第8話 大自然と地母神信仰

 蓮たち3 人は階段を登り、話をしながらリビングへ向かっていた。


『ところで音村、今頃昼食か?俺は4 時間くらい寝込んでいて、そこから2 時間くらいは修練場で特訓していたと思うのだが…

 今は14 時前後がいいとこじゃないか?』


『お?今13 時前だけど…特訓はできて1 時間くらいじゃねぇか?

 まぁ良くあるよね!こんだけしか時間経ってないのかよ~ってなる現象!退屈な授業受けてた時とかまじそれ!』


『いや…此奴の中では2 時間経過していたのかも知れぬ…』


『ん?どゆこと?』


 アリシアの発言に音村はきょとんとした表情で尋ねた。


『妾は実際に蓮の特訓の様子を見ておった…

 奴の動きは常に倍速で動いておるような感じじゃった…

 蓮の別枠は時間操作…ここまで言えば分かるじゃろう?』


『要するに蓮だけの時間が2 倍速くらいに加速していたってこと?』


『…と妾は推測する…』


『へぇ~!スッゲーなそれ!漫画とかでよくある10 日間分修行しても、実際は1 日しかたってないみたいな夢の修行!

 こりゃ蓮には敵わないな!』


『今回の一件はあらゆる偶然の一致で起きたようなもの…

 そう簡単に何回も起こらんじゃろう』


『ふーん、まぁいいや!蓮は俺らより1 時間多く経ってるから腹ペコだろ!早く行こうぜ!』


『魔力も体力もほとんど使い切って腹ペコでありヘトヘトだな…』


『蓮…お主は午後は外を回ってくるが良い、気晴らしになろう。

 誰かに案内役を任せておく車椅子を押してもらいながら楽にしておれ』


『あぁ…分かった』


『お?そろそろ着くぜ!』


 ガチャッ!


『昼メシの手伝いに来たぜー!』


『あらあら、おかえりなさいお昼できたわよ~』


 音村が勢いよくドアを開け、メルシーが対応した。


『騒ちゃん、配膳お願いできますか?』


『おう!…蓮一人で座れるか?』


『流石にそれくらいは動ける、俺に構わず手伝ってこい』


『おう、無理すんなよ~』


『あぁ』


『ラギー…ボロボロ大丈夫?

 一人で食べられなかったら私があ~んしてあげる』


『…いや流石に自分より下の子にそれは恥ずかしい…』


 シエルが疲弊した蓮を哀れんでの提案であるが、思わぬ提案に蓮は戸惑う。


『いいなぁ!蓮ばっかいい思いしてよぉ!?さっきだって…』


『それ以上はよせ!』


『音村よさぬか!』


 蓮とアリシアは同時に音村の発言を制止する。


『言わねぇよ、流石に約束だしさ』


『は~ん、何や蓮とアリシア様の間に何かがあったんやなぁ~?

 何があったかはあえて聞かんでおくわ。そっちのほうが想像が拡がるからなぁ~』


 ニヤニヤしながらイズナが発言した。


『あぁ!もう良い!ところで蓮、お主腕は上がるのか?』


『腕くらい上がるさ…痛ッ』


『どうやら、蓮の腕は上がらんようじゃな』


『ならば妾が食わせてやろう、年上ならば問題はなかろう?』


『…絵面に大分問題がある気がするが…』


 腕が上がらない、蓮にアリシアが気遣うが蓮は戸惑っている。


『アリシアさんは蓮に甘々だよなぁ~…

一体何があったのやら』


『音村はお主は黙っておれ』


『いやここだけは譲れねぇ!これ以上蓮だけにいい思いはさせられねぇ…

 俺が蓮に食べさせる!』


『それだけは絶対にやめろ!』


『わお、迫真』


 音村の発言に蓮は激しく反発する。


『喧嘩はいけませんよぉ~…

 私が多分一番問題ないと思うのです。なので私が蓮ちゃんに食べさせます!』


『ダメ…先に提案したのは私』


 メルシーが名乗りを上げたがシエルが反対する。


『何やぁ~蓮モテモテやなぁ~』


 それを見たイズナは蓮を揶揄う。


『不毛な争いだよ全く…適当にジャンケンでもしてくれ、音村を除いて』


『おいおい、蓮さんよぉ~?

