第4話 変わりなき物事

コンパの会場に着けば、受付に他学部の学生と思しき男子生徒が座っている。


「あれ? 学部だけじゃあないんですか?」

「うん。特別に、手伝いということで参加しているのが数名」


 私は露骨に嫌な顔をする。

 中学、高校と女子校で過ごしてきて、英文科なんて女子率の高い学科を選んだ私。

 同世代の男子への免疫なんて皆無だ。


「そんな嫌そうな顔しないでよ」


 ちゃ、チャラ男って奴か?

 そ、そうに違いない。


 だって、文学部英文科。そんな女子だらけの集まりに手伝いを勝手出るなんて、女子と仲良くなりたいチャラ男に違いない。


 私みたいな堅物には興味ないだろうが、可愛い同級生達を狙っているに違いない。


「あ、違うから! 俺、女子目当てじゃあないから」

「な、なな何よ」


 考えを見透かされて私は狼狽える。


「姉貴が文学部なんだよ。だから、無理矢理手伝わされている」

「そうなんだ」

「だって、嫌だろ? 受付にいきなりナンパしてくる奴が座ってたら。来場者の大半が帰るわ。そんな集まり」


 なるほど。

 それもそうか……。

 落ち着いて考えてみれば、学部の学生は、コンパで話を聞くのに忙しい。

 他学部に応援を頼むのも自然……かな?


「ごめんなさい。誤解して」


 私は素直に謝る。

 良いって! とニコリと笑って受付の男子が右手を出してくる。

 握手を求められている。

 

 私もそれに応えようと右手に力を入れるが、私の右手、前に出ない。

 てか、右腕全体が痛い。重い。


 何かに取り憑かれて……由紀ちゃんだ。


 なんだか重いオーラを纏ってこちらを睨んでいる。


「どうしたの??」

「ダメだからね! 柊ちゃん!」

「何? 何?」

「そんなすぐに人を信用しちゃダメなんだからね!」


 キッと由紀ちゃんが受付を睨む。


「何、この子。可愛いね」

「うるさい! 私の柊ちゃんに手を出すな!」

「柊ちゃん……ああ、君の名前?」

「う、しまった!」

「ああ、はい。そしてこの子は、由紀ちゃん」

「へぇ……俺は、多田治ただおさむ


 多田君が今度は由紀ちゃんに手を伸ばす。


 スッパーン!!


 大きな音を立てて、多田君の手は由紀ちゃんに思い切り叩かれた。

 猫なら「シャー!!」って威嚇している状態だ。


「こ、コラ! 由紀ちゃん!」

「良いよ! 面白いし」


 多田君は、にこやかに許してくれた。

 由紀ちゃんを毛嫌いしないなんて、多田君は悪い奴ではないのかも知れない。

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