第三章 忍び寄る影(王都襲撃編)

第10話 魔狩人と情報屋

『ほら、できたで~』


『うっひょ~う!うまそう!』


 イズナは料理を卓上に並べ、音村は歓喜した。


『これは…煮込みか…?全体的に赤い見た目だな…ケチャップベースか…いやトマトの匂いはしないな』


『ビックバードの血のスープ煮込みや、食うてみたらわかるけど、めっちゃうまいで』


(スープには上質なアブラが浮いていて確かにうまそうだ…しかし血の煮込みか少々気が引けるな)


『お~?どうやら蓮ビビッてんなぁ~、俺は迷わずに行かせてもらうぜ!いったきや~す!』


 そう言い放つと音村は煮込みを口に運んだ。


『……うますぎる…

 血の煮込みって聞いたから少々血生臭ささがあるもんだと思っていたが…一切の臭みがない…本来なら肉自体やガラがスープのうまみの元となるが血がその役割を満たしている…

 それによって一緒に煮込まれた野菜や鶏肉にうまみが凝縮される…鶏肉といえば淡泊でパサパサした食感が印象的だが…この肉は瑞々しくも鶏肉らしく歯ごたえもしっかりしている…鳥皮もぷりぷりでうまいのは言うこともないが口の中で容易に噛みちぎれる…』


『…どうした音村?お前ってそんなこと言うやつだったか?』


『…ムーラ食レポ上手いね…私が捕まえたんだから感謝と一緒にかみしめながら食べてね』


『あぁ…シエルちゃんと料理してくれた皆と食材たちに感謝だぜ!』


『血を含めこの煮込みは栄養満点、ズタボロなお前たちには持って来いの食事じゃ』


(うまいことは音村で確認済み…俺も食べてみるか)


 蓮も音村に続いて煮込みを口に運んだ。 


『…え、まって…うますぎるんだが?』


『蓮君…おいしい理由を聞いてもいいかな?』


 戻ってきたリベルが蓮に尋ねる。


『うまく表現できないが、鳥のうまみと食感がいい感じだ』


『食レポ下手か!』


『ハハハハハ!』


 イズナが蓮の拙い食レポに反応し一同は笑い、終始賑やかなまま夕食を終え、蓮と音村は入浴を済まし自室へ戻ろうとしていた。


『いやー!さっぱりした!今日いろいろありすぎて疲れたぜ!』


『そうだな、音村俺はレオンの部屋で寝るぞ、すでに許可は取ってある』


『え?何で?俺っちと寝るのそんなに嫌?』


『嫌ってもんじゃない!お前のいびきや寝言はうるさすぎる!』


『えっ!そうだったのそりゃごめん…』


『消音の魔道具でもあればいいんだが…俺もいつまでもレオンの世話になるわけにもいかないしな』


『まぁ、いいや蓮またなぁ~明日王都に行くの楽しみだな!おやすみ!』


『あぁ、おやすみ』


 蓮と音村はそれぞれの部屋で就寝し…夜が明けた。


 アリシア邸の住人たちは朝食を作り終え、卓についた。


『今日はサラダチキンとこれは…なんだ茶漬けの具材に鶏肉と煮凝りが乗っているな』


『せや、茶漬けやで、熱い緑茶をそのままかけると煮凝りが溶け出してこの料理が完成するんや』


 一同はお茶をかけて朝食を口にした。


『…うまい朝からこんなにうまいもの食べていいのか…?』


『うっめぇなぁ!…ん?リベルさんはいないのか?』


『リベルは夕食後、調達した金と資材をおいて出て行ったぞ、まぁいつものことじゃ』


『へぇそうなんだ、リベルさんにも食ってほしかったぜ』


『君ら、飯済ませたら王都に行く準備するからなぁ~…

 ん?今日は買い出しと物売りあるしなぁ~こいつらとウチの他に誰か案内役が欲しいところやな二手に分かれた方が効率ええやろうしな』


『私は昨日散歩楽しんだし…メルシーでいいんじゃない?最近お外出てなかったし』


 昨日蓮と外回りをしたシエルはメルシーの同行をイズナに提案した。


『え?いいんですか!久しぶりの王都楽しみですねぇ~』


『決まりやな、あと音村はウチに付いてきてもらうわ、明日ウチの妹がここに来る言うたやろ?連れてくると同時にあんたとの顔合わせも兼ねてな』


『了解!イズナちゃんの妹ちゃんどんな子だろ!』


『まぁ…期待せんでええで』


『あら、そーなの』


 イズナの発言にキョトンとした表情で音村が返答する。


『イズナの妹がここに来るのか…?それに音村との関係性が見えてこないな…』


 蓮が不思議そうに呟いた。


『ウチの妹は軍人やねん、まぁ来る理由としては国の情勢の報告とここの様子見みやな、それに妹は風属性やから音村のええ先生なれると思うて、ちと話通そうと思ったんや』


『なるほどな…』


(身内に風属性がいたのか…母数の多さの利点だな。その点俺の場合、指導者を見つけるのは難しそうだが)


『蓮の魔法は珍しいから、指導者を見つけるのは難しいかもしれないけど。珍しい魔法だからこそその魔法でしかできないことも多いから一⾧一短ではありそうだね』


 レオンが珍しい魔法の利点と欠点を口にした。


『まぁ…そうだよな』


 レオンの発言に蓮が相槌を打つ。


『そういえば!蓮ちゃんの冷凍助かりました!

 本来なら氷や雪や氷の魔力が蓄積された水晶を触媒としてかなり効率の悪い魔力変換を行わないとダメなんですよ~』


『ラギーの氷魔力があれば冷房を設置できる…暖房は火属性の魔力で熱を取り出して実用化できたけど、冷房は変換効率が悪すぎて設置できてなかったから夏も快適になるかも』


『冷気は貴重で冷蔵・冷凍庫ぐらいしか冷気を用いた魔道具は設置できてなかったからなぁ~エアコン実装は胸熱や温度は下がるけどな』


 メルシーとシエルに続きイズナも氷の魔力の利点を語る。


『なるほどな、希少な魔力かつそれなりに需要がある…もしかしたら一儲けできるんじゃないか?俺が水晶に魔力を込めて量産したら結構な利益になるのでは?』


 蓮は今までの話を聞いて、一つのビジネスを閃いた。


『魔力ビジネスは魔法を中心として回っているこの世界においてはありふれたものじゃ…我が国では国が魔力の売買は管理しておる。珍しい魔力持ちが個人営業するなんて怖くて考えたくもない』


『要するに、珍しい魔力もちは金のなる木というわけなのか!俺っちの風魔法はいいとしても音の別枠魔法とかの使用は控えた方がいいかもなんかやばい人たちに狙われそうだし!』


 蓮の発言にアリシアと音村が反応を示した。


『そうじゃ魔狩人マジックハンターという厄介な連中もおる…国家、地域問わず裏ルートで魔法や人間の売買を行っておるならず者集団じゃな』


『…確かに俺の魔法を見てみんながびっくりした理由もなんかわかった気がするよ。魔法の取り扱いには十分に注意しないとな』


 一同は朝食を食べ終え各々の業務に取り掛かった。


『ウチらもそろそろ準備するで』


『あぁ』


『おう!』


『は~い』


 イズナの呼びかけに蓮、音村、メルシーが答える。


『ほら車に荷物積むで』


『え、この世界車もあんの?』


『そうなんですよ~でも量産体制は整ってないし、これも試作品ですから無理な使いをしたらすぐガタがきちゃうんです』


『火属性魔力を燃料にしているのか?』


『せやで、エンジンの冷却として風魔力の冷却装置だけじゃ、無理な使い方したらすぐオーバーヒートしてしまうんや…』


 そう言い放つとにやけた表情でイズナは蓮を見つめた。


『……アンバランスだな…』


(車とかいう輸送における革命品が開発…そして生産されたら、冷却装置の需要に氷魔力の供給追いつかないのでは…希少で汎用性が高い氷…そしてもう一個が時間操作ときたもんだ…これじゃ安易に魔法が使えないな)


 蓮は小さくため息をついた。


『まぁ、ええわ!よし準備できたな!ほら皆行くで』


 準備を整えた四人は車に荷物を乗せ、王都へ向けて出発した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 時は昨夜に遡る。


 トントントン…


『入りなさい』


黒いローブを羽織り、白く不気味な仮面を被った男がドアを叩くと部屋の中から女性の声が聞こえた。


『これは、これは…新月の災禍い…や闇組織、無秩序むちつじょ月蝕げっしょくの頭領ライラ=オスクリタ様…いつ見てもお美しいお方だ…』


 男は部屋に入り目の前の女性に声をかけた。


『…闇の情報屋リルベルね、また素敵な情報を届けに来てくれたのかしら』


 女性は⾧い紺色の髪に深い青色の目をしており、黒をベースとした暗殺者風の恰好をしており胸には欠けた月のエンブレムが装飾されている。女性は椅子に座り机に手を置き顔の前で手を組んでいる。


『えぇ…きっと驚かれますよ。500万ゼニでどうでしょう?』 


『先払いを求めてくるのね…どうやらよっぽど自身があるようね、いいわ払いましょう…ただ額に見合わない情報なら貴方を殺すかもしれないわね』


『…ご心配なく私がまだ生きていることが最大の信用になりえるでしょう?』


『それもそうね、ゴンザレス金庫からお金を持ってきてくれるかしら』


『承知!』


 別室から低く野太い声が聞こえた。


『持って来やしたぜ、お嬢』


 褐色の肌をしたガタイのいいスキンヘッドの男はライラに金が入った袋を渡した。


『ありがとうゴンザレス、情報屋さん受け取りなさい』


 ホイッ


 バシッ!


『うむ…確かにこの重さなら500万ゼニはありそうですね』


 ライラは金貨が入った袋をリルベルに投げ渡した。


『…さて聞かせてもらおうかしら、あなたのとっておきを』


『アリシア邸に新たな住人が加わったみたいですよ…

 目撃者の証言によると加わった住人はエクストラマジック持ちの2人の少年、一人目の少年は風のメインマジックに音のエクストラマジック…』


『…もう一人は?』


『水属性のメインマジックで系統は氷、それと…』


『…それと?』


『時間操作と思しきエクストラマジックでありましてね…』


『な!なにぃ!?時間操作だと!本気で言ってんのか!情報屋!』


『ゴンザレス…少し静かにしてて』


『…すいやせん』


『私たちの目標としてはその二人を捕らえることだけど…そんなすごい魔法を持っているのなら名が知れ渡ってないのが不自然だわ』


『さしずめ地母神の巫女が用意した対帝国用の隠し玉ってところじゃあないでしょうか?』


 ゴンザレスがライラに続いて発言した。


『そうね…でも⾧年隠し通せるものではないと思うわ…私の推測だけどおそらく二人は異世界人ね』


『…異世界人っすか、だとしたら別枠を持っていても不自然ではじゃあないでしょうな…にしてもよくそんな人材見つけてきやしたねぇ流石は地母神の巫女と言ったとこですな』


『…えぇホントに底知れないわ。これは私の推測…いや願望かもしれないけれどその二人はこっちの世界に来てそこまで日が経っていない…そこのところの調べはついてるの情報屋さん?』


『えぇ、その通りですよ流石はライラ様だ、私の協力者の遠隔盗聴及び千里眼にて確認済みでございます』

(まぁ半分嘘なんだけどね)


『その協力者さん毎度思うのだけれども恐ろしいわね、こっちの抱えている情報も抜き取られてそうだわ』


『お嬢…やはりこの情報屋危険ですぜ!ここで始末しちまいやすか』


『やめておきなさいゴンザレス、彼はただの営業マンよ彼を殺したところで意味はないわ…それにリルベルのバックには底知れない組織が絡んでいるかもしれない…

 そこと敵対してしまうこともリスクよ。ここまで私たちの組織が発展したのもリルベルの影響が大きい…そのことを踏まえて彼と敵対するリスクとリターン天秤にかけてどちらが有益だとあなたは考えるかしらゴンザレス?』


『すいやせん、お嬢早とちりやした…』


『その二人が育つ前になるべく早く捕獲したいものね…さてどうしようかしらアリシア邸を襲撃するだなんてそんな命知らずなばかげた行為は取れないし…』


『地母神の巫女に殴り込みなんざ考えたくもないですぜ…』


『最高のお宝が最悪の場所にある…世の中そううまくいかないものね』


『虎穴に入らずんばなんとやらですぜお嬢』


『なんだったかしらそれ、異世界のコトワザ?とかいうやつだったかしら』


『お困りの御二方に耳寄りな情報がございます…』


『それは何かしら情報屋さん?』


『…追加で100 万ゼニお支払いいただければお話しし致しましょう…』


『はぁ…毎度、悪どい商売するわねぇ…ホントに』


 呆れた表情でライラは呟いた。


『エリィ、100 万ゼニ持ってきてくれるかしら?』


『承知致しましたマスター』


 別室から落ち着いた女性の声が聞こえてきた。


『受け取りなさい、情報屋』


ポイッ


 グレーの髪のポニーテールで澄んだ水色の瞳をした少女が金袋を持ってきてリルベルに投げ渡した。


 バシッ!


『こりゃどうも』


『情報屋、話を続けなさい。マスターの時間と手間をあまり取らせないで』


 エリィはリルベルを睨みつけた。


『お~怖い怖い、…ゴホン!明日の早朝例の二人は王都に向かいます。同行人を含めて4 名程になるかと』


『千載一遇のチャンスね、とってもいいニュースだわ例の二人を除いて同行人の2 名が気になるところね』


『お嬢、アリシア邸の連中は王国でも屈指の実力者ですぜ…人選は慎重にやらねぇといけやせんね』


『蒼炎の妖狐に泥沼の怪物、染血の獅子、電糸の蜘蛛…そして火葬の灰塵…全員二つ名持ちの特級魔導士です…どうなさいますか?マスター』


 リルベルの発言に無秩序ノ月蝕の3 名は頭を悩ませる。そんな彼女らにリルベルは続けて話した。


『私の推測ですと…蒼炎の同行は最有力と思われます…次点で電糸もしくは泥沼でしょうか』


『蒼炎か火葬は勘弁して欲しかったのだけれども…蒼炎濃厚なのは悪いニュースね』


『次点で電糸か泥沼…どっちにしたって骨が折れますなぁ…』

(骨が折れるくらいで済んだらまだマシなほうか…)


『マスターいつもの"桜分け"で対処いたしますか?』


『作戦自体は桜分けで問題ないわ…問題は人選ね、二つ名持ちの足止めと例の二人の捕獲に誰を当てるかが悩みどころね…とりあえずゴンザレス…蒼炎の足止めあなた行けるかしら?』


『お嬢…今まで無理難題には応えてきやしたが俺はもうちょっと⾧生きしてぇですぜ…今日の夕飯がステーキだったら考えやしたが…』


『ゴンザレス…貴方が私たちの中で一番タフで生存率が高いわお願いできるかしら?』


『俺が適任なのは分かってんすけどパートナー次第っすね』


『更にここに耳寄りな情報が…』


『情報屋さん発言を許すわ』


『連中は物資の売買が今回の目的でおそらく人数は分かりかねますが二手に分かれるでしょう…捕獲対象1 人と二つ名持ち1 人といったところでしょうか、その中でも蒼炎と音使いの組み合わせの可能性は高いかと思われます』


『聞いた?ゴンザレス、エリィ…フォーマンセル想定からツーマンセル想定になって桜分けの難易度が一気に低下したわ』


『桜分け自体の難易度は下がりやしたが…いかんせん捕獲の難易度は高いままですぜ』


『蒼炎と音使いの方はゴンザレスとリリィで対処しましょう…リリィ来なさい』


『はーい!』


 別室から元気な少女の声が聞こえてきた。


『お待たせしました!お頭ァ!』


 ピンク色の髪と瞳が特徴的なショートヘアの少女が部屋に入ってきた。


『んまぁ~リリィとなら死にはしねぇかもな』


『はい!ゴンザレスさんのお命だけは保証いたしますよ!』


『死ななくても一生動けねぇとかなっちまったらそれこそ死んだ方がマシかもしれねぇがな…』


『そうですね!動けない暗殺者なんて必要ないですもんね!その時は責任持って私が処分致しますね!』


『バカ言ってんじゃねぇよ…お前に殺されるくらいなら先に舌噛んで死んでやらぁ』


『じゃあ!口枷付けますね!』


『え?何?俺のこと殺してぇのか?』


『ゴンザレス、リリィ静かにしてくれるかしら?』


 ライラはゴンザレスとリリィに私語を慎むよう促した。


『すいやせん、お嬢』


『お頭ごめんなさい…』


『さて、蒼炎と音使いは貴方達に任せるとして…泥沼か電糸どっちが出るかはわからないけれどもう一組の方の人員を考えないといけないわね』


『サクラ兼、時使いの対処…エリィ行けるかしら?』


『マスターの御命令とあらば…ですが私くしめに時使いの相手が務まるでしょうか…』


『そこは相手の経験値が少ないことに賭けるしかないわね…それにサクラは可憐な少女にしか務まらないわ』


ポッ…


『可憐だなんて…わ、私くしめにはなんともったいなきお言葉…』


 ライラの一言にエリィは赤面した。


『それと…二つ名持ちの相手はミツキに任せるとするわ』


『ミツキですか…マスターのお考えとあらば受け入れましょう…私個人の意見としてはあんな変態と組むだなんてごめんなのですが…』


『変態とは失敬な…それにご心配なさらず…貴方には何の感情も持ち合わせておりませんので』


 エリィの背後から急に落ち着き払った男性らしき声が発せられた。


『キャー!』


 エリィは叫び声を上げリリィの背後に周り怯えている。


『うっわぁ…出た変態…死ねばいいのに…

エリちゃん…可哀想に…よしよし』


 リリィは怯えているエリィ頭を撫でた。


『お、俺も此奴だけは生理的に受け付けねぇ…』


 ゴンザレスも嫌そうに顔を歪ませている。


『あぁ…なんともお美しい…ライラ様…

 私くしめに対アリシア邸特級魔導士の戦闘員に任命してくださったこと心より光栄に思います!必ずご期待に沿わせて頂きます!この命に変えても!』


『ですが私とて一人の人間…報酬には期待致します…ライラ様からは"神湯かみゆ"を頂きたく存じます!』


『うっ…』


『エリちゃん!堪えて!吐くの堪えて!

うっ…ちょっと私もやばいかも…』


『お嬢の命令さえあれば、いつでも此奴を処分する準備はできてやすぜ』


『彼はキモイけど有用な人材よ…心底気持ち悪いけど…

はぁ…まぁ良いわ私の入った後の残り湯ぐらい好きにしたら?何に使うかはあえて言及しないわ…』


 ミツキの体の一部が盛り上がった。


『はぁ…はぁ…ライラ様が私の存在を認め罵倒してくださる…なんと幸福なことだろうか…♡

神からの恵余す事なく堪能させて頂きます♡』


 ミツキは頬を熱らせ、荒い息遣いをしている。それを見た各人は大きくミツキから距離をとった。


『此奴と同じ空気吸いたくないわぁ…

ゴンザレスさんガスマスクありますか?』


 リリィはゴンザレスに尋ねる。


『生憎今はそんな大層なもんは持ち合わせていねぇな換気すんぞ換気』


『スーハー…スーハー…

ライラ様と同じ空気を共有している次点でイってしまいそうだ…♡』


 ミツキのズボンが少し湿っている。


『失礼…少々先走ってしまいました♡』


『はぁ…貴方と相手していると疲れるわ…』


『その溜息すらも袋に入れてしまいたい♡』


『はいはい…さっきも言ったけどミツキには時使いの片割れの二つ名持ちを対処してもらうわ、相手が泥沼なら貴方は大きなアドバンテージを得られるはずよ』


『ふむ…確かに泥沼相手なら相性だけ見れば分がありますね…

まぁ誰が来たとて最低限の時間は稼がせて頂きますよ』


『えぇ…期待してるわ。あなた達明日に備えて早く寝なさい。

情報屋さんどうもありがとうまた良い情報の提供をお願いね』


『えぇ…また耳寄りな情報と共に参らせて頂きますよ…それではまた会いましょう』


 無秩序ノ月蝕の4 名は部屋を出て休息の為自室へと戻り、リルベルは屋敷を後にした。


『明日…君たちがどうなるか楽しみだ…!

見せてもらうよ!君たちの本質を!』


 リルベルは三日月の夜空の下声高らかに叫んだ。

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