 それはねぇんじゃねぇか?いい思い確定じゃねぇかよぉ~』


『お前が勝っても誰も得しない』


『ウチはちょっと音村が蓮に食べさせてるとこ見たいけどな…』


『イズナ…冗談はよしてくれ…』


『まぁ確かにハズレがない抽選は胸が躍らん!音村良かろう!

 妾がお主のジャンケンの参加を認める!』


『アリシアさん分かってるぅ~!そういうことだ!蓮!』


『面白いなぁ~!ウチも参加するでぇ~』


『……何でこんなことに…』


 困惑する蓮に構わず…参加者はじゃんけんを始めた。


『イックゼェ~!ジャンケン…ポンッ!』


『やったー!妾の勝ちじゃ!』


『あー、ついてねぇ…』


『ほれほれ~蓮よ口を開けよ』


『…はいはい』


(まぁ、最悪(音村)は避けられたからよしとするか…)


 アリシアは蓮に嬉しそうに食べさせている。


『…あんな嬉しそうなアリシア様を見るのは珍しい…』


『ねぇ!あれ絶対二人の間になんかあったよねぇ!』


『熱々やなぁ~』


『仲が良いことは良いことなのですが…

 あれはちょっと仲良すぎな気がします~…』


『…あぁ!もううるさい奴らめ!冷やかしはよさぬか!妾は妾の分の昼食を食す…

 誰か蓮の奴に食べさせてやると良い』


 ジャンケンの敗者たち冷やかしで羞恥心が芽生えたアリシアは自分の分の昼食を食べる為役割を他の者に譲渡した。


『ん~?どうする?またジャンケンするのは面倒臭いしなぁ…』


『こうたいごうたいでええんちゃうん?』


『こうたいごうたいは別に構わないが…音村に食べさせられるくらいなら、犬食いした方がマシだ』


『蓮…流石に犬食いはやめた方がいいぞ』


『やめた方がいいと言うなら、音村今日のところは勘弁してくれホント…頼むから…』


『わーたよ、今日のところは我慢してやるよ』


『あぁ…恩に着るよ…』


『…じゃあ言い出しっぺの私から…』


『……フー…フーほら、ラギーあ~ん』


『お、おう…』


(冷やかし中華で息を吹きかける必要あるのか…?)


『イズナ、メルシー変わる?』


『う~ん、ウチはええかななんか見とるだけで満足したわ』


『私も同じです~』


『そう…』


(シエルの奴…さては飽きてきてるな…)


『…飽きた』


『じゃあ、あとはウチの念力で蓮の口にブッ込もか?』


『なんか…物騒な物言いだな…シエル頼む最後まで頼まれてくれないか?

 俺が無事じゃ済まなそうだ…』


『…う~ん、しょーがない』


 色々あったが蓮達は昼食を終えた。

 昼食が終わり、蓮達は雑談している。


『あ~俺も女の子にあーんしてもらいたかったなぁ~、蓮が羨ましいぜ』


『はいはい、お前は午後は修行の続きだろ?地下修練場の解凍はもう終わってる頃だろうし、そっちに行ったらどうだ?』


『う~ん、俺は地下よりやっぱ外がいいかなぁ~、音も風も地下と比べて全然得る量が段違いなんよ』


『せやせや!修行で思い出したんやけどアリシア様に見てもらいたいもんがあんねん!なぁ音村!』


『お、そういえば…

 アリシアさん!俺はあんたに勝負を申し込む!』


『ほう…魔法を覚えたての若造が妾に勝負を申し込むか…大した度胸よ…』


『俺が1 時間水晶に一発で魔力を込められたらアリシアさんからご褒美を頂く!』


『ほう…一発か大きくでたのぉ音村よ…良かろう其方の自信がどこからきたものか知らぬが…

 もし出来たのならそれなりの褒美を約束しよう。

 出来なかった場合は其方にはそれなりの代償を支払ってもらうとしよう』


『望むところぉ!』


『大きくでたな音村…まぁ俺は見ての通りの状態だからな、外回りを車椅子で引いてもらいながらやるみたいだ』


『そういえば、そうじゃったな…妾はこのお調子者の勝負とやらに付き合ってやるし…

 イズナに工房の実験を任せるとして…〆たマンドラゴラの加工はメルシーかシエルに任せたいところじゃが…

 どっちか蓮の付き添いをやってはくれぬか?』


『私が行く…マンドラゴラは今日はもう見たくない』


『分かったわ~シエル、蓮ちゃんのことお願いね~』


『…うん、車椅子持ってくる』


『よし、では行くぞ音村…』


『よーし!行っくぞぉ~』


 音村が外に出ようとする。


『ん?どこに行くつもりじゃ音村よ?』


『ん?どこって?野外修練場だけど?』


『前にも言うたが…安全面を考慮してシステムが完備されてある地下修練場で行うつもりじゃが?

