第5話 波風立たず

 コンパは、穏やか~に、緩やか~に始まって終わった。


 得たかった情報は、得られなかった。


 とっても残念な話だが、この集まりで真面目な話をする人は、あまりいなかった。

 どちらかと言えば、気の合う友達を探すとか、近くにカフェや居酒屋の情報、楽で稼げるアルバイトの情報。

 そんな情報が飛び交っていただけだし。


 せっかく先輩がいて、ゼミの情報が得られるのなら、ゼミ生の就職先とか、ゼミの先生の研究内容とか、そういう物をゼミ内部の人から聞きたかったのだけれども。


「どうかな。そういうのは、学生課に聞きに行った方が早いかも」

で、一蹴されてしまった。泣


 まあ、楽に単位が取れそうな科目情報は、得られたのは良かったけれども、それだけ。

 日本の大学生、将来の夢を抱えて大学に行く者は、少数派なのかもしれない。


「ほらほら、そんな悲しそうな顔しないで、一緒にご飯行こうよ!!」


 がっかりする私に機嫌のよさそうな由紀ちゃんは、ご飯に誘う。


「うん……。あまり食事もでなかったしね……」


 お腹は空いた。学食この時間は開いていたっけ? あ、いっそ新しくできたカフェでパスタでも? 無駄に疲れたから、いっそファストフード店でも。


 由紀ちゃんと一緒に、あれこれとどこに行こうかと話し合っていると、先ほど受付にいた多田君が声を掛けてくる。


「ねえ、これからひょっとして二人で食事? 一緒に行ってもいいかな? 一緒に飯食いに行く約束していた友達にドタキャンされてさ」


 そうなんだ。それは可哀想だな。


「駄目!! 柊ちゃんは、私と一緒に食事に行くの!!」


 相変わらず、シャー!! と警戒心むき出しの由紀ちゃん。

 そこまで……そこまでしなくても良いんじゃない? 


「一人増えても、別に問題ないことない?」

「ええ~! せっかくの二人の時間が!!」

「頼むよ。ボッチを助けると思って!!」


 ボッチって……。まあ、友人にドタキャンされたなら、ボッチかな?

 それに、もし多田君がナンパ男だとしても、由紀ちゃんがいれば平気だろう。

 特に危険な目にも合わないだろう。

 近くのお店で食事するだけだし。


「いいよ。今日ぐらい」

「うう……。柊ちゃんがそう言うなら……」

「ありがとう!!」


 さぁ、行こう! と、嬉しそうな多田君。

 私達は三人で、多田君のおすすめだと言うレストランへ。

 

 まぁ、リーズナブルなことで有名、有能なチェーン店のイタリアン。

 大学に近いこともあって、私も由紀ちゃんも良く行っている場所。


「良かったぁ!」


 突然、由紀ちゃんが喜びだす。

 そんなにこのお店の料理が食べたかったのだろうか?


「な、何が?」

「だって、このお店ってことは、本気で本当にナンパ系じゃあないってことでしょ」


 なるほど。実は、由紀ちゃんか私を狙ったナンパでした〜なら、もっともっとオシャレなお店で、出来る男アピールしそうだ。


「確かに。本当にただのボッチってことね」「ちょっと……二人共、色々失礼すぎ」


 いや、だって、ボッチだって自分が言ってたんだし。

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由紀ちゃんと一緒 ねこ沢ふたよ@書籍発売中 @futayo

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