第35話 猫龍炎舞

風穿かざうがち!』


 リンは試合開始の宣言と同時に抜剣し、強風の勢いと共に物凄い速さでレオナに接近する。


『爆走!』


 レオナもリンと同時に爆発の勢いと共にリンへ向かった。


『な!?』


 レオナの接近をいち早く感知したリンはレオナを避けるように突進の勢いを利用し、高く跳躍した。


『…姉さん考えたね』


 医務室から中継を見ていたレオンが呟く。


『レオン、解説頼めるか?』


 蓮はレオンに解説を求めた。


『蓮は、イズナが狐混じりということは知ってるね?リンは猫混じり…人間離れした瞬発力と一点集中の高レベルの風魔力を宿した突進…

 流石の姉さんの広範囲爆発による爆風も範囲を極限まで絞ったリンの前では突破されてしまうのさ…』


『…防ぐこと及び躱すことを選択肢から捨てた捨て身のカウンターというわけか…

 ぶっ飛んだレオナらしい発想だ…』

(猫は時速48kmで走るとも言われている…それが人間代の大きさで高レベルの風魔力と共に接近か…やばいな…

 それに加え猫には人間の四倍程の動体視力が備わっている…相手にしたくないな…)


『リンもそれを察知して、回避したみたいだね…』


 場面は戦闘中のリンとレオナに移る。


『侵食…炎熱地獄…』

(リン…これで君はもう踏み込めないよ…)


 レオナが詠唱し右手を地につけると地表は黒く染まり、炎上した。


『こりゃ…あかんわ…』

(地に足着けへん…風で火を払う?同属性当てられて相殺されるのが落ちや…

 火を風で集めようにも…あの火はレオナの魔力や…それを利用して起爆されるだけ…相変わらず詰めるのがお上手やなぁ…

 "今はまだ"お空で我慢へなあかんな…侵食した床からどこでも魔法飛ばせるやろうしなぁ…さぁどないしよか…)


風纏ふうてん…』

(ウチの体に絶え間なく風を出し回す魔法や…

正直魔力効率度外視やけど…そうこう言ってられへん…出来上がるまでの辛抱や…)


『……』

(リンはどうやら"あれ"を狙うみたいだね…出来上がってしまう前に仕留めるしかないね…

 動きは制限したけどあの猫ちゃんすばしっこいんだよなぁ…)


スー…


 リンは降下し舞い上がる火を自身の風に取り入れ始めた。


『……』

(あんだけ範囲絞って出し回された詠唱魔法に取り込まれちゃ、流石に干渉できないね…

 いいように利用されたまんまってわけにもいかないしさっさとやってしまおう!)


『龍炎乱舞…』


 レオナの詠唱と共に床から発せられた炎から巨大な炎龍が形成された。


『ファイアブレス!』


 炎龍から炎の咆哮がリンへ向かって襲いかかる。


ヒョイ…

(炎をギリギリで避けて少しずつ馴染ませるんや…直撃はあかん…)


 リンは軽やかにブレスを回避した。


(ほう…流石は人間の四倍と評される猫の動体視力…じゃこれはどうかな…)


スッ…


 レオナは二本の立てた指を振ると、炎龍のブレスは二体目の炎龍へ形を変えリンに向かう。


(見せかけやな…ウチの行動を制限する為の演出…所詮は咆哮で生じた分離体…

 少しずつ炎に馴染みつつある今のウチなら大した脅威じゃあらへん!そいつを取込んで出来上がったらウチのターンや!)


 リンは二体目の炎龍へ向かい距離を詰める。


ニヤ…


『ファイアスフィア!』


 レオナは不敵な笑みを浮かべ詠唱後、向かってくる二体目の炎龍は火球へと変化しリンの周囲を包んだ。


『なんや!?』

(このまま…炎を集めて適応前に焼き仕留めるつもりやな…腹括るしかあらへん!)


『全魔力解放!エアロバースト!』


 リンは自身を中心とした高出力の風魔法を放ちレオナの炎を吹き飛ばした。


『鎧、解いちゃったね!』

(勝ち急いだね…リン、まぁ仕方ないけど…

この隙は見逃さないよ!)


『ブラストストレート!』


 火と風の魔力を纏ったレオナの右ストレートはリンの腹部に炸裂し、吹っ飛ばした。


『高範囲の風は一点集中の風に突破される…

 リンならよくわかってるでしょ?私も体表に風を纏ってリンの風を突破させてもらったよ…ってももう聞こえてないか!ぶっ飛ばしちゃったし!』


『これは…勝負あったか…?』


『いや…まだだ…』


 医務室から中継を見ている蓮の発言にレオンが答える。


(聞こえとるで…レオナ…猫の聴力舐めんなや…けど…今ので出来上がったで…)


ドクン…


 レオナから受けた魔力がリンの心音と共に全身に広がる。


ブォ…


 リンの頭部からは猫耳、臀部からは猫の尻尾が生え、それらは炎で形取られていた。


ボンッ!


 リンは行き渡ったレオナの魔力と自身の風の魔力を合わせた爆発による高速移動で闘技場へと戻った。


『あー…出来上がっちゃったか…』


 リンの変貌を見たレオナは面倒くさそうに呟く。


『レオン…これは一体…』


『蓮…異世界人の魔力を取り込む性質が高いことは知ってるね?リンの体は更にその性質が高かったのに加え、魔導実験による改造でよりその性質が高まってる…

 その取り込み能力の高さは他の者の魔力を取り込み自身の物とする…

 それに見てくれ…体を変質させる程の特異体質だ…傷だって魔力で癒える…

 加えて、姉さんの魔力を取り込んだことで姉さんの魔法に対して高い耐性を得ている…

 持ち前の高い魔力吸収力と魔力耐性で姉さんの魔法は吸収され、傷は魔力で癒える…』


『詰んだか…』


 中継を見ている蓮とレオンが言葉を交わす。


『ウチは取り込んだ魔力で姿を変えることができる…まさしく化け猫やな…ん?今は火吹き猫か?まぁどっちでもええわ

 こうなった以上あんたに勝ち目はあらへん諦める方が身の為やで』

(ウチを殺さん為に火力抑えたのが仇になったなレオナ…

 悪いけどその良心に漬け込ませてもらうで)


『いーや!勝負はここからだよ!

楽しいのはこれからなんだ!』

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