第25話 友達と黒い影

『……』

((気不味い…))


 レオナとアイリスは気不味そうに暫く黙って歩いた。


『私、あそこのカフェにするけど…あんたはどうする?』


『私も甘味が欲しかったところだ、私も同行するよ』


『そう…』


 レオナとアイリスの二人はカフェに入った。


『注文決まった?』


『あぁ…決まったよ、君も決まったか?』


『えぇ…』


 アイリスは店員を呼びオーダーを開始した。


『フルーツパンケーキとブラックコーヒーを一つずつ…君は?』


(全く同じじゃない…)

『私も同じよ…』


 二人は出来上がったパンケーキを食べだした。


『ん〜、ふふっ』


(随分と美味しそうに食べるのね…)

『ねぇ、あんた蓮のサポートだとか何だとか豪語してたけどそれなりに強いわけ?』


『ん〜、最近Sランクに到達したぐらいにはね…

君から見たら大したことではないだろうが…』


『大したもんじゃない…Sランクなんて冒険者の母数から見たら上澄も上澄よ……

ぽっぺ、クリーム付いてるよ?』


『ほ、本当か…』


 アイリスは相当恥ずかしかったのか赤面した。


『吹いたげる、さっきの一件もあってあんたのこと気に食わなかったけど…

 可愛いとこあるじゃない…ぽっぺにクリームがついてる事に気づかないくらい夢中になって美味しそうに食べてたし…そこら辺やっぱあんた"妹"ね』


 レオナはアイリスのぽっぺのクリームを吹きながらそう呟いた。


『……そういう君は何歳なんだ?』


 アイリスが少し不服そうな顔を浮かべレオナに尋ねた。


『17だけど?』


『ふっ…そうか、私は18だ…残念ながら私の方がお姉さんだったようだな』


 アイリスはレオナの年齢を知ると勝ち誇ったかのように自身の年齢を答えた。


『はいはい、年下にぽっぺを拭かれるお姉さんは水着持ってないでしょ?

時間あるし…水着…見に行かない…?』


 レオナは赤面し目を逸らしながら提案した。


『か、構わないが…』


 同様にアイリスも赤面し、目を逸らしながら承諾した。そして二人は服屋へ向かった。


『これとかいいんじゃない?結構シンプルな作りで…

癪だけどスタイルの良いあんたには合うんじゃない?』


『……』


『あんた…まさかフリフリした可愛い系のやつが良いの?』


…コク


 アイリスは恥ずかしそうに頷いた。


(か、可愛い…第一印象が大人びた気に食わない奴だと思っていた分…

その落差とギャップで……)

『いいわ!好きなの買いなさい!お代は私が出すから気にしなくていいわ!』


『い、いいのか…だがしかし…流石にそれは気が引け…』


『あー!私がいいって言ってるからいいの!』


『わ、分かった…あ、ありがとう』

(最初…怖そうな人だと思っていたが…

案外…面倒見が良い人のようだな…)


 アイリスは水着をレオナに買ってもらい店を後にした。


『その…さっきの一件…私、熱くなりすぎたわ…私の家はしがらみが多くてうまくいかないことが多かったからつい…ね…

 だから今こんな身の振り方してるわけだけど…

……その…何というか…悪かったわ』


『私も、自分本位に言い過ぎた…私と二人っきりなのは居心地が悪かっただろう?』


『最初はね…けどあんたと一緒にいるうちに結構可愛ところも見えてきてその何というか…楽しかったわ…妹がいたらこんな感じなのかなって思えたというか…

 弟はいるけど家のこともあってあんまり接っせれなかったし…良い刺激だったわ』


『そ、そうか…私も君からは良くしてもらって正直嬉しかったよ…

ん…?すまない…一瞬本屋に寄っても良いか?気になる本の続編が…』


『しょうがないわね…行ってきなさい』


 アイリスはレオナと会話中、書店に置いてあった気になる本の続編が目に入り、それを買いにいった。


『待たせた…』


『ん?それ!アリーシャの冒険じゃない!?読み終わったら見せてくれない!?』


『君もこの本を知っていたのか?』


『知ってるも何も私のお気に入り書籍の一つよ!やっっっと続編出たのね!

