由紀ちゃんと一緒

ねこ沢ふたよ

第1話 うららかな午後

 大学の銀杏並木が、黄色く色づく今日この頃。寒い日が増えてまいりましたが、皆様、お風邪など召されずに、お元気でお過ごしでしょうか?


 ピロン

『柊ちゃん、ちょっとお話があるの』


 私こと吉田柊よしだひいらぎは、お陰様で元気に大学生活一年目をつつがなく楽しんでおります。


 ピロン

『柊ちゃんを友達と思って、勇気を持って言ってみるね』


 ここは、大学のキャンパス内にあるカフェ。美味しいコーヒーが、外の喫茶店より安く飲めると人気のお店。

 少し寒くはなってきたけれど、日のある時間は、ほのかに暖かい。そんなテラス席が私のお気に入り。


 ピロン

『柊ちゃん、これは貴女を大事に想うからこその忠告なんだけれども、この間私が世間話をした時に、柊ちゃん「そうだね」の一言で片付けたでしょ? あれって、とっても傷つく言い方だから気をつけだ方がいいよ。あと……』


 スマホの着信が、先程からピロンピロンうるさいが、気にしない。

 相手は分かっている。

 同じ学科の同級生、三島由紀みしまゆき


 ピロン

『返信してくれないのは、怒ってる? え、柊ちゃん、怒ってる? 私のこと嫌いになった?』


 初めてこの怒涛の着信攻撃を見たのは、確か5月の終わりくらい。

 びっくりしたなぁ……あの時は……。

 大人しそうな見た目の物静かな可愛いらしい子。背の低い華奢な見た目。

 そんな印象しかなかった由紀ちゃんからの怒涛の着信に、何か自分がとても悪いことをしたのではないかと悩んだものだ。


 でも、もう慣れた。由紀ちゃんは、こんな子なんだと、今は理解している。

 今では、この絨毯爆撃のさなかでも、ゆったりとコーヒーを楽しむ余裕すらある。

 ああ、今日のコーヒーは、エメラルドマウンテンをベースにしたブレンド。

 喉を通り過ぎる豊かな味わいに心満たされる。


 ピロン

『ごめんなさい。私ったら柊ちゃんの気持ちも考えずに、自分の気持ちを押し付けて。私は、柊ちゃんのこと嫌いじゃないの。嫌いじゃないからむしろ、つい言ってしまったというか……』


 そろそろかな?

 

『大丈夫。由紀ちゃんのこと、嫌いじゃないよ』


 一言だけ私は、由紀ちゃんに返信した。

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