第17話 ギルドと姉弟

『うっひょー!いつ見てもすごく広い農地だね!』


『王都への食糧需要と豊かな自然の賜物だね!このメグミ村は王国内でも有名な農村地帯なんだ!』


『にしても…熱いな…』


『蓮!我慢我慢!もうちょっと歩いた先に見せたいものがあるんだ!』


 三人は暫く歩いた。


『ほう…村というには建物が多いしかなり活気がある…まるで街だな…』


『そう!このメグミ村は得た食材をすぐ加工、輸送する施設は勿論のこと…

 観光や貴族たちの別荘地帯としても有名なんだ!勿論このメグミ村を管理する領主もいるよ〜』


 蓮は村の活気に驚いた。


『ん?レオナ先生や、結構ゴツい人達が出入りしてるけどあそこは何だい?』


『騒、あれはね〜冒険者ギルドだね〜

 勿論王都にもあるんだけど…此処は仕事が取りやすいから結構手だれの冒険者が集まるんだよね〜』


『ほう…冒険者ギルドか…

 冒険者に階級とかあって受けられる依頼が変化したりはするのか?』


『おー!蓮その通りさ!

 ランクは下からF、E、D、C、B、A、Sになってるね!因みに特級魔導士の称号を持ってる人はSランクでギルド登録できるんだ!ほら!凄いでしょ!』


 レオナは上機嫌になり、Sとレオナの名が書かれた金のギルドカードを見せびらかした。


『おー!すげー!金ピカだ!』


『ほう…これがSランクのギルドカードか…』


『因みに魔導士の階級は下から初級魔導士、中級魔導士、上級魔導士、特級魔導士の順になってるんだ。

 上級までは王都の魔道士昇格試験を合格したらなれるんだけど…

 特級はそれに付け加えて大きな戦功や功績を残し国に認められる必要があるんだ…

 今…十二人くらいだっけ確か?』


『よし!君らもギルド登録しよう!』


『おう!ギルドの依頼!楽しみだなー!』


『音村…昼食もある登録を済ませたらすぐに帰るぞ』

(ギルドか…創作の世界を現実で味わう感覚…最高に気分がいいな)


『へーい』


 三人は冒険者ギルドに入った。


ヒソヒソ…


『見ろよ…爆撃令嬢だ…』


『出た…特級のヤベェ奴…』


『うぁ…マジだ…聞いた話によるとアースドラゴンを嬉々として虐めてたらしいぜ?』


『なにそれ怖…』


 三人が入った途端ギルド内の人間の視線が集まる。


『…何か妙に注目されてないか?』


『ん?気のせいじゃない?

受付さん!二人のギルド登録を頼むよ!』


『…は!はい!で、では此方のカードに氏名を書いた後魔力を込めてください!

 それで登録は完了します!』

(来…来た…特級の問題児…早く終わって…)


 ギルドの受付嬢は慌てた様子で蓮達にカードを渡した。


『お、魔力を込めたらアルファベットが浮かんできたね…』


『F…最低ランクか、まぁ実績も無いし致し方ない』


 蓮と音村がギルドカードに魔力を込めるとFの文字が浮かび上がった。


『こ、これで登録は完了です…

 依頼は今はFランクのものしか受けられないですけど依頼をこなしギルドポイントが100貯まると各所ギルドで定期的に実施している昇格試験を受けることができます。

 それに合格するとEランク冒険者になることができEランク以下の依頼の受注が可能となります。

 Dランクに必要なギルドポイントは300、

Cは800、Bは1500、Aは3000、Sは6000

ポイントとなり当然昇格試験を突破しなくてはなりません』

(…ギルドカードに文字が浮かび上がるのが速い…

 魔力量は低く見積もっても上級魔導士…Bランク相当はありそうですね…あのレオナ嬢の知り合いなら納得です…)


『ほら!見てくれ私のギルドポイント!』


 レオナは蓮達にカードを見せびらかした。


『12364!?』


『高すぎんだろ…』


『ねぇ!受付さん!古代遺跡の探索とか!希少大型獣の討伐とか来てない!?』


『い、今のところは来てないです…

ただ最近王都の方でSランククエストのレッドドラゴン討伐があったみたいなんですけど…』


『…先を越されたみたいだね』


コクコク…

 受付嬢は二回頷いた。


『あー!レッドドラゴン討伐やりたかったなー!まぁいいか!

