第14話 特級魔導士

一方でメルシーと男の戦闘が始まっていた。


『ウッドショット!』


 男はメルシーを追いかけ複数の回転する尖った木片を飛ばす。

 メルシーは立ち止まり無詠唱で土の壁を展開し男の攻撃を防ぐ。


『解!』


 男が言葉を発すると土壁に刺さった木片が爆発し土壁は破壊された。まだ飛んできている後続のがメルシーを襲い土煙が舞い上がる。


『さて…流石にこの程度ではくたばらないでしょう』


(ウッドショットの詠唱と共に無詠唱で火属性の魔力を圧縮して放ちました…

木片を外壁及び燃料としてね…まぁ中々繊細な魔力コントロールが求められますね)


『な、何!?』


(罠か!?)


 男が土煙を見ていると足元に魔法陣が展開され魔法陣が展開された範囲が沼地となり男は徐々に沈んでいく。


植物創造クリエイトプラント!』


 男は沼地から木を生やしその木に掴まることで沼地から脱出したその直後…


『ギガントロック!』


 男の後方からメルシーの詠唱が響いた後男の頭上に巨大な岩が落ちてくる。


『な!?』


(何故後ろから声が!?奴は前方で私のウッドショットを喰らっていたはず…)


植物創造クリエイトプラント!』


(急に作ったから…流石にか弱いか…)


 即座に反応し複数の木を発生させ岩を支えようとしたが木はそれを支えきれずに岩は重力に従い男を襲う。


火噴ジェットファイア!』


 男は両手両足から噴射した火を推進力としてギリギリで岩を躱した。

『な!?』


(また…沼地だと!?)


 着地した男は再度、沼地に足がついた。


植物創造クリエイトプラント…!?

植物が生えてこない!?でしたら…』


発芽スプラウティング!』


 男は植物創造に失敗し、その後別魔法の詠唱を行い男の頭から亀裂が入りそこから脱皮の如く裸になった男が生えてくる。なお局部は葉で隠れている。


『クレイロック!』


 ガシッ!


 沼地から脱出した男はその直後に土で体を固められた。


『今までの攻防で無駄な抵抗はしない方がいいってわかったでしょ~?』


 男の目の前に沼地ができそこからメルシーが出てきた。


『…そうみたいですね。これから焼かれるのか煮られるかは定かではありませんが三点ほど質問よろしいですか?』


『まぁいいですけど、取り敢えず貴方の名前をお聞かせください』


『申し遅れました私ミツキと申します…』

(まぁ偽名なんですけどね…取り敢えず出来る限り時間を稼がなければ)


『それではミツキさん貴方の質問に答える前に私の質問に答えてもらいますね…

私を狙った理由は?』


 メルシーは男を睨み問うた。


『大した理由なんてありませんよ…個人的な恨みですね…では次はこちらの番ですね。

 一つ、これ程の広範囲の沼地をいつ発生させたのですか?

 二つ、私の目の前で私の魔法を貴方は受けたはずなのに何故後方から呪文詠唱を行えたのですか?

 三つ、何故最後、私の植物創造の魔法は失敗したのでしょう?』


『詳細な理由は教えてくれそうにないですねぇ~…まぁいいでしょう。

回答一つ目、私は貴方に追いかけられている間に大詠唱、マーシュ侵食イロウシェンを唱えて発動していました。

 この大魔法により周囲一帯は私の魔力に侵食され私の好きなタイミングで貴方を沼に嵌めることができました。

 二つ目、沼ノ侵食発動後、泥ノ人形クレイドールを詠唱し泥人形を生成した後、瞬時に私は沼に入り人形と入れ替わりました。

 貴方の攻撃を受けたのは泥の人形です、土の壁を作ったのも本体である私で人形を操りそれっぽく見せてただけです。

 その後魔法を放った貴方を確認して巨大な岩を出しました。

 三つ目、貴方が植物系の魔法を使うことを確認した後、土壌に土と水の魔力的干渉を行い生成を阻害しました。植物には水分と適した土壌が必要不可欠でありそれを奪われてはどうしようもないですね。

 それに植物は9 割が水でできてます根を張ったところで私の魔力的な干渉を受け水分を奪われ枯れるだけです。要するに私のテリトリーでは植物系の魔法は無力同然です。相性最悪でしたねぇ~』


『へぇ~それはそれは大したものですね』

(結構根が伸びてきた…これを遠くへ伸ばし脱出しなければ…)


『貴方どうやらバカみたいですね…無駄な抵抗はしない方がいいって言ったでしょ』


 グッ!メルシーは右手をミツキの方へ向け握りしめた。


『くっ…どうやらそのようですね…』

(根が地中で圧迫された…これじゃあもう無理ですね…)


『私のテリトリーなんですよここら一帯は貴方が根を伸ばしていることなんて丸分かりですよ…

貴方から色々聞きたいですし回収してお家まで来てもらいますね…えい!』


『ん゛!?』


(口が土で塞がれた!?これじゃ詠唱ができない!)