色んなところ行くついでに書店で続編出てないかよく確認したものよ…』


『そうか!君もか!実は私も何だ…主人公が自由気ままに旅をする…

そんな姿に思うところがあって…いつの間にかそれに魅入られて…』


『あー!そんとにそれ!カフェでの注文の時といい!私たち案外気が合うじゃない!』


『私は自分の中で反芻しながらじっくり読むから時間がかかると思うし…

 本屋も目の前だもう一冊買ってくるよ…水着代には遠く及ばないがせめてものお礼がしたくてな…』


『ありがと…アイリス…それじゃお願いするわ…それと…私のこともレオナで良いわ…

 わ、私たちその…何というか…お友達!そう!もう友達なんだから!』


 レオナは赤面しながら強く言い放った。


『…あぁ!宜しくレオナ!』


 アイリスは微笑み承諾した。その後二人は楽しそうに談笑し駐車場へと向かった。


『アイリス、クッキー食べる〜?』


『いいのか、ありがとうそれじゃ頂くよ』


あむっ…もぐもぐ…


 レイナはアイリスの口元にクッキーを近づけアイリスはそれを食した。


『アイリスどう?おいし?』


『うむ…これは結構イケるな…』


『上手くできてたようで良かったわ…んでねぇ〜アイリス〜こんなことがあってね〜』


『それは凄いな!それでどうなったんだ!』


『ふふっ…それで〜』


 レイナとアイリスは三列目で隣同士に座り楽しく会話をしている。


『……何があったんだ…』


『休憩前のギスギスした雰囲気が嘘みたいだね…』


『…ふふっ…二人とも楽しそう…』


『お!仲良くなったんだな!良かったじゃん!』


 レオンはしばらく車を動かし、陽が沈む時間帯となった。


『そろそろ見えてきたよ…』


『うぉ!すっげー!夕焼けでめっちゃ映えてる!』


 港街は夕焼けに照らされ命の川を中心とした運河が町に広がり美しい情景を作り出していた。


『……綺麗…』


『これは凄いな…』


 蓮とシエルも港町の美しさに声を漏らした。


『いっぱい思い出作ろうね!アイリス!』


『あぁ!』


 一行は到着し、車を止めホテルへと向かった。


『ここって…この港一番のホテルじゃないか…?何泊するつもりなんだ?私そんなに予算ないぞ…』


『お代は気にしないで!私が出すわ!』


『分かった…ありがとう…この恩は絶対返すよ…』

(断っても多分ゴリ押されるだろうし…此処は甘んじて受け入れよう)


 アイリスはレオナの提案を受け入れた。


『取り敢えず…チェックインを済ませて夕食にしよう、部屋割りは男女3人ずつだね』


 一行はチェックインを済ませ、夕食へ向かった。


『うっめー!新鮮な海鮮たまんねぇ〜!』


『がっつくのはいいが食い過ぎて、吐くなよ』


『酔いでもしなきゃそう簡単に吐かねぇ〜よ〜』


 レストランの高級なフルコースにがっつく音村に蓮が注意した。一行は食事を終え、入浴を済ませた。


『いや〜、食事もお風呂も最高だった〜

サウナで整えたし、露天風呂の眺めも良かったね〜』


『あぁ!最高だったな!こんなにいいサービスを受けたのは初めてだよ』


 レオナとアイリスは風呂から上がり部屋に戻っていた。


『おー!それは良かった!明日の予定は明日決めようかな!…シエルんも寝ちゃってるし!』


『…スー…スー…』


『ふふっ…気持ちよさそうだな…それじゃ私も寝るとするよ…おやすみレオナ』


『おやすみ!アイリス!』


 女子部屋の3人は眠りについた。


『ふぅ〜さっぱりした〜』


『いい湯だったね』


『そうだな』


 男子3人は風呂から上がったようだ。


『いや〜美味かったし!気持ちよかったし!最高だったぜ!明日も楽しみだな!』


『そうだね、明日のことは姉さん達と明日相談しようかな』


『俺も今日は疲れたし、寝るよ。

音村お前も寝る時はくれぐれも"サイレント"を忘れるんじゃないぞ』


『へいへい、分かったよ〜…サイレント』


 ぱっと見口パクに見えたが、音村はサイレントがかかった状態でおやすみと言った。


『よし、効果が現れたようだなそれじゃ、レオンおやすみ』


『うん、おやすみ』


 こうして蓮達も眠りについた。


『例の時の魔力を持つ少年と…特級魔導士が3人とその他2名と言ったところっすか…まぁ概ね"左腕さわん"の部下の情報通りっすね…時の魔力は上手いこと目標を絞って何とか確保してぇなぁ…"皇帝陛下"への良い手土産になること間違いなしってもんすよ。

 とは言い他の連中とどうやって引き離すかが課題っすね…前回の襲撃でそこら辺奴らも学んでるだろうし…戦力的に左腕さわんの部下の他にもう1、2本"指"が欲しいところっすね…』


『……へいへい…分かってますよ、出せる指が俺しかいないんすよね…

 ふむふむ…大魔導大祭に連中のうち何人か参加したら…消耗の隙をつけると…そう上手く行きますかねぇ〜、連中の中には王国内序列第三位の大物魔導士の"爆撃"がいるんすよ?

…こちとら戦力カツカツなんで無理そうだったら無理せず撤退しますよ…

 ……はぁ…必要なら指もう一本出すと…』

(陛下から圧力かけられてるのかな…)


『へいへい…分かりましたよ…やりゃいいでしょやりゃあ…明日は大変だな…』


 夜中、蓮達を監視していたフードを被った黒ずくめの怪しい男は何者かと交信していた。

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