第21話 託す者と告げる者

『俺が救世主だ?…他の特級連中の方がよっぽど適してるだろ…』


『近いうちにアバリシアとの戦争が起こる事は分かってるよな?

 俺は戦争を望んでない…戦争なんざバカのやる事だ互いに自分の首を絞め合ってどっちが勝ったとしてもどうせ内乱が起きる…

 命と資源の無駄遣いでしかねぇんだよ一度燃えた炎は燃え尽きるまで消えない…だから点火させちゃいけねぇんだ…

 俺は試験官をやりながらあちこちを転々として適任者を探していた…そこでお前を見つけた』


『おい、だから何で俺なんだよ』


『お前は無限の可能性を秘めつつ何処か危なっかしい所がある…良くねぇ連中の手に渡ったら手がつけられねぇってのが一番大きい…

 しかもお前は珍しい魔力に加え魔眼持ちだ…もしそれが知られたら…

 国外はおろか国内の連中にも狙われかれねぇ…お前は特級を超えるポテンシャルがある…

 だからこそその芽を潰させるわけにはいかねぇのさ…一つ問うお前は戦争を望むか?』


『できれば…戦争は避けたい…だが敵国に俺の望みを叶える為に接触が避けられない奴がいることも確かだ…

 しかもアバリシアの連中が一方的に攻めてくると思うしな…蛮族相手に話し合いじゃ済まないと思うぜ』


『まぁ…素直に言うことを聞く連中じゃねぇだろうな、とは言ってもアバリシアも馬鹿しかいないわけじゃない…

 そう言った層からの支持を得つつ、中身から変革を齎すしかねぇかもな』


『で、具体的にはどうするんだ?』


『一つ敵を誘き寄せて情報を引き抜く。

 二つ情報を得た上で敵国に潜入。

 三つアバリシアの今のやり方を好ましく思っていない層を集め組織を結成する…出来れば貴族クラスの賛同者が欲しいところではある…

 一に関しては"協力者"が既に動いている、お前には二と三をやって貰いたい』


『何故俺が潜入役なんだ?それに組織を結成出来る人望俺にはねぇよ』


『別にお前が人望を持つ必要はねぇよそんなの他の奴に任せときゃいい、お前は扱いやすい神輿を担いでやりたい方向に導いてやればいい…

 お前には先を見通す眼と冷静な思考能力がある…神輿は換えが効いてもお前は換えが効かねぇ…』


『まぁ…悪くない話だな…敵国の内状を知りつつ奴との接触も図れるあわよくば戦争を止められるかもしれない…

 これ以上ないレベルで危険な行為ではあるがな…』


『別にお前一人を敵地に送るわけじゃねぇさ…その辺は国や他の特級を絡めて動くことになるだろうな…』


『まぁ…その話は分かった別にそれは今すぐに実行することじゃないだろ?

 本来俺がここにきた目的はポイント一位になった報酬の受け取りだ』


『作戦一の状況次第ではあるが…今すぐこっちから向こうに行くことはねぇな…

 報酬はもちろん渡すさ…結構貴重なもんだからよぉ…どうしてもさっきのことは言っておきたかったのさ…付いてきな』


スッ…

ガガガガ…


 アドニスが右腕を垂直に広げた後床から螺旋階段が出現した。


(ん…なんかデジャブだな…)


 蓮はアドニスに続いた。

階段は長く暗い空間を魔法のランプが照らしていた。


『着いたぜ…』


 階段を降りると魔法のランプで照らされてはいるものの全体的に薄暗い部屋に到着した。

 部屋の中は壁画や古い本が並び怪しい雰囲気を醸し出していた。部屋の最奥の中央に青白く何が光っていた。


『奥で光ってるあれが今回の報酬だ…』


『あれはなんなんだ…?』


『あれはな…代々俺の一族が次代の平和の為、命と魔力を注いでできた結晶だ、恵の球体とまではいかねぇがあれには相当な魔力が込められている…

 これを持つに相応しい奴が現れるまで代々これを守ってきたのさ』


『そんな貴重なもの貰っていいのか?』


『お前だからこそ持ってて欲しいのさ…俺は色んな奴を見てきたがお前以上に面白い奴はいなかった。

 お前ならこの世界を任せられるそう確信したのさ…俺はお前と一緒にこの世界を見てみたい…

 このめんどくせぇ役目から解放されてぇってのもあるけどそろそろ"時間"もねぇしな…ゴファ…』


 アドニスは口から血を吹き出した。


『な!?』


『そう驚くこたねぇだろ…この結晶を維持管理する為に魔力注いできたんだ…体にガタがこねぇわけがねぇのさ…早くその結晶に触れてくれねぇか?

 多分だが…適合したら更なる力を得られるし、適合しなかったら結晶に触れた手が吹っ飛ぶかもな…安定性もだいぶ怪しくなってるし何が起こるか分からねぇ…』


『……分かった結晶に触れよう、この程度の結晶に負けてちゃ奴をどうこうするのは無理そうだしな…

 安全な道を選んでる余裕はない…』


スッ…


 蓮は結晶に触れたその時…


ブワァッ!