『貴方は何一つ身動きできない状態になりましたねぇ~私は蓮ちゃんとエリィさんの様子見てくるのでここで大人しくしといてくださいねぇ~』


 メルシーはミツキを縛り付け蓮とエリィの元へ向かった。


(…それぞれの戦場で種は撒けましたし…

 彼女達が失敗した時の保険はできたでしょう……蔦変化トランスウィップ

蔦から人間の体に戻るのは時間がかかりますが…仕方ありません…私が戦闘中に発生させた植物に取り入りましょう…)


 ミツキの体は蔦状に変化しメルシーの魔力を帯びた地面には接さずに自身が創り出した植物まで蔦を伸ばしその植物の一部になった。


『何やねん!あのオッサン!』


(このまま逃げても埒があかへんしなぁ…)


 一方でイズナは大男に追いかけられていた。


『何かおっかないけどやるしかあらへんか!』


『金縛り!』


 イズナは大男めがけて詠唱魔法を唱え男の動きを止めようと試みた。


『何のこれしき!ヌゥンッ!』


 大男は電気を体に纏わせ全身に力を入れ解き放ちイズナの縛術を力技で解いた。


(あのオッサン…雷属性の魔法使うんやな…これで一つ持ち魔法が分かったで…せやけど二つ目の属性の存在も警戒せなあかんな…

 あの俊敏かつ豪快な動きは電気を動力にしとる…雷属性の魔術師ならよくやる戦法やな…それにしてもこうもあっさり縛りを突破されるとは思わんかったで…他にもなんかありそうやな…)


『うぉおぉぉお!』


(俺の魔法は雷と水!水分解して酸素と水素を作り出しそれを漏れなくエネルギーに変換している!水と電気と酸素と水素と魔力!それら全てが運動エネルギーになるって訳だ!

 それに加えて電気を末梢神経に直接流し込むことで反射行動の速度を上げる!)


 イズナの縛りを解いた男は一気に距離を詰める。


 スッ…


大空魔術たいくうまじゅつ…』


 イズナは男の接近を予測し斜めに後ろ側に瞬時に滞空し距離を離す。


『ウォラァ!』


 それをみた男は一気に跳躍しイズナに接近する。


蒼炎そうえんまい!』


 イズナが滞空する前にいた地点に設置してあった魔法陣から蒼い炎の渦が舞い上がり男を襲う…


(踏んだら地雷…飛んだら登る炎の二段構えや

 ウチを追いかけるだけやから動きが読みやすいわぁ…更に念力であのオッサンを空中に固定して丸焼きや!)


水飛沫アクアスプラッシュ!』


 男は大量の水を発し蒼炎の渦を打ち消した。


『落滝(フォール・オブ・フォール)!』


 男は頭上に滝を発生させ無理やりイズナの滞空固定を打ち消し地についた。


『もろたで!蒼華爆炎そうかばくえん!』


 イズナは特大な蒼い火球を右手に翳しそれを圧縮し、男へ向けて投げた。

その後火球は爆ぜ、辺り一面を火が呑み込んだ。


『ウチの火の魔力を念力で一気に圧縮して放つ大技や…勢いで撃ってもうたけど…オッサンワンチャン死んだかもしれへんわ…まぁええか!』


 ピクッ…


 イズナの耳がピクリと何かを感じ取ったように反応した。


『ん…地中から呼吸音と心音がするなぁ…

賢いなぁ!爆発は下に広がらんから掘って被害抑えたんやな~とは言っても良くて大怪我やろなぁ~

 んぁ?いつの間にか耳と尻尾出てるやん…

魔力の出力上げすぎたせいで形態変化乱れたんか?

 ともあれ念には念や殺さん程度に焼くわ…狐火!』


 イズナは男がいた場所に空いた穴に小さな火球を放った。


『ウォオォォ!』


 男は穴から勢い良く出てきて後方に距離を取ることで火球を躱した。


『ハァ…ハァ…』


 男はかなりのダメージを受けており、背中と顔に火傷を負い息を切らしていた。


『オッサン…これ以上は無駄な抵抗や

 死んだら後悔すら無く終わりやで?今ならこの程度で留めといてやる、後で茶でも飲みながらゆっくり尋問やろな?』


 イズナの発言を聞いた男は激昂し体から勢い良く電気を発した。


『ウォオォォ!舐めんじゃねぇ!

死ぬのはあんただ!俺の名はゴンザレス!

覚えて死ねや!魔力全開放!』


『覚悟はできてやるみたいやな…

 最期に相応しい魔法をくれてやるわ!手向けとして持ってけ!ゴンザレスのオッサン!』


 イズナとゴンザレスは互いに魔力を高める。その直後…


『ゴンザレス!撤退よ!』


 ゴンザレスの背後には満身創痍のリリィを抱えた。ライラの姿があった。


『いや~蓮君!実に良いものを見せてもらったよ!君の覚悟と戦闘センスは目を見張るものがあるッ!

 音村君の戦闘も良かったが…彼は暴走してしまったからなぁ…

やはり便利だ…灰ノ目と灰ノ耳…

片目、片耳の聴力、視力を宿した灰の耳と目を作り飛ばし、二人の戦闘を遠くからそれぞれで観れる…

本体がお留守になるのが玉に瑕だけどね』


 リベルは蓮と音村からそう遠くない平原の木に背を凭たせ、腰掛けていた。


『さて…俺もそろそろ動くかな…

灰ノ人形アッシュドール

 片目、耳の感覚は人形に持たせて音村君の所へ…本体の僕は蓮君の元へ向かおう』


 リベルは灰の人形を生成し、本体と別々で行動した。


『よっとぉ…あちゃ~蓮君だいぶやばいじゃん、あとこの氷塊に閉ざされた彼女も回収しないとね…』


 リベルは腰に掛けられた刀に手を付けた。


一刀火閃いっとうかせん…』 


 リベルは踏み込み一瞬にして地に張り付いた氷を火を纏った刀による居合で切った。


『よし…これで運べるね…ん?』


 タタタッ


『蓮ちゃ~ん!エリィさん!怪しい人倒して戻ってきましたよ…って何でリベルさんが居るんです?』


『蓮君と音村君には魔力の反応が弱まると反応する小さい魔道具を付けてたのさ…

 その反応が僕が持つ親機に受信されて指針が動き位置を知らせて急いで駆けつけた訳さ…』

(まぁそんなものないんだけど)


 メルシーは辺りを一瞥した。


『流石はリベルさん用意周到ですねぇ~…

 見たところエリィさんと蓮ちゃんが戦って相打ちになった感じみたいですねぇ~

あのミツキとか言った怪しい人とエリィさんは魔狩人マジックハンター仲間だった可能性が高いですね…』


『その可能性はあり得るね…取り敢えず彼女を回収して尋問しなくちゃね…』


『そうですねぇ…あともう一人も拘束してるのでそっちも回収しちゃいましょ…あと一刻も早く蓮ちゃんを看病した方が良いですね…』


『それは間違いないね…じゃあメルシー済まないがもう一人の男と氷漬けの彼女と蓮君のことは任せて良いかい?音村君の反応も弱まってるから俺はそっちに行きたい』


『騒ちゃんもですか…何か妙ですね…まぁ良いでしょう…

三人のことは私に任せてください地属性の創造魔法で運搬します。

 王都の駐車場にある車まで持って行くのでそこで待ち合わせでお願いします。

騒ちゃんやイズナちゃんと合流してすぐお家へ帰りましょうリベルさん向こうは任せましたよ』


『あぁ…分かった』


 リベルは音村の方へ向かった。


『土ノ巨兵!』


 メルシーは巨大な土のゴーレムを創り出し氷に閉ざされたエリィと蓮をゴーレムの胸の中の空洞に入れた。そのままゴーレムの方にメルシーは乗りミツキの所へ向かった。


『あれ…ミツキさんがいない…?

良くあの状況から逃げられたものですね…』


(地中、地表から彼の魔力は感じない…

彼が創った植物を除いて…)


『枯らしてみますか…』


(ま、不味い!勘づかれたか!?

ま、間に合え…シードショット!)


 ミツキは何とか蔦から手を出し魔力を集中させ種を生成し放った。自信が創り出していない自生する木にそれを打ち込んだ。


『ん~枯らしても何もなかったですねぇ…

今ので死んだか、遠くへ逃げたかの二択ですかね…気にしても仕方ありません取り敢えず二人を車まで運びますか』


 メルシーはゴーレムに乗ったまま王都の駐車場へと向かった。


(何とか間に合いましたね…枯らされたらそのまま植物と一緒に死ぬ所でしたよ…

 自分の魔力で生成していない植物に種になったまま入り込むとは…

さてさて人間の体に戻れるのはいつになるのやら)


『あんた誰?何しにきたの?』


 リリィは本体より先に到着したリベルの分身に問い掛けた。


(ん~喋りたいけど分身じゃ言葉発せないからねぇ~仕方ない…)


 リベルは分身体の魔力を用い火の魔力で文字を記し自信が火葬ノ灰塵であることと音村とリリィを回収しにきたことを伝えた。


『なっ!?アリシア邸の特級魔導士がもう一人来るとは…想定外…詰みですねこれは…』


 リベルの分身は音村を抱えた後、リリィを灰で運ぼうしたその直後…


 サッ…


 地面から素早く動く影がリリィを呑み込みゴンザレスの方角へ向かった。


(ライラさん…流石に速いね…これじゃ分身じゃ対応できないね…)


 リベルの分身は音村を抱え、王都の駐車場へ向い、リベル本体はリリィを呑み込んだ影を追う。

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