 もしかして、音村よ…外の自然やら音やらを感じ取りながら勝負をしようという算段じゃったのか?

 甘ったれるでないぞ、それは参考書を見ながらテストを受けるようなものじゃ』


『魔法はイメージ…想像力が命じゃ、環境的要因にそれらを委ねる癖がついてしまうと後々苦しむのはお主じゃ。

 いざというときに本領が発揮できん可能性があるからのぉ…

 参考書を見ること自体はものすごく大事じゃがそれがなくともお主には問題を解くだけの力を持ってもらいたい』


『わ~たよ…まぁ朝に感覚は掴んだからあとはそのイメージを忘れずに発揮するだけだぜぇ!』


『よし!良かろう付いてくるがよい!

お主は地下修練場で風の魔法が扱えていたはずじゃその感覚を忘れるでないぞ!』


『おう!燃えてきたぜ!』


 音村とアリシアは地下修練場へ向かった。


『ふーん…自然とかそう言った環境的要因が魔法に大きく作用するのか…

 基本的な四元属性はわりかし恩恵を受けれそうだな…』


『せやなぁ…氷系統は冬場なら教材多いけど今は夏やからなぁ~…

 ちなみにウチは最初の頃はずっと料理やら火を扱う実験やらで火のイメージを固めてたんやぁ~懐かしいわぁ~』


『私は農作業から水と土のイメージを固めました~

 あ、そうそうイズナちゃんから聞きましたよ~蓮ちゃん教材も無しにいきなり大型魔法ブッぱなしちゃっただとか…』


『まぁ…あれは魔に心を奪われてしまった精神の弱さが招いた結果だけどな…』


『コロコロコロ…着いた。

 確かに魔に心を奪われちゃうのは精神的に脆いところがあるかもだけど…それにしても凄い想像力と親和性』


『アリシアからは親和性が高いが故に魔に心を奪われやすいって聞いたな…

 同時に安定しない爆弾扱いされたがな…』


『流石アリシア様、言い得て妙…』


 ポンポン


『ラギーここに座って』


 シエルが持ってきた車椅子の座面を叩いた。


『あぁ…痛ッ!』


 椅子から立ち上がろうとした蓮の足に痛みが走る。


『ラギー、支えてあげるから頑張って…』


『あぁ助かる…にしてもこんなんじゃ格好がつかないな』


『最初ラギーのこと結構なんでも器用に出来そうな人ってイメージあったけど…

 存外世話が焼ける子ってことが分かってギャップがいい感じだから気にしなくて大丈夫』


 シエルはグッドサインをしながら発言した。


『だ、大丈夫なのか…?』


『ギャップ萌えって奴やなぁ~、アリシア様もその辺に惹かれたかもしれんなぁ~』


『ん?そういうのはよくわからん』


『よいしょ…』


 蓮はシエルに支えてもらいながら車椅子に腰を下ろした。


『シエルありがとう』


『どういたしまして、じゃ外でよ…』


『あぁ…』


 蓮はシエルに車椅子を押してもらいながら外へ出た。


『蓮ちゃんはそっちの方の感は鈍そうですねぇ~』


『鈍いっていうか…それ以前にそういうのとは無縁な人生歩んでた気がするわ…

 だからそもそもの感性が養われてないような…』


『蓮ちゃんには色々経験して豊かな心を持ってもらいたいですねぇ…』


『それに…シエルが誰かに対してあんなに積極的なのもあんま見ぃへんしなぁ…

 お互いに良い影響受けて欲しいもんや』


『……綺麗な庭だな…』


(創作とかの絵や写真で似たような庭は見たことはあるが実物だからか…より心を動かされる)


