第34話 シエルの予感
『で、話って何だ?』
蓮はシエルに問う。
『私…この大会…なんか嫌な予感がする…』
『……嫌な予感?』
『この大会は強い魔導士や珍しい魔法が集まるり過ぎてる…』
『……マジックハンターか?
確かにその可能性は否定できないな…
シエルの望みは試合の中止か?』
『出来れば中止…出来なければ棄権…』
『つっても、それは難しいだろうな…
この大会に出資して、広告や販売を行ってる団体もいるし…
観客側の観戦費もタダじゃない…それに可能性に臆していてはこの様な大会の開催はそもそもできないって話になるしな…
マジックハンターの可能性を疑うなら、開催前の方が可能性はあった…
俺らとしては参加しないという選択肢は取れたかもしれないがもう参加しちゃったしなぁ…それに棄権もリスクが大きい…
観客や関係各所に目の敵にされるからな…冒険者業は恐らくやってけなくなる…
可能性の域を出ていない事象に中止や棄権を実行するのは流石に…な』
『……』
シエルは蓮の話を聞いて曇った表情で俯く。
『シエルが心配してくれているのは分かった…けど…状況的に中止と棄権は結論から言って出来そうにない…とは言っても賊が来る可能性を示されて何も対策を取らないのもな…』
(軍の警備隊を呼ぶか…?まぁ無理だろう…軍の出動には国の認可と出資が必要になる…今更そんな協議はできないだろ…
アリシア邸に残ったメンバーを呼ぶ…それも現実的じゃない…拠点の守りが疎かになるし、距離も離れてる…それに自分たちが勝手に祭りに参加して、マジックハンター怖いから護衛してって言ってもなぁ…)
蓮は難しい顔をして悩む。
『……話を逸らす様だが…今回以外にも魔法で競う大会は過去行われているはずだ…勿論、行われてきた中で優秀な魔導士や珍しい魔力を持った者も居ただろう…だが、マジックハンターが大会を襲撃したという前歴はない…
向こうからしてもリスクが高すぎるからだ、人が多いとすぐ顔が割れ、取り押さえられるリスクも格段に上がる…
なのに何故そんなに心配するんだ?』
蓮はシエルに問うた。
『前の襲撃で、ラギー達が死にかけたってのもあるけど…奴ら目線だとラギー達が育つ前に狩りたいと思うはず…奴らが今回の大会のことを嗅ぎつけていたとして、大会でラギー達が育つのはリスク…だとしたら…
ラギーが消耗した試合の後すぐか…一日後若しくは二日後あたりに奴らは仕掛けてきそう…』
『……協力を仰げそうなのは…アレンさんとその連れの少女…カノンさん…になるか…武家屋敷先輩は流石に負傷が大きい…
とりあえず…この件は大会参加者には共有した方がいいかもな今悩んでも仕方ないし…
明日可能な限り共有して協力と対策の話を進めよう…ということで俺は寝るよ…おやすみ…話してくれてありがとな』
『…うん…ラギーおやすみ…』
蓮とシエルは互いの部屋へと戻った。起床後、蓮はシエルと話したことを他の者達にも伝えた。
『ふむふむ…んまぁ、蓮の言う通り中止や棄権は出来なさそうだね…あくまで可能性があるってだけだし…
ただ無視もできないのも事実だね…シエルんが言った通り、賊が蓮達を狙うには結構狙い目って気もする…
取り敢えず医務室の皆んなにこのことを共有した方が良さそうだね…』
(賊の動きを制限する為に…観客への呼びかけも考えたけど…パニックになったり、支援者として賊が名乗り出られても厄介…)
蓮の言葉にレオナが言葉を返した。
『…恐らく蓮君が賊にとっての一番確保したい目標だろう…音村君が第一目標なら今までで何らかの動きがあってもおかしくないからな…
私は蓮君の警護を担当するよ、兄の件もある、シエルちゃんやレオン君は医務室の怪我人のケアと警護を任せた方が良さそうだしな』
『うん…僕もそれがいいと思う…
シエルもそう思うよね?ん…シエル?』
『……』
レオンがアイリスの案に賛成し、シエルに問いかけたがシエルは浮かない顔で俯く。
ボソッ…
『シエルん…蓮のことは心配なのはわかるけど…此処はアイリスを信じて…
それに…シエルんが皆んなのサポートをしてくれたらまわりまわって蓮の助けになるから…ね?』
レオナがシエルに耳打ちした。
『うん…分かった、私もそれでいいよレオンよろしく…アイリス、蓮をお願い』
一同は朝食を済ませ、会場へと向かった。
『さぁ!お待ちかねぇ!二日目第一試合の開幕だ!まず一人目ぇえ!王国軍の中でも上位の戦闘力を誇る実力者!その実力は特級魔導士に届くのかぁ!?
リン=ラナトラレサァアァアァ!』
ワー!ワー!
キャー!キャー!
『軍上位の実力とやら見せてくれやぁ!』
『Sランク喰いの次は特級喰いだぁ!やったれー!』
『続いて二人目ぇ!特級魔導士序列三位!
彼女の圧倒的パワーは全てを破壊する!爆撃令嬢!レオナ=クラークゥウゥッ!』
ワー!ワー!
キャー!キャー!
