちーちゃんって呼んでほしいにゃん。#海桜もよろしくにゃん!」
“超絶かわいいサクラ!”
“にゃんにゃん”
“ぼくらのうみさく愛してるー!”
“今日は噛まなかったにゃん”
“ちーちゃんちっちゃくってかわいいにゃん”
サクにゃんもようやく配信で噛まずにしゃべれるようになってきましたね。ダンスは絶対失敗しないのにトークは噛み噛み。でもあんまりトークに慣れすぎると初々しさがね……。ほどほどに噛んでほしい!
「サクラはいつも自己紹介の時だけ『にゃん』をつけるわよね。ほかは普通にしゃべるのに」
「いいじゃないですか~。自己紹介の時はネコキャラをちゃんと意識してるんです!」
「それならフリートークの時も意識したらいいんじゃないの?」
「だってしゃべりづらいですにゃん」
だよね! 語尾ににゃんつけてると、ホントしゃべりづらいニャン。チィタマも大変なのニャン。原作者、安易に語尾でキャラ付けは良くないと思うニャン!
「そ、そう……。でもサンタの服にネコミミはちょっといかがわしい匂いがするわよ? はい、次! ウミ!」
後列真ん中のウーミーを指名。
いつもならメイメイだけど、今日は順番変更ね。主役のメイメイにはトリを務めてもらおう!
「はいですわ。わたくしは糸川海(いとかわうみ)18歳ですわ。本日クリスマスメドレーのピアノ動画をアップしておりますの。ぜひご覧ください。#海桜をよろしく……にゃん……」
“うぉぉぉぉぉぉぉ”
“ウーミーあいしてるぅぅぅぅにゃーん”
“ぼくらのうみさく愛してるー!”
“ピアノ100万回聞いた!”
“サンタコスで弾くピアノ動画!”
“エンドレスループで再生する!”
ウーミーはあいかわらず熱狂的なファンが多い。顔ファン……胸ファン(?)がとっても多い……。照れながらの「にゃん」は反則だと思うの。今ので推し変した人いると思うの。今日はメイメイが主役だから! お願いって言ったよね⁉
「ウミ、自己紹介ありがとう! ピアノとってもステキだったわよ~。メドレーってすごいのね。曲のつなぎ目がわからなかったわ」
「見てくださったのね。ありがとう。あれはクリスマス用のメドレー楽譜が売っておりますの。作った方を褒めて差し上げてくださいね」
「そういうものなのね。私ももっと音楽のことを勉強しないと! でも、ウミ。そのサンタ服で激しくピアノ弾いてると……胸が揺れてエロ過ぎるからアカウント停止されないようにね! はい次、ナギサ!」
ハルルの捨てゼリフー! 小さく抗議しているウーミーを完全無視。ひどすぎる。それ、絶対僻みが入ってるでしょ! 一緒に乳製品とって……あ、メイメイがあのマッドサイエンティストの麻里さんからもらってたサプリメント、効果が出始めてるって言ってた! ボクもちょっとほしいんだけど。一緒にもらいに行こう?
「は~い。水沼渚(みずぬまなぎさ)18歳ですわ~。エルフの国から来ましたのよ~。#渚楓をよろしくね~。みんな仲良くしてくださいニャン」
“はいはい渚”
“ナギサいいぞー”
“今日もとばしてるー”
“自己紹介がパクりってウケるw”
“#渚楓は初めて聞いたわw”
ひどい自己紹介を見た……。ボケたのかマジなのか、もはや判断不能。パクられたウーミーと急に名前を出されたボクがやけどするからやめてほしいニャン。
「はいありがとう。ナギサには良いお薬を出しておきますね~。じゃあ次――」
「わ~わ~。もうちょっとしゃべらせて~。私だってサンタコスに触れてほしいよ~。一生懸命改造したのに~!」
「改造したの? ぜんぜんわからなかったわ……どのあたり?」
「ここよ、こ・こ♡ どう?」
「どうって言われても……」
ハルルが困惑している。
それもそのはず。ナギチが改造したと言い張っているのは、背中の部分がハート形に大きく切り取られていた。後ろ向かないとわかんないよ、それ。
「ステキ、ね……次からはもうちょっと配信映えするようにしてみてね。みんなも反応に困るから……」
はい、ガチのダメ出しー。キャラ変してもナギチは天然で滑っていくからなあ。
「それじゃあ最後、サツキ!」
ハルルがそう宣言した瞬間。スタジオの照明が一斉に落とされる。
よし、ボクの出番だ!
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