第29話 新たな武器


「おいしーい! それにすっごく柔らかーい!」


 鍾乳洞の奥地でアズールドラゴンを撃破した後。


 俺とメロは無事目的のメルキス鉱石を手に入れ、ガンドフさんの家まで戻ってきていた。


 ちなみに今メロが声を上げていたのは、持ち帰ることができたアズールドラゴンの肉を食べた結果である。

 俺もガンドフさんも同じものを食べているのだが、確かにメロが唸るのも分かるというほどに美味だった。


「しかしリヒトよ。お主、よく普通の装備でアズールドラゴンを倒したのぅ。ドラゴンと言えば専用の装備を揃えた討伐隊を組織してやっと戦える相手じゃというのに」

「はは……。洞窟内というのが幸いしましたね」

「普通はそんな戦法思いつかんし、そもそも普通の剣で岩を斬れるのはお主くらいのもんじゃがの。さすがこの世界を救った勇者じゃ」


 ガンドフさんに事の顛末を話した後でそんな言葉を頂戴した。


