第33話 染血の過去 月蝕の兆し
たらぁ…
武家屋敷は胸部から腹部にかけてアレンに斬られ、アレンは武家屋敷から横腹を斬られ血を流す。
『み…見事なり…』
武家屋敷は多量の出血と共に倒れた。
『此処で決着だァアァアァ!
激闘を制したのはアレン選手ダァア!』
……ザワ…ザワ…
『凄かったな…思わず魅入っちまったよ…』
『あの侍大丈夫か?めっちゃ血流してたけど…』
観客席の観戦者は騒めく。
『治療の心得がある奴は処置を頼む!
この男を絶対に死なせるな!』
アレンの叫びと共にレオンとシエル、アリスが駆けつけた。
レオンは止血及び闘技場に散った血を即座に集めて武家屋敷の体内に入れ、シエルは傷口を縫い、糸で筋繊維を補強しアリスは治癒魔法で治療を行った。
ある程度の応急処置が行われ武家屋敷は医務室へと運ばれた。その後医務室で輸血が行われ武家屋敷の状態が安定し、眠っている。
『……何とかなったね…観客席のからO型の人を募ったらすぐに輸血に応じてくれて助かったよ…』
応急処置を終えたレオンが呟く。
『この侍…魔力をすっからかんなのに無理しやがって…体を代償にして強化するとはな…
みんなありがとな…こいつと俺の応急処置をしてくれて』
アレンが応急処置を行った面々に礼を言った。
『どういたしまして…にしても…にしても凄い試合でしたね…お疲れ様です』
『あぁ…大した奴だよこいつは…ここまで俺を追い詰める奴はそうはいねぇ…特級魔道士の中でも上位に入れる実力は間違いなく備わってるだろうよ…
にしても…こいつの魔法めちゃくちゃすぎだろ…どっからどこまでが別枠でマルチか全く分からなかったぜ…』
『よくぞ聞いてくれた!
我が魔法は我が理想とする戦をする為の…言ってしまえば武士の魔法也!』
『わっ!ビックリした…
てか意識戻るの早っ!
ってことは何だ…?別枠魔法の…武士の理想を実現する魔法ってことか…?
めちゃくちゃだな…』
『好きに解釈してくれて構わん!
しかし!体を酷使しすぎた!治癒魔術を受けながらで全治2週間だそうだ!
ハハハハッ!これからの退屈を思うと笑いが止まらん!』
『全く…煩いのが医務室に来たわね…』
『そう?俺は賑やかで良いと思うぜ!
武家屋敷先輩の試合中継で見てたよ!すっげぇカッコよかった!』
医務室で安静にしている音村とカノンが武家屋敷に反応した。
『おぉ!音村少年!そう言ってくれ貰えるとこちらも体を張った甲斐があったというもの!』
『張りすぎだけどな…俺の怪我はそこの侍程じゃねぇが暫く医務室で安静にしとけって言われてるし…数日間世話になるぜ』
『おぉ!マジで!?それにしてもアレンさん凄かった!序列一位はやっぱとんでもねぇや!』
『オトムラっていったか?あんたも結構やるじゃねぇか…ほんとにC級か疑いたくなる試合だったぜ…
まだまだ若ぇし伸び代が半端ねぇ…今後の活躍、楽しみにしてるぜ』
『えへへ…光栄なお言葉ですなぁ…』
『騒〜お見舞いに来てやったぞ〜
なんか随分賑やかだねぇ〜…』
レオナとアイリス、蓮が医務室に入ってきた。
『お!レオナ先生どもども!
みんなありがとな!』
『音村君お疲れ!一回戦突破凄いじゃないか!』
『まさかお前がSランクに勝つとは思ってなかったが…ひとまずお疲れ様だな』
アイリスと蓮が音村に声をかける。
『あ!そういえば!カノンさん!昔ウチの弟がお世話になってたそうじゃない!私から礼を言っとくわありがとう!
あ、これお見舞いの食べ物ね!』
レオナはフルーツの盛り合わせとお菓子の詰め合わせをカノンに渡した。
『あら、ご丁寧にどうも…
頂くわ…』
『ねぇカノンさん良かったら冒険者時代のレオンのこと色々教えてくれないかしら?
この子あんまりそう言うこと話さないし…私も色々飛び回ってたからよく知らないのよ』
『えぇ…いいわ、お菓子のお礼がてら色々教えてあげる』
カノンはレオナに冒険者時代のレオンについて話した。
『……アハハハッ!レオン貴方!昔結構荒れてたのね!
まぁ!あの家庭環境なら仕方はないけど!』
『……見ていて危なっかしかったわ…
ストレス発散かは知らないけど…盗賊や魔物に一切の慈悲なく返り血浴びながら狂った様にボコボコにしてたわ…
その凶暴性あってかわからないけど…貴方が特級になった際に与えられた二つ名が染血の獅子だったかしら?』
『うぅ…辞めてよ…黒歴史なんだ…』
『何よ…私のこと随分と音村君に喋ってたそうじゃない?仕返しよ仕返し
昔はもっと口調が荒々しくて一人称も俺だったわよね?私と行動していくうちに徐々に丸くなっていったけど…
多分今の貴方が素何でしょうね』
『……これは意外な一面だな…』
『わぁ…レオン君昔、結構やんちゃしてたのか…想像できねぇ…
ねぇ!カノンさん!レオン君とはどうやって知り合ったの?』
カノンの昔話に蓮が呟き音村がカノンに問う。
『あー!カノンさん言わないで!』
『レオン少し静かに!カノンさん言って言って!姉として知る義務があるわ!』
『……4年くらい前だったかしら…
私がクエストを終えて帰っていたの…
夕暮れの林で、たしか魔物の通り道で…
驚くことに彼そこに寝そべってたの
小さい子がのたれ死んでるのか心配して声をかけたんだけど…彼なんて言ったと思う?
"死体だと勘違いして魔物が寄ってくる、そうしたら探す手間も掛からない、クエストと食材調達の邪魔だ"
って言ったの!正気を疑ったわ…どうやら野宿を繰り返して野生的な生活を送ってたみたいで…本人曰く別に野宿でも問題ないから宿代が勿体ないって言うの…
半ば無理やり私の宿に泊めてあげたのが出会いね…』
『それから!それから!?』
音村が話の続きを催促する。
『宿に泊めてやったのは良いものの、人間不信って感じで常に私を警戒していたわ…野生の獣みたいにね…で、次の日彼とギルドに行って当時彼8歳くらいだったかしら…驚くことにCランクでポイント的にはB級目前くらいはあったの…
当時私は16歳でA級でなんかほっとけなくて、一緒にAランククエストやらないって誘ったの、そしたら…
"報酬が良いから同行してやる…俺はさっさとSランクになる必要があるからな…精々利用させて貰うぞ"
って言ったの…私としては彼を心配しててね、言い方は別として承諾してくれたから別に良かったんだけど…
そこから大体2年半ぐらいかしら?パーティを組んで活動したのは』
『……レオン…相当荒れてたんだな…』
『俺全然想像できねぇよぉ…』
『……レオン、それは良くない…よ?…』
『これは意外だな…』
カノンの話に蓮、音村、シエル、アイリスが反応した。
『カノンさん!
うちの愚弟が大変お世話になりました!
あんたもカノンさんにお礼言いなさい!』
レオナはレオンの頭を無理やり手で下げさせる。
『姉さん!分かった!分かったから!
カノンさん大変お世話になりました…
色々と冒険者業を教えて頂き有難うございました…』
『どういたしまして…それに私も楽しかったし…』
医務室での賑やかな会話の後、負傷した一日目参戦者以外は医務室を後にした。
『蓮と姉さんは明日試合だね…
明日に疲れを残すのも良くないし疲れることはやらない方がいいかもね』
『そうだな…俺は対戦相手の情報収集を行いたい所だが…』
『カードマスターのフォルス氏だね…
彼は対戦相手の属性や戦い方を事前に調べ別枠魔法のカードマジックでデッキを作成し、戦う…彼は事前に魔力を消費してデッキを作成し、作成したカードを行使するにも魔力を消費する…対戦カードは今日発表だったし…
それに蓮はあまり戦い方や属性が知られてなかった分…フォルス氏は万全なデッキ構築が多分出来ていない…』
『そうか…多少なり部がありそうだが…
因みにそのカードマジックってどんな魔法なんだ?』
『フォルス氏のカード魔法は事前に魔力を消費してデッキ…つまりカードを作成することはさっき伝えたけど…
その制約がある分四元属性の全てを行使できる…四元属性の中であらゆる効果を発揮する様々なカードや特殊な制約を乗り越えた上で使用できる強力な特殊カードを駆使して彼は戦う…
彼の魔法は無数の組み合わせがあるからこれと言ってアドバイスを出すのが難しい…中途半端に伝えたところでよくない先入観を与えるかもしれない…』
『……なるほど、どうやら戦いの中で見極めていくしかなさそうだな…レオン情報ありがとう』
(四元属性であらゆるカードを使用するのか…ワイバーンの氷像の件もある…
氷の魔力のことはバレてるだろう…火属性のカードを多く使用してきそうだな…)
『姉さんは明日、リンと戦うんだったよね…
お互い色々と知ってるから今更情報集めることもなさそうだね』
『んまぁ〜、そうだねぇ〜
対リンの戦術はある程度固めてるけど…
魔力を消費しない且つ疲れない程度に運動はしておきたいかな〜、明日の動きのキレに関わってくるし…
蓮!少し付き合ってよ!軽く組み手と剣の稽古よ!』
『…咄嗟の判断と瞬発力は極めて重要だな、分かった付き合うよ無理しない程度に…な』
『オッケー!んじゃやろう!』
レオナと蓮は組み手と剣の稽古を休憩を取り柄夕暮れまで行った。その後、風呂で汗を流し、夕食を摂った。
『……何で…時使いと音使いからエリちゃんの魔力が感じるの……』
かつて蓮達を狙った、マジックハンターギルド無秩序ノ月蝕のメンバーの桜髪の少女リリィが蓮たちの様子を見ていた。
『……てっきり…捕虜になってるもんだと思ってたが…もしかしたら連中、情報を抜き出したいだけ抜き出してエリィを強化素材にしたのかも知れねぇな…
何せ、彼奴らにはあのアリシアがバックについてやがる…どんなことやってきても不思議じゃねぇ…』
リリィの言葉に同じく無秩序ノ月蝕のメンバーの褐色大男のゴンザレスが呟く。
ギリッ…
『彼奴ら!殺す!』
ゴンザレスの言葉を聞いたリリィは激怒し、一歩踏み出しそうになる。
『リリィ!抑えろ!今俺達が突っ込んだところで勝ち目がねぇ!消耗してねぇ特級とSランクが複数人いる!
奴らの消耗とお嬢が連れてきた助っ人の体制が整ってやっと捉えられる可能性が出てくるってのに今突っ込んでも無謀だ!』
ゴンザレスは戦力差を認識し、リリィを抑えた。
『今回は…変態もお嬢も…エリィもいねぇ…
戦力はカツカツ…だからこそ慎重に確実に狩らなきゃなんねぇ…
気持ちはわかるがエリィの死を無駄にするんじゃねぇよ』
『勝手に殺すな!エリちゃんの魔力だけ吸い出してまだ生きてる可能性だってある!
今もアリシアの所で非道な実験をさせられてるに違いない!』
『……落ち着け…魔力が乱れてるぞ、お前の探知魔法が揺らいだら奴らに勘付かれるかも知れねぇ…
今は下がれ、明日レオナと時使いが消耗した所を狙う…奴らは前回の分断を学んである程度固まって動くと思うが、それは仕方ねぇ…
時使いが育つとより捕獲が困難になる…おそらくこれが最後のチャンスだ』
『……はぁ…ゴンザレスさん今は下がります…
この怒りを明日、解き放つとしましょう…』
夕食後、蓮は自分達の部屋に戻ろうとしていた。
『…流石はレオナだったな…
試合前にいい調整ができた、歯を磨いて寝るとしよう…』
『……ラギー…ちょっといい?』
自室に戻ろうとする蓮にシエルが後方から声をかける。
『ん?シエルか、何か用か?』
『ちょっと…お話ししよ?』
『…?分かった』
蓮はシエルに連れられバルコニーへ向かい、互いに円机に座った。
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