 ギルド登録も済ませたことだし帰ろう!修行の合間にクエスト受けてみてもいいかもね!社会勉強にもなるし!

 個人でやってもいいし〜…二人で組んでも良さそうだね!

 まぁ人数が多くなると貰えるギルドポイントは等分され報酬も分散するからよく考えないとだけどね。

 まぁ同じランクの冒険者を積極的に誘うのもありだね!友達増えるし!

 その辺どうやるかは人それぞれだね!』

 

『おー!ワクワクしてきた!なぁ蓮!今度一緒にクエスト受けようぜ!

 その辺の同ランクの人も誘ってさ!』


『…ありだな、パーティでの立ち回りの勉強にもなり…且つ俺たちは世間知らずだ…

 得るものは多そうだな』


『お!蓮にしちゃノリがいいね!』


『にしちゃってなんだよ…』


『ハハハッ!…よし帰ろう!受付さん!ありがとね!』


 三人は家に帰り昼食を済ませ、エクストラマジックの魔力登録を行うべく魔力炉へと向かった。


『まぁこれもメインの方と同じだね〜

一時間、別枠魔法イメージして魔力込めてね〜

 私は家で適当に手伝いしとくから終わったら声かけて〜!またメグミ村に行こう!

んじゃ頑張ってね!』


 レオナはそう言い放ち、魔力炉を後にし蓮と音村は魔力炉に別枠魔法の魔力をこめた。


『はぁ…やっと終わった…メインより別枠の方が精神力を使うな…

 歪み故かはよくわからんが…』


『れ…蓮この後村行く余裕ありそう…?』


『…見てわからないか?』


『だよね…』


『お!そろそろだと思ったんだ!無事終わったようだね!よしまた村に行って夕飯まで時間潰そう!』


 二人が魔力登録を終え疲れているところにレオナが戻ってきた。


『おやおや…君達どうしたんだい枯れかけの植物みたいになっちゃって』

(ふむふむ…ぐったりしているとはいえ一発で別枠一時間成功させるとは…大したものだね)


『流石に疲れた…村に行く気力は残念ながらないな…』


『右に同じ〜』


 蓮は村に行く気力がないことをレオナに伝え音村は蓮に同調した。


『ふむ…そうか…村の特産品の食べ歩きとか魔道具店や武器屋見て周ろうと思ってたんだけどなぁ〜…

 一人10万ゼニ持たせて好きに使わせようと思ったけど疲れているなら無理強いは良くないよね〜』


『そういや俺っちお腹空いてたんだよね〜

村に気になるお店あったから少し寄るくらいは全然大丈夫な気がするな〜

 あとギルドに寄って冒険者の人達と交流したいし〜?どんなクエストあるかとか見たいしなぁ〜?

 なぁ?蓮もギルド寄りたいよな?』


『あぁ…奇遇だな…俺もギルドに立ち寄りたいと思ってたんだ…あと個人的に武器屋に寄りたいしな。

 まぁ…村で多少歩くくらいは余裕だな』


『よし!決まりだ!ほい!10万ゼニ!』

(チョロいな〜)


『うっひょ〜!ありがと!レオナ先生!』


『有り難く使わせてもらうよ!』


(蓮は大人びてるけどこの辺は年相応だね)


『ん〜多分二人の好みって大分違うよね〜そんなら別れて見周った方が楽しめるよね〜

 でもこの前みたく単独行動は危ないしな〜

誰かもう一人誘おう!我が弟がそろそろ起きる頃か!?久しぶりのお姉ちゃんとのお出掛けを喜ばない弟なんていない!』


タッタッタ…


『ね…姉さん…恥ずかしいだけど』

(相変わらず力強いなぁ…)


 レオナはレオンをお姫様抱っこして蓮達の前に戻った。


『おい…寝起き若しくは…寝込みを襲ったな…レオン寝巻きだぞ?』


『なぁ!弟よ!お前も蓮達と一緒にメグミ村周りたいだろう?

 お前は昼夜逆転した生活を暫く過ごしてたんだ!偶にはお姉ちゃんやお友達と一緒に日の下で楽しもうじゃないか!勿論お小遣いもあるぞ!

 それにアリシア様には私から言っとく!勤務時間の変更をするようにとね!』


 レオナは蓮の言葉に構うことなく話し続ける。


『う…うん姉さんありがとう…』


『よーし!行くぞ野郎共!』


 気が高まったレオナは三人を車に詰め込みメグミ村へ直行した。


『おえぇえぇ…疲れた体にこの揺れは効きますなぁ…』


『おい…音村吐くな…うっ…』

(てか、レオナ運転荒いな…そんな気はしてたけど…)


『姉さん蓮達やばそうだから少し休んでから二人をギルドに届けよう、その間僕たちは適当に時間を潰そう。

 蓮達だけの方が色々やりやすいと思うし…自立にも繋がるしね』


『うんそうだね!暫く休んでギルドに二人を置いた後私達で二人拾って別れてぶらぶらしますか!』


 暫く外で休憩した後蓮と音村をギルドへ届けレオンとレオナは村を周った。


『お!見ろよ蓮!盗賊の確保に〜…熊の群れの討伐とかあるぞ!』


『俺達じゃ受けられないだろ…盗賊確保はAランク熊の討伐はBランクじゃないか…

 俺たちが受けられるのは薬草の採取と商業ギルドの運搬の手伝い…ゴブリン退治ぐらいだろ…』


『お!君ら噂になってたぞー!あの爆撃令嬢の知り合いなんだって?

 それに相当魔力を持ってるって聞いたぜ!』


 蓮と音村がクエストボードを見ていると一人の冒険者風の服を着た茶髪の青年が声をかけてきた。


『申し遅れた!俺はユリアスって言うんだ!Bランク冒険者やってるぜ!俺の後ろに隠れてるのが妹のリーリャ!』


 ユリアスの後ろに隠れている少女はユリアスと同じ髪色の肩まで伸びた髪をしており、冒険者風の服を着ていた。


『こいつ数月前に冒険者なったんだけどよぉ…人見知りで中々パーティ組みたがれねぇんだ…やってるクエストも薬草採取とかの採取系のクエストばっかで全然ランク上がらねぇし…

 突然で悪りぃけどよ…俺の妹とパーティ組んでくれねぇか?俺は君らのことは信用してるぜ!何せあのレオナ嬢の知り合いだ!

 あの人はぶっ飛んでる所が目立ちがちだが…実績は確かだその知り合いともなれば信用できる…

 ギルドじゃ情報と人脈と信用が必須三要素だ!君達が困りゃ俺にできることなら力を貸すからよぉ…どうか妹の力になってくれねぇか?たのむ!』


 ユリアスは深々と頭を下げた。


『おいおい!ユリアスさんよ…ここじゃ目立つぜゆっくり席に着いて語ろうや』


 音村の提案で一同は席に着いた。


『さっきは悪かった…』


『お兄ちゃんの行動力が悪い方向に働いたね…』


『何を〜!お兄ちゃんはリーリャのことを思ってだな…

 それに行動力は冒険者に一番必要なもんだ!』


『…取り敢えず自己紹介するね…俺はソウ=オトムラんでこっちが…』

(ここじゃ名前が前で苗字が後ろだから合わせないとね…)


『…俺はレン=キサラギだ』


『ふむ…君達変わった氏名を持っているな…異国の者か?

 もしかしたらレオナ嬢のスカウトを受けたのかもしれないな!』


『ははは…』


 音村は苦笑いで誤魔化した。


『リーリャちゃんだっけ?

 緊張しないでいいよ〜、俺らここの事殆ど知らないからリーリャちゃんの方が先輩だしどっしり構えて!』


『…』


 音村はリーリャに声をかけだがリーリャは口を開かない。


『ちょっと気になったんだが…リーリャさんは好んで薬草採取をやってるのか?

 危険な目に遭うのが苦手なら無理に討伐系とかやらせるのは酷じゃないか?』


『私も…討伐系やってみたいとは思ってるけど一人じゃちょっと怖いかも…

 ランクだって上げてお兄ちゃんと肩を並べたいとも思ってる…』


 蓮の言葉にリーリャが答えた。


『俺はリーリャの望みを叶えてやりてぇ…

 それにリーリャは才能がある!だからこそそれを枯らすのは惜しくてな…』


『そういう事なら分かった、今日は無理だがリーリャさん明日一緒にゴブリン討伐やってみるか?