『いっちょ派手なの見せてくれやー!』
『ぶっ飛ばせー!特級の力見せてくれー!』
実況と観客の声により会場に熱気が籠る。
『あんたの強さはよぉ〜分かっとるけど…
こっちも数多の戦場を乗り越えてきたんや…
殺す気で行くからな…油断だけはせぇへん方がええで…』
『君相手に油断できるほど私は大した人間じゃないさ…』
(さーて…蓮達は医務室の皆んなに伝えに行った頃かな…
賊関連のことは気になるけど…気にしてちゃ勝てないから今は目の前の試合に集中だね…)
リンとレオナが試合前に言葉を交わす。
一方その頃蓮達は医務室へ出向いて医務室にいる参加者にマジックハンターが現れるリスクがあることを共有した。
『なるほどねぇ…俺は結構色々な試合参加してきたが賊が現れたことなんてなかったな…俺がいること知ってて狙う命知らずな奴ぁいねぇしな…』
『…とは言っても可能性はゼロじゃないだろう…警戒しておくことに越したことはない。
我々の応急処置は済んでいるから…魔力回復と治癒によるサポート系の施しが受けれたら良いが…』
『その手のことはウチのアリスができるけどよ…アリスは俺のケアを優先することで俺がアリスを第一に守るって言う契約を結んでる…あんたらにアリスの魔力を割くのはいっちゃあなんだが、こっちとしてもリスクがある…
今のアリスが全ツッパで俺を回復したら万全を10割としたら8割ぐらいは回復する計算だ…そんだけ俺が回復したらアリスと俺自身の身はほぼ安全だろうな…あんたらを守るとなっちゃあ話は別だが…』
蓮の話を聞いたアレンとカノンが言葉を返した。
『まぁ確かにそっちからしたら、こっちの身を守る義理はないしな…』
アレン達の話を聞いた蓮か反応した。
『つかよ…今の話を聞いて思ったんだが…賊の本命が蓮だっけ?
あんたなら別の怪我人は此処から離したがいいんじゃねぇか?それなら蓮、あんたが俺と契約を結んだら身の安全を保証してやらなくもねぇが…』
『アレンさん…そうした場合別のリスクが生じるよ…
あなたと言う圧倒的な護衛がいるなら蓮を諦めて守りが手薄になった別の怪我人を狙うはずさ…』
アレンの発言にアイリスが反応した。
『それはどうしようもねぇだろ、敵が来るのかもどれくらいの戦力かも分からねぇのに話すだけ無駄じゃねぇか?
仮に敵が来たとしたら俺はアリスと俺と契約を結んだ奴だけは守ってやるそれだけは言っておく』
『分かった…
ってなると私とシエルとレオンが護衛となるわけだけど…
正直蓮とレオナの負傷の度合い次第になるな…それに負傷者の数が手に余りそうだ…』
『リンの身は俺が保証しやすよ…』
『ん?君は…』
アイリス達が話をしているとギルベルトが医務室へ入ってきた。
『何か、名の知れた魔導士がこの部屋に集まってるぽかったから興味本位で様子見に来たんすけど…
何かあんまり穏やかな会話じゃないみたいっすね…とりま、リンは俺の身内なんでそこだけは心配しないでくださいな…』
『となると…あとは音村と、武家屋敷先輩と…カノンさんと…
俺と俺の対戦相手のフォルス氏辺りが護衛対象となりそうだな…』
(武家屋敷先輩はほぼ動けない…カノンさんも立って歩くのがやっと…
音村は多少回復したと思うが…本領の5割以下の実力しか発揮できないだろう…)
『蓮君、心配することはないさ自分の身は自分で守るよ。
君達は他の参戦者を気にかけてくれ…』
『いや!カノンさんは俺が守るね!ちとまだ体は痛むけど敵から逃げるくらいなら俺の魔法は適してる!』
音村がカノンの護衛をかって出た。
『音村君…それなら彼女の護衛は君に任せるよ…無理だけはしないでくれ…』
(少人数だし…逃げることに関しては音村君の魔法は適してる…人員も少ないし致し方ないか…)
アイリスは音村にカノンの護衛を託した。
『蓮と姉さん、それと…武家屋敷さんとフォルス氏の護衛は僕とシエル、アイリスさんで何とかなるかな…?』
『それでは其方らの負担が大きかろう…拙者に情けは不要…
最期まで武士道を貫き通すまでよ…』
レオンの提案を受け入れず、武家屋敷は護衛の協力を拒否した。
『…はぁ、呆れた…このバカの面倒は俺が見る、こいつには楽しませてもらったし…
それに、此処で死なせるのは惜しい…義理堅い武士に貸しを作っておくのも悪くないだろうしな…
アリスこいつが動ける程度までに回復してくれ、俺にはその後の余剰分の魔力で回復を頼む』
『アレンさんがそう仰るなら…お侍さんそう言うことですので、大人しくしていてくださいね…ヒーリング…』
アリスが発した回復魔法により、武家屋敷の体表は白く輝き損傷が失せていく。
『おぉ!癒される!恩に着るぞ!アレン殿!アリス殿!』
『アレンさん、ありがとうこれでこっちも大分動きやすくなった…
あとは敵の動きと試合次第だね…』
レオンはアレンに礼を行った。
『シエル…皆んなに話してよかったな、これで賊が来たとしてもある程度は上手く動けるだろう…』
『……うん…ラギーありがとう…』
(何だろう…みんなとお話して、体制は整ったはずなのに…嫌な予感が消えない…)
場面はリンとレオナの試合に移る。
『さぁ両者!準備はいいかぁ!?
二試合目第二試合!開始ィイイィイ!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます