第30話 風と音の狂演
スッ…
『オトムラ選手!何のつもりだぁ!?付けていた鉢巻を目に巻いて目隠しにしたぞぉ!?』
ざわ…ざわ…
『あぁ!?Cランクの癖に舐めプかぁ!?』
『負けた時の言い訳作りか〜?』
音村の行動に観客席が騒めく…
『へぇ…音村考えたね…』
音村の行動にレオンが呟いた。
(…恐らく、私の攻撃が不可視と言うことを聞いて、視覚に頼らないつもりね…
物は試し…無詠唱の見えざる刃の錆にしてあげる…
カノンの無詠唱魔法が音村に襲う。
(高速の見えざる刃を十発放ったわ…これをどう対処するのかしら…)
ひょい…
音村は軽快な動きで全ての刃の軌道が既に分かっていたかのように軽々と躱した。
『……やるじゃない…』
(完璧に躱された…あの避け方は見えてるって次元の話じゃないわ…軌道や速度その全てを把握した上で最適な行動を取っていた…
考えられるのは…風魔法による物体移動の予測か…?いや…だとしても、彼処まで完璧に躱されたのは初めて…
前もって私の周囲に魔力反応がないか確かめたけど…彼の魔力は私の所までは伸びてなかった…一体どうやって攻撃を完璧に予測していた…?恐らく彼には鋭い感覚が備わっている…視覚以外の感覚…考えられるのは触覚…聴覚辺り…?
風魔法による探知…鋭い感覚…はたまた別枠魔法か…或いはその両方か…もっと探りを入れる必要があるわね…)
(クラリティーブーメラン!)
カノンは無詠唱で透明なブーメランを生成し音村へ放った。
(このブーメランに私以外の魔力が付着していた場合…周囲に魔力を撒いていることが確実となる…付着した魔力を読めば属性も割れてくるはず…)
ひょい…
音村は投げられたブーメランを軽く躱す。
ガシッ!
カノンは戻ってきたブーメランを掴み取った。
(……付着魔力がない…
考えられるのは…私が攻撃を一発しか撃たないことを予測し、周囲の魔力散布をやめた…手の内を読ませない為に…
もう一つはハナから魔力散布による探知を行なってなかったかの二択…
前者だとしたら恐ろしいわね…Cランクが思いつく考えじゃない…入れ知恵の線も捨てられないけど厄介なことには分かりないわね…
さて…どうしようかしら…)
(私の魔法はバレてる…有名になるのも考えものね…
手の内をがバレてるのであれば隠す必要も無いわ…攻めさせて貰うわ!ルーキー!)
『刃ノ舞踏(ダンシングブレイド)!』
カノンが生成した5つの刃がカノンの詠唱と共に動き出した。
(この5つの刃は詠唱が必要な上、かなりの集中力と魔力を必要とするから余り使いたくはなかったけど…背に腹はかえられない…
私が意のままに操る刃に君はどう動く…?)
(レオン君の入れ知恵で手の内はなるべく隠して、長期戦想定してたけど…
どうやら痺れを切らしたみたいだね…
こりゃもう隠せないね…)
『カザヨミ!地獄耳!』
(風と音の探知をダブル詠唱…
これで探知力最大だぜ…)
(無詠唱での回避が不可能と見て詠唱を行なった…やはり風の魔力と感覚強化の類だったのね…)
カノンは5つ刃を指揮棒で操作し、音村はそれを躱し続ける。
『さっきから見えない攻撃とその回避が繰り返されているのかぁ!?マホオタ氏解説お願いします!』
『皆さんご存知の通りカノン選手の無属性攻撃は色が無い…
言ってしまえば不可視の攻撃です…オトムラ選手はそれを知ってか視覚の情報に頼らず…魔法…若しくは、強い感覚によって攻撃を察知していると思われます…』
『なるほどぉ!解説ありがとうございます!
カノン選手の見えざる攻撃にオトムラ選手は回避行動以外の決め手を打ち込むことができるか楽しみなところですなぁ!』
(このままだと集中力と魔力がどちらが尽きるかの勝負になるな…奴が攻撃してこないのは遠距離攻撃が私の支配下になるのを恐れたが故か…?
近距離で勝負を仕掛ける為…私の消耗を図るつもりだな…)
『音よ…風よ交錯せよ…融合しその動力を我が手に纏て…炸裂し障壁を除せ…』
(な!?この状況で大詠唱…!?大魔法を放つつもり…!?この状態で大魔法への干渉は不可能…
やむ終えない!)
『五重障壁!』
カノンは音村に放っていた五つの刃を障壁に変え、地震の前に設置した。
『かかったな!
ソニックブースト!
…からのー!ソニックショット!』
『な!?』
自由になった音村は一気に加速、跳躍し障壁が防御不能な角度から音の衝撃弾を発射した。
ボーン!
音の衝撃弾は炸裂し、砂煙が舞った。
『ハァ…ハァ…嵌めたわね…』
(超加速からの高火力な衝撃弾…あと少し障壁の移動と衝撃弾の軌道変更が遅くれていたら私は立ってはいられなかった…
骨も何本かいった…さてどうしようかしら…)
音村の攻撃を被弾したカノンは左半身の服が損傷し、左腕及び左足から血を流していた。
『此処でオトムラ選手の急接近からの遠距離魔法でカノン氏が遂に攻撃を食らったぞォオォォ!』
ワー!ワー!
『すげぇぞ!ルーキー!カノンの攻撃を躱しきって攻撃を当てやがったぞ!』
『やれー!そのまま決めちまえ!』
実況と音村の攻撃の命中により会場の熱気が増していく。
『念音弾…イメージした言葉や音を弾にして遠くに届ける魔法だね…
流石に詠唱しながらあの攻撃は避けれなかったから飛ばさせて貰ったよ…イメトレの甲斐があったね!』
『もう君を格下とは思わないよ…
ハァアァァアァッ!』
カノンの周囲から高出力の白い魔力が勢いよく放たれる。
『全魔力解放か…!?』
『どうやら彼女は、負傷したまま長期戦は不利だと判断したみたいだね…一気に決めるみたいだけど…音村…どうする…?』
カノンの全魔力解放に蓮とレオンが反応した。
『
カノンが詠唱を行うとカノンを中心として白い光が地面に広がり闘技場の床を覆い尽くした。
『カノン選手から多量の魔力と共に地面に白い光が広がっていくぞぉ!?
これは一体!?』
『これは彼女の奥の手の一つ…魔法操作を狂わせる範囲魔法ですね…
彼女にこれを出させるとは…これだけでも彼の功績は大きいです…』
(地面から妙な魔力反応があるね…怖いし飛ぼう…)
それを感じ地面と接することを恐れた音村は即座に風魔法で飛行しようとしたが…
ボンッ!
ドサッ!
『うぁ!魔力が上手く扱えねぇ!』
滞空した音村は魔力の制御に失敗し魔力が暴走し爆発した後墜落した。
(目隠しは外そう…この状態じゃ感知も上手くいかねぇ…)
バサッ…
音村は目隠しを外した。
(この光ってる床から光の粒がいっぱい出てるね…
これのせいで魔力が狂わされてるわけかな…地に足着いてなくても上昇する粒で狂わされるわけか…とは言っても魔法使わないで勝てるわけないし…あれこれ考えるよか…)
『ウォオオッ!全魔力解放!』
全魔力を行い、黄緑色の光を発した音村から多量の風が吹き荒れる。
(魔力を出すだけなら何とかなるね…細やかな操作は無理…
加えて魔力全開放の高出力な魔力じゃないとすぐ狂って意味なくなるし…
常に出しっぱの魔力効率度外視状態なわけだから接近して早いとこ決めるしかないね…長くは持たないから)
『刃ノ舞踏(ダンシングブレード)!』
(地獄ノ狂想曲下だと…詠唱込みで2本操るのが限界ね…)
カノンは詠唱し2本の刃を音村に飛ばす。
(攻めてきたね…出しっぱの風の魔力で何とか物体は捉えられるかな…
2本だけなら何とかね…)
音村は向かってくる刃を躱し続ける。
(またこの状況…風の加速は狂うから無理だし攻撃を躱しながら少しずつ近づくしかないけど…結構しんどい…向こうもそれを分かってて遠ざかせるように刃を操作してる…
俺の魔力が切れて切り刻まれるか…向こうの魔力が切れて俺の一発が通るかの勝負だね…いや…2本しかないならいっそ…)
グサッ!
音村は両腕を動かし一本ずつ見えざる刃に刺されにいった。
『なっ!?』
(自ら刺されに行った!?
しかも刺された刃の周りに高出力な魔力が渦巻いている…加えて私の範囲魔法の範囲内…2本の刃はもう操れない…
3本目を出すか…接近戦に付き合うか…3本目を出したところでまた刺されて固定されたら無意味になる…負傷してるのは向こうも同じ…だったら…)
(魔法を封じながらの私と…魔法を固定し、高出力の魔力を放ちながらの彼…
互いに満足に魔法が使えない且つ負傷の中での殴り合いになるとはね…Cランクにここまで追い詰められるとは思わなかったわ…)
音村とカノンは互いに近距離で向かい合った。
『ハァアァァアァッ!』
『ウォオォォッ!』
互いの叫びが口火となり殴り合いが始まった。
『ぐっ…』
(こいつ…全然怯まない…痛たくないの!?)
刃が刺さっている中カノンの殴りの痛みに動じない音村にカノンは戸惑う。
『おぉとぉ!?殴り合いが始まったぞぉ!?互いに魔法が使えないのかぁ!?
現状オトムラ選手が優勢かぁ!?』
『彼の魔法か、精神力の強さ故かは分かりかねますが…カノン選手の攻撃を受けても怯みが浅いですね』
『ウォオオォオォォ!』
ボスッ!
『ガハッ!』
音村の攻撃は勢いを増し、カノンは更に劣勢となった。
『オトムラ選手!カノン選手のパンチを頬に貰っても!全く動じずにカウンターだぁ!
間髪入れず連撃を入れるぅ〜!』
『これはもうそろそろ勝敗がつきそうですね…』
暫くの攻防の後音村のパンチが炸裂し、カノンは遂に背が地についた。
『ハァ…ハァ…お姉さん
そろそろ負けを認めちゃくれねぇか?
女の子を殴るのは結構心にくるんでな…
それにもう限界を超えてる筈だぜ?このまま続けたら取り返しがつかなくなる…』
『……私の負けね…』
(地に伏した私をそのまま気を失うまで殴ることも彼にはできたはず…あえてそれを選ばなかった…私の完敗ね…)
『此処で決着ぅ〜!!まさか!まさかの!大金星ィ!Cランクオトムラ選手がSランクのカノン選手を撃破ダァア!第一試合から大魔道大祭史に伝説が刻まれたァッ!』
ウォオオォオォォ!
ワーーーーー!!!
キャー!!!!
『ウォオオォオォォ!スッゲェエェ!』
『やりやがった!アイツやりやがった!!』
『オートムラ!オートムラ!オートムラ!』
『会場の歓声が大爆発!オトムラコールが舞い上がるゥウゥッ!』
『ウォオオォオォォ!オトムラ最高!オトムラ最高!』
『解説のマホオタ氏も解説を忘れ!歓声を送っているぅ〜!』
会場は歓声で湧き上がる。
『凄いよ…此処にきて半年も経ってないのに…Sランク冒険者を倒すだなんて…』
『今回ばかりは素直に称賛しざる負えないな…』
『音村君!凄いぞ!いい試合だった!』
『ムーラ凄い…おめでとう…』
『うんうん!日々の鍛錬と度重なる死闘の賜物だね!』
観客席の5人も音村に称賛の声を送る。
(ん〜…俺も結構限界だけど…お姉さん方はもう立てなさそうだね…
肩持とうにも…足に負荷がかかるし…
となると…抱っこかおんぶになるかな…
抱っこの方がおんぶより楽だと思うし…
よし…)
『よいしょ…』
音村はカノンをお姫様抱っこした。
『……ハァ…とんだ醜態を晒したものね…
だけど…どうしようもないのも事実…
…恩に着るわ…』
カノンはため息をこぼし、目を逸らしながら呆れ気味に呟く。
『どういたしまして!ところでお姉さん痛くない?』
『……不思議と痛くないわ…体はボロボロなんだけどね』
『そっか!他の人でも上手くできたみたいで良かった!』
『……貴方もしかして…風と音と痛み系の3種類の魔法が使えるってわけ?』
『ん〜…そうなるね。
ただまぁ…痛み系の魔力は他の魔力と併用しないと出せないけどね…
風の魔力と同時出力して痛いの痛いの飛んでけ〜って念じてる感じ!』
『…マルチマジシャンのCランクなんて前代未聞ね…とんだ化け物が頭角を現したわね…』
『ハハッ…化け物って言われてもあんまり嬉しくないかも…とりま医務室まで運んでくね!
レオン君が走ってるの見えたから多分先に医務室に待機してくれてると思うそこで一緒に止血してもらおう』
『……レオン…ね』
『ん?もしかして知り合い?』
『さぁ…どうだかね…』
『ん?まぁいいや、そろそろ着くね』
音村とカノンは医務室に入った。
『来たね、二人とも取り敢えず止血して、その後消毒したらシエルに傷口を縫って貰うよ』
医務室にはレオンとシエルが待機していた。
『レオン君!シエルちゃん!助かる!ありがとう!』
『……どうも』
二人はレオンとシエルの応急処置を受けた。
『取り敢えずこれで傷口は塞がったね…後は大会側の治癒術師が次の試合までに完治してくれるみたいだね…暫くは安静にね』
『ムーラお疲れ様…ゆっくり休んでね』
『…君達知り合いなの?』
カノンは3人に尋ねた。
『うん、僕たち3人はアリシア様の元で生活してるよ』
カノンの問いにレオンが答える。
『ふーん…通りで、音村君って言ったかしら?彼もアリシア様に選ばれる程の有望株ってわけね…』
『へへっ…有望株ってそんな…偶々ご縁があっただけよ〜、皆んなはカノンさんとは知り合いなの?』
『僕がアリシア様から声をかけられる前は冒険者業を主としてたんだ。その時カノンさんには色々とお世話になったね』
『…私は名前は聞いたことあるなぁ〜?って程度』
音村の問いにレオンとシエルが答えた。
『へー!そうなんだ!カノンさんはレオン君と結構組んでた感じ?
『そうね…昔のことよ…』
『カノンさん僕以外と組めてる?カノンさん結構声掛けにくいオーラ出てるし、あまり積極的に声かける印象薄いし…』
『組めてるって何よ、組んでないだけよ
それに何よオーラって…散々生意気言ってくれるわね…
……強いて言うなら音村君となら結構相性良さそうとは思ったわ、彼見えない私の魔法感知できるから合わせやすそうだしね。
貴方今Cランクでしょ?勿体無いわ、私と組んで早く上のランクに行っても良いわよ?』
『折角の勧誘嬉しいんだけどよ〜
俺っちこの港観光終わったら軍の学校行くんよ〜』
『あら…軍人志望だったのね…私は窮屈な組織はゴメンだわ…』
『志望してる訳じゃないけど…アリシアさんの指示でお勉強してこい的な?』
『そう…まぁ無理強いはしないわ…
…話は変わるんだけど音村君私の対策かなり良くできてたじゃない?一体誰が吹き込んだのかしら?』
カノンはレオンを不敵な笑みを浮かべながら見つめた。
『……カノンさんの魔法は初見殺し性能が高すぎるからね…情報無しじゃ音村が可哀想なことになってたからつい…ね…』
『……まぁいいわ、久しぶりに楽しめたし
今回私が参加した目的は才能のある若い子の探索及び勧誘だったから…まぁ良しとするわ、断られちゃったけど…』
『才能があるってのは良いとして…何で若い子?』
レオンがカノンに問いかけた。
『……別に深い理由はないわ…』
(あんたのせいよ…)
カノンは少し顔を赤らめ視線を逸らした。
『全く…アリシア様の所は羨ましいわ〜
人材の宝物庫じゃない、蓮君とか言う子もそうなんでしょ?』
『うん、そうだね
彼も相当な才覚と実力を持ってるよ』
『ふーん…
取り敢えず応急処置ありがとね。
私はもう疲れたから寝るわ
音村君気が変わったらいつでも声を掛けてくれても良いわ…それじゃお休みなさい…』
『俺っちも寝る!レオン君シエルちゃんありがとね!』
音村とカノンは眠り、シエルとレオンは観客席へ戻った。
『皆んな、ただいま』
『レオン!シエルん!おかえりー!騒とカノンさんの応急処置お疲れ様ー!
ちと気になったんだけど…レオンってカノンさんと知り合い?カノンさんが倒れた時結構焦ってたみたいだったし』
『うん…昔冒険者業やってた時お世話になってて…』
『はぁ…全く貴方はそういうこと私に話さないから…貴方がお世話になった方なら私も一緒に行ったのに…
後でお菓子持ってお見舞いに行かせて貰うわ…貴方があんまり話さない昔のこととかも聞けたら良いわねぇ〜』
レオナはニヤけながらレオンに語りかける。
『ははっ…程々にね…
ほら、そうこうしている間に二回戦始まるよ』
『オトムラ選手!カノン選手!熱い試合をありがとうゥウゥッ!
それじゃあ!お待ちかね第二開戦の開幕だ!
異国からの挑戦者!彼の実力は未知数…
侍の刀が最強に果たして届くのかぁ!?
ジロウ=ブケヤシキの入場ダァ!』
ワー!ワー!
キャー!キャー!
『行けぇ!侍!打倒最強ダァ!』
『見せてくれよぉ!異国の刃をよぉ!』
『続きましてぇ!本大会の優勝候補!
特級魔道士序列一位!最強の男が本大会に舞い降りた!幾万もの挑戦者をねじ伏せてきた彼は異国の侍も例外なく打ち負かすのかぁ!?
アレン=スリードの入場だァアァアァ!』
ワー!ワー!
キャー!キャー!
『やれ!最強!異国の侍を分からせろ!』
『イッケッー!ぶっ飛ばしちまぇー!』
両者が入場し向かい合う。
『やぁ…ミスターブシドウ…
ちったぁ、俺を楽しませてくれよ』
『ハハハッ!よもやこの国一の達人と試合えるとはぁ!これだけでも来た甲斐があっと言うものよ!』
『両者!準備はいいかぁ!?
一日目!第二試合開始ィイイィイ!』
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