 シエルと蓮は西洋風の庭園へ訪れ、庭園を周っている。


『でしょ?私はこのアリシア邸、フロアレ王国や…豊かな自然が好き…

 皆大事だから守りたい…』


『俺は引きこもりがちで…他人の創作物や写真で綺麗な場所を見てそれで妥協していたのだが…

 実際目の当たりにするとそれの比にならない程の刺激…情報が得られるな…

 草花や土の匂い突き抜けるそよ風…陽光の熱や光…それらの様々な情報が心に安らぎを与える…

 考えていた嫌なことや病んだ心が上書きされるようだ…』


『ラギー…豊かな自然環境があるからこそ、それを糧とする人々は豊かでいられるの…

 だからこそ感謝して、大事にしなきゃなの』


『心に余裕があって豊かな人じゃないと、他の人は満たせないの…

 心に余裕がない状態の人が無理して他の人を満たそうとしてもその人は壊れちゃう…』


『自然は色々な豊かの源泉なの、自然が人を豊かにして、豊かになった人や自然そのものが豊かじゃない人を豊かにして世界は巡ってるの』


『だから…私は自分たちの私利私欲で人や自然から一方的に搾取する帝国をなんとかしなきゃって思ってる…』


『…強いなシエルは大義を抱き覚悟ができてる。

 それに加えて…俺の方は情けないよ…魔に心は奪われるわ、戦う理由だって自分本位だ…』


『シエルは俺より年下なのに凄いよ…

年下…いや待てよアリシアの例もある…

 ここの住人の年齢を教えてくれないか?

因みに俺と音村は13 歳だ』


『フフ…アリシア様は例外…

私は11 歳、レオンは12 歳イズナは17 歳、メルシーは21 歳、アリシア様は120 歳以上であとリベルは25 歳』


『なるほどなぁ…とりあえずシエルは年下であってたな』


『そんな年下にあーんさせられて、今もお世話させられてる年上…』


『あぁ~痛いところ突いてくるなぁ

しかし、言い返せない…』


『フフ…ラギーって揶揄いがいがある…ムーラが絡む理由が分かるかも…

 それになんか今のラギー何かこう…心の痞えが無くなった後のような清々しさと心の余裕があるように感じる…』


『絡まれるのは面倒だが…心が澄んだ感覚があるのは確かだな』


『そう…それは良きこと…

 とりあえず…外の施設ぐるりと一周する次は私が管理する魔法畑を案内してあげる…』


『うん、よろしく頼む』


 シエルは蓮を魔法畑に案内した。


『ほう、ここが魔法畑か…』


『詳しいことは多分記憶されてると思うけど…ここでは魔法実験に関する植物が栽培されてる。

 例えばマンドラゴラや薬草とか…他にもいっぱいあるけど、それらの植物がポーションを始めとした色々な用途で使われるの…』


『今度、ラギーが元気になったら一緒に管理しよ…多分ラギーの氷の魔法はマンドラゴラ〆るのに役立つ』


『あぁ…その時は色々教えてくれ』


『うん…一人でやっててもあんまり面白くないけどラギーと一緒ならきっと楽しい…』


『次行こ…』


『了解』


 蓮達は野外修練場、日本庭園、農園の順に周り、農園を見た後雑談をしていた。


『どの施設も良かったよ、特に庭はどっちも綺麗で心惹かれたよ。

 日本庭園はさざれ石やししおどし…池まで設置されてあって驚いたな…そして和室の縁側から庭が見渡せるのはとても魅力的だ』


『それは私のセンスの結晶…

 そろそろ疲れたからお菓子食べながら休憩しよ?ラギーはどっちの庭がいい?』


『日本庭園で頼む』


『うん』


 シエルの声色は少し高く…ご機嫌な様子で日本庭園に蓮と共に向かった。


『…殿お茶と茶菓子で御座います』


『…うむご苦労』


(とりあえずノリ合わせたけど、柄じゃないな…)


 シエルは縁側に座っている蓮に緑茶と三色団子を持ってきた。


『我がノリによく付いてきた褒めて遣わす』


『どっちが殿か家来かわからんな…』


『あ、そういえば腕上がる?』


『あぁ…少し痛みは伴うが昼ほどではない。リハビリ感覚で頂かせてもらう』


『そう、じゃあ一緒にまったり食べよ』


『あぁ、こういうのも良いもんだな』


 蓮とシエルは縁側でしばらくの間休憩した。


『そろそろ、3 時半だね…』


 シエルは腕時計を見た。


『いつの間にそんな時間になったのか、夕食の準備は何時くらいにするんだ?』


『6 時くらいに準備して7 時くらいに食べる感じ』


『そう考えるとまだまだ時間があるな』


『じゃあ…敷地から出てみる?』


『あぁ、そうだなこの世界のことをもっと知りたいしな』


『うん、じゃ行こ…』


 蓮とシエルはアリシア邸の敷地から出て見晴らしのよい高台へと移動した。


『物凄い景色だな…もと居た世界ではなかなか見れない光景だ』


 蓮は高台から巨大な山やそれに続く澄んだ川、湖に加え豊かな森等を含めた大自然を目の当たりにした。


『ここらはフロアレ王国でも屈指の自然地帯なの…あの大きな山がグランドマウンテン…大昔、魔王を勇者が討ち取ったとされる山で…

 そこから続く川は豊富な魔力と養分を含んでいて命の川って呼ばれてる…

 そっちの大きな湖は聖女の泉…昔魔王の瘴気によって蝕まれたこの土地を命を賭してこの場所で再生させた言い伝えからそう名付けられてる…』


『…伝説の地だったのか…ここは…』


『そう、そしてこの命の川はこの山から続いて王都を通過して遠くの海まで続いてる…

 フロアレ国民は恵まれた自然と共に生きたこともあって地母神信仰が国教とされているの』


『…確か地母神ナトラだったか?記憶を植え付けられた情報によると…』


『うん…アリシア様は地母神ナトラの神殿を管理してきた一族の末裔で…神…スフィアに選ばれた巫女なの』


『…もしかしてアリシアのこの国における立場って物凄いんじゃ…』


『王族ですら頭上がんないよ…?』


(あれが…そんなに偉いのか…?)


『今、そんなに偉いとか思った?そんな顔してたけど…』


『滅相もない!そんなこと微塵も思ってなんて…』


(なんだこいつ!読心の別枠でも持ってんのか!?)


『ふ~ん、まぁいいや』


『ところで思ったんだか…これだけ自然が豊かな伝説の地なら途轍もなく強い生き物とかいるんじゃないか?

 見た感じ王都らしきところは距離的に大丈夫っぽいけど近くの集落とかは危なそうだが…』


『…確かに強い猛獣とかもいるけどアリシア邸を境に魔避けの結界が張られているから集落は安全』


『なるほどなぁ…なぁ、一つ聞くがここら一帯に結界とやらは張ってあるのか?』


『張ってな…』


 バサッ!


『ギェー!』


 シエルの言葉を遮るかのように体調5m はありそうな怪鳥が空から蓮達の方へ向かってきた。


『くっ…万全には程遠い状態だが…やるしかないか!』


『ラギーは何もしなくて大丈夫』


『え?』


 ビリッ!


『ギョエー!カッ…カッ…』


 ドサッ!


 ピク、ピク


 怪鳥が蓮達を襲い接近した刹那、感電し地に落ちた。


『急に墜落したぞ!シエルがやったのか!?』


『うん、あらかじめ電流糸カレントフィルを張っておいた』


『メインの雷と別枠の糸の合成魔法か…

 大したものだ…』


『一応、電磁波を読み取って色々感知できるんだけど…

 集中しなきゃだからそこまではやんなかった。襲われたら鳥さん落っこちちゃうだけだし』


『まぁ…無傷ならいいか、結構肝冷えたけど』


『今のうちに襲われ慣れといた方がいいかも…

 次襲われたとしても今より冷静になれる』


『確かにな』


『あとこの鳥さんビッグバードって言ってグランドマウンテンの固有種で割と希少でいい素材になるから割と価値が高いの…

 あと山頂付近にはグランドバードって言う上位種がいてこれの比じゃないくらい強い』


『ビッグバード…ド直球な名前だな…』


『…これでよし』


 シエルはビッグバードの下に糸で作った下敷きを敷いて糸の縄に連結させ、自分の手首に括り付けた。


『このままこのデカイ鳥を引いて行くのか?』


『ん?私にそんな腕力ない…糸の⾧さに干渉して伸縮させたら私が力を加えなくても移動できる』


『すごいな…魔法をここまで自在に扱えるのか…』


『アリシア様に遣えるならこれくらいはできなきゃ…ラギーも元気になったら頑張ろ』


『お、おう…』


(伝説の危険地帯付近に拠点を構え…それでいてこの世界で屈指の魔法使いに遣える者たち

…俺らとはレベルが違いすぎるな…)


 しばらく、蓮とシエルは敷地外の自然地帯を散策した。

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