 一歩踏み出したら後は進むだけだ外に出るまでは億劫になりがちだが…いざ外に出たら外に出ることに億劫だと思うことはないだろ?

 心配ならユリアスさんも着いてくるといい危険だと判断したら介入してくれ』


『蓮君いいのか!?それに君達が居れば妹も大丈夫だよ!助かるよ!よかったな!リーリャ!』


『…うん…蓮さんありがと…よろしく』


『蓮…』

(今の蓮…兄貴って感じがしたな〜かっこよかったぜ!)


 蓮はリーリャとゴブリン討伐の約束を交わした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 蓮達がギルドにいる間、レオナ達は喫茶店に立ち寄っていた。


『お待たせ致した…フルーツパフェと…チーズケーキにブラックコーヒーでございます…』


『お!きたきた!

パクッ…美味しい〜』


 レオナはパフェを美味しそうに食べレオンはコーヒーとチーズケーキを落ち着いた様子で食していた。


『たまにゃこういうのもいいしょ?最近あんまし外に出てなかったと思うし…

 それに王都の実家じゃどうしてもお家のこととか頭に入ってきちゃうもんね〜』


『そうだね…姉さん…』


『全く!あのクソ親父ほんと嫌になるよねー!私が女だから次期当主に相応しくないとか言って!

 レオンが産まれたら産まれたで火属性の適性が無いことが分かると勝手に絶望してるしー!』


『…もう僕はあの人とは縁を切ったんだ今となっては気にする必要もないことさ…』


『実はそうもいかなくなってきてねぇ…

あの親父跡取り問題を回りくどい方法で解決しようとしててさ〜…

 家の者が嫁ぐことはあのプライドの塊は許さないみたいでねぇ…他家の女をレオンに嫁がせて、んで火属性持ちの男と私が子を作りレオンと女の子供として扱おうと企んでるみたい…

 火属性の魔力とクラーク家の血を引き継ぎたいけど当主を嫁がせたくないみたいでさぁ…

ほんと終わってるよねあの親父…』


『……そうなることはないよ、それは僕が全力で拒否する…例え命のやり取りになろうともね…』


『私だって嫌だ!私もレオンも犠牲になること無く自由に生きるべきなんだ!

 あの親父私を逃げられなくする為に無理やり宮廷魔導士の座を擦りつけてさ!やり方が本当に小賢しい!まぁそれに臆する私じゃないけどね!ホンット!

 アリシア様には感謝しても仕切れないよ!一時でも王都から離れられるもの!』


『ごめんね…姉さんばかりに辛い思いをさせて…

 これも僕が火属性の適性がなかったばかりに…』


『なーに言ってんだい!レオンは水魔法の天才じゃないか!水魔法の扱いにおいてレオンの右に出るものはいないと確信してるよ!

 てかさー!考え方が古いんだよねぇ!レオンは紛れも無く天才なのに!火属性しか認めないってさ!ほんとムカつく!あー!酒!酒が飲みたい!』


『姉さんはまだ飲んじゃダメだよ…それに他のお客さんの迷惑になるから抑えて抑えて…』


『あー…ごめん愚痴吐きまくっちゃったね…

 折角の兄妹水入らずのお出掛けなのに…

弟に心配かけちゃって…お姉ちゃん失格だね…』


『姉さん…愚痴ってのはね…ストレスの許容力を超過したものが言葉となって溢れるものなんだよ…

 それに蓋をしてしまっては姉さんが壊れちゃうよ…辛くなったら僕たちのことを頼っていいんだよ…少しでも姉さんの辛さを僕に分けて欲しい』


『ありがとうレオン…お前は優しい子だね…』


『姉さん程じゃないさ…そろそろ蓮達の所へ行こうか』


『そうだね…』


 レオナとレオンは喫茶店を後にし、蓮達と合流し二手に分かれ村の観光を行なった後、帰宅した。その後蓮達は夕食を取り団欒し入浴後、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る