第2話 のどかな夕暮れ

 ゆったりとカフェのお茶を楽しんでいると、こちらに向かってくる人影。


「ひいらぎちゃーん!」


 ああ、由紀ちゃんだ。

 今日の午後は、講義だったのね。

 私がこの講義取らないって言ったら、この世の終わりみたいに悲しそうな顔したっけ。

 そんな四六時中同じ行動なんて取れないと言ったら、冷たいと拗ねちゃったっけ。


 ぎゅうううう!


 そう音がしそうなくらいに抱きついてくる由紀ちゃん。

 猫のようにスリスリスリスリと頭を擦り付けてくる。


「会いたかった!!」

「うんうん。分かったから」


 なでなでなでなで。

 私が頭を撫でれば、嬉しそうな由紀ちゃん。


 猫というより……ワンコ?

 しっぽがあったらブンブン振っていることだろう。


「ごめんなさい! 柊ちゃんを試すようなメール送って!!」


 涙目の由紀ちゃん。

 なるほど、由紀ちゃんにとって、あれは私を試す内容だったのか。

 いつもの感じなのだとスルーしちゃってた。


「だって、講義の間、会えなくて寂しくて。色々と考えちゃって!」

「いや、授業中でしょ? 先生の話を聞こうよ」

「はうぅぅぅ」


 はうぅぅぅではない。我々学生の本分は、勉強。大学生なら専門家として通用するように、第一線の研究者から講義を受けて学ぶべきだ。

 まぁ、全国の学生の何割がそんな真摯な気持ちで講義を受けているか分からないけれど。

 私だって、単位の取りやすさとかそんなことで講義を選んでしまっているし。


 てか、相変わらず由紀ちゃんが向けてくる情熱が重い。重すぎる。


 昔から友達が少なかったという由紀ちゃん。半年以上友達なのは、私が初めてなんだそうだ。

 たいていは、この有り余る重厚な愛に、ほんの二、三ヶ月で相手は距離を取ることになるのだそうだ。


「柊ちゃんの真面目なとこ好きよ」

「誤魔化さない」


 由紀ちゃんが、シュンとしている。


「ところで、由紀ちゃん。今度の学科コンパどうする?」

「行かない」


 即答だ。


 学科コンパ。

 学科の上の学年も合わせて、学部所属の全員が対象の親睦会。

 学校の体育館で開催される立食パーティーで、土曜日の日中にお酒も出ない、ど健全イベント。

 下級生にとっては、上の学年からゼミの情報を聞くことができる。上級生からしたら、役に立ちそうな下級生に将来ゼミを選んでもらえるように声をかける。


「ええ、行かないの? ゼミの情報欲しいし。単位の取りやすい講義なんかも教えてもらいたいし。私は行くよ」

「うぇ〜、行くのぉ?」

「とりあえず、私は参加する」


 じゃあ、行く……。

 由紀ちゃんが、ボソリとつぶやいた。

 

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