『くっ…』

(気を抜くと意識が持っていかれそうだ…)


 大量な魔力が結晶から溢れ出し高密度な魔力を蓮を襲った。


(あぁ…っぱダメか…最期に面白いれぇモンが見られると思ったけど人生そう上手くいかねぇモンだな…)


『舐めんな!ウオォオォォ!』


ガチガチガチ…


 蓮は氷と時の魔力を同時出力し溢れ出す魔力を抑え込んだ。


『へぇ…やるじゃん』

(氷と時の魔力…対象を縛ることに関しては一級品な魔力だな…

 そいつを同時出力するとはな…)


『ハァハァ…結晶は安定したが…

このままでなんか用途はあるのか?』


『流石にそのまま渡さねぇよ…勿論このままでも用途はあるけどな魔導核とか魔導媒体とかな…

 つってもそんなもの渡したところでお前の手に余るだろ?』


『まぁ…そうだな…』


『この結晶を用いて装備品を作成する…

 望む形状や性能を強くイメージするこったな…そしてその装備に名を付けろ物は名を得て初めて本来の力を発揮する』


 アドニスはそう告げた後、蓮の頭と結晶を掴んだ。


『いいか蓮…目を瞑れ…そして強くイメージしな…お前のイメージを結晶に反映させる…

 お前の魔力は結晶に適合し、安定こそはしたが…この結晶には先代の魔力が渦巻いているお前が直接イメージして変形させるまでには至ってない…

 俺が結晶を安定させつつお前のイメージを反映できるようにする為の繋ぎになる…

 お前は余計なことは考えなくていい…ただ強く望む装備をイメージするんだ』


(俺のイメージの反映と結晶の安定を満身創痍な体でやるつもりか…!?

もしかして…こいつ…死ぬつもりか!?)


『アドニス…あんた死ぬぞ…?』


『なーに、死にゃ死ねぇさ…姿形は多少変わるかもしれねぇがお前の装備として俺の命と魔力は生き続ける…

 これ以上の会話は不毛だ…俺ももう長くねぇ…』


『……分かった、始めよう…』

(この高密度な魔力を持つ結晶をより圧縮して、俺の指にピッタリ嵌る程度の指輪にしたいところだな…

 高密度な魔力を帯びた指輪を俺の思うがままに変形させ、あらゆる武器や盾…鎧に変化出来れば最高だな…

 武器に変化させるのに指輪だとやはり都合がいい…すぐ持てるし、それに俺の氷の魔力は造形に適している…

 そうだな…名付けて…)


万化ばんか氷輪ひょうりん…』


ブワァアァッ…


『グァアァ!ゴファ…』


 蓮が名付けた直後高密度な魔力が結晶から溢れ出したと同時にアドニスは苦しみ吐血した。

 暫くして魔力放出は収まり、蓮の右薬指に綺麗な空色の指輪が嵌められていた。


『アドニス!』


 蓮は即座にアドニスに駆け寄った。


『…蓮…それが…俺達一族の命の結晶か…綺麗なモンだな…

 ゴファ…よく適合したモンだ…俺の命も魔力もこの世の行く末もお前に託す…

 その指輪を通して見せてくれ…お前の歩みをな…』


『もういい!喋るな!すぐに俺が魔力を…』


『…やめとけ…壊れた器に魔力を注いでも無駄だ…

 それに折角託した魔力を無駄遣いすんじゃねぇ…それは本当に必要になった時に使え…』

(へっ…リベルの野郎が面白い奴がきて、この俺が認めるとか何とか言ってきだが…

 正直期待はしてなかった…が…癪ではあるが予想以上だったな…)


『蓮いいか…人を許し信じるってのは並大抵な精神力じゃなせるモンじゃねぇ…

 けど誰がそれをやんなきゃ、前には進めねぇ…折角お前が人を信じ…許したとしても裏切られ、望む結果を得られねぇかもしれねぇ…

 でも世の中クズばかりじゃねぇ…本気で向き合えば分かってくれる奴もいるはずだ…強く優しき心の人間が増えれば憎しみの規模は縮小し平和に近づけると俺は信じてる…

 お前には一人でも多く平和を望む強き心を持つ人間を導いて欲しい…

 険しい道のりかもしれねぇし、俺の言葉がお前の重荷…いや呪いになるのかもしれねぇがそれでも俺はお前に託す…後は任せたぜ…蓮…』


アドニスは最期にそう言い残し光の粒子となって消えた。


『平和か…そんな大層なこと今まで考えてもこなかったな…

 何故アドニスは俺に世界の平和を託したんだ…俺は今まで自分のことしか考えずに生きてきたんだけどな…

 アドニス…あんたが俺に勝手に託し、偶々俺はそれに適合した…多少の利害の一致こそあったが、あんたの望みを叶えられないのかもしれない…それにあんたの言葉に縛られて生きていくつもりも無い…

 この万化ばんか氷輪ひょうりんはありとあらゆる形になれる自由の象徴として俺が想像した物だ…

 とは言っても…あんた…いや…貴方の強い心は俺に響いたのも確かだ…許し、託す強さか…大した人だよ、俺は貴方に敬意を表しせめて心の在り方だけでも継がせてもらうよ…』

 

 蓮は氷の花をアドニスがいた場所に供えアドニスの家を後にした。


『アドニス…君は蓮にこの世界の平和を託したんだね…君の選択の行く末を私も見届けさせてもらうよ…

 今までありがとうアドニス、君の意思を継ぎ進む子らがいる限り君は不滅だ…

 私とて君の意思を継いだ一人の人間だ…先に向こうで待ってて欲しい、私が愛する村や自然や人々を決して傷つけてさせたりはしないさ…』


 ステラは夕暮れ時に一つの流れ星を見た後、空を見上げ呟いた。


『おい!蓮!遅ぇぞ!日ぃ暮れちまうよ!

皆んなお前を待ってたんだからな!』


 蓮がアドニスの家を後にし村を歩いていると音村が声をかけてきた。


『そうだったのか…それは悪かったな』


『ご馳走の用意は出来てるんだぜ!今日は俺の奢りだ!C級昇格のお祝いとお別れ会を兼ねな!パーっとやろうぜ!

 リーリャちゃんの家で皆んな待ってるぜ!』


『あぁ…今行くよ』


 蓮と音村はリーリャの家へ向かい、パーティーを楽しんだ。


『そうか…二人はもうそろそろ村を離れるんだね…』


 リーリャは寂しそうに呟いた。


『数日後にはここを立つな…』


『つっても俺は王都にいるからすぐ村に行ける距離だぜ!』


『蓮は北の地方のネーヴェリアに行くんだっけ?』


『あぁ…正直いつ戻るかは分からない…』


『へぇ〜蓮君あんの年中冷え切ったネーヴェリアに行くのか〜、確か蓮君は氷魔法使うもんな〜なんか得られるものがあると良いな!

 これは余談なんだが、熱い地域には熱を魔力にする奴、寒い地域には冷気を魔力にする奴が相対的に多いみたいだな』


『そうなのか…ユリアスさんありがとう』


 四人は楽しく話し食を囲み数刻が経過した。


『もう11時か…お前らどうする泊まって行くか?』


『折角の申し出だが…家の者を心配させるわけにもいかないしな…

 そのまま帰らせて貰うよ…今日は楽しかったリーリャ、ユリアスさんありがとな』


『だな!俺も楽しかったぜ!リーリャちゃん!

 ユリアスさんまた飯食ったり一緒にクエスト行ったりしようぜ!』


『あぁ!蓮君は遠くへ行って中々会えないと思うが…向こうでも頑張ってくれ!

 っと…そう言えば旅立つ蓮君に妹が最後に話しておきたいそうだ!俺と音村君は家で待ってるから外で話してくると良い!』


 ユリアスはリーリャに軽く微笑んだ。


『…?まぁ…構わないが』


『蓮…外でよ…』


『あぁ…』


 蓮とリーリャは家を出た。


『青春…ですな〜』


『ですな〜』


 残された音村とユリアスは呟いた。


『で、話ってなんだ?』


『うん…まずは蓮ありがとう…私は蓮達のお陰で色々経験できたし、自分に自信も持てた…

 私がワイバーンに怖がってた時も目を覚まさせてくれたし…そのおかげで勇気も貰えた…私は短い間だったけど蓮から沢山なものを貰ったの…

 だから私は蓮に支えて…与えて貰った分、今度は私が蓮を支えたいと思ったの…だからね蓮が遠くへ行って中々帰って来れないことを知ってもの凄く吃驚したの…

 今日この時を逃したら一生思いを伝えられないかも知れない…そう思ったの…

 私すごい悩んでお兄ちゃんとも相談して…それで背中も押して貰った…ここで思いを伝えないまま後悔はしたくない…蓮から勇気を貰ったから…だから…伝えるね…

 蓮…私は蓮のことが好き…北の地方へ行く蓮について行きたい…蓮の支えになりたい…でもきっと蓮は優しいから私の安否を思って断ると思うの…

 お兄ちゃんが心配するとか、まだまだ私が未熟だとか行かない理由を挙げるとキリがないと思う…

 だけど私は少しでも一緒に行きたいと思ってる!それに私蓮のこと全然知らない!蓮が好きだからもっと蓮のこと知りたいし!一緒にいたい!私と恋人になって欲しい!

 ……ハァ…ハァ…いきなりこんなこと言っても困るよね…けど私本気なの…蓮の答えを聞かせて?』


 リーリャは思いの内を蓮に打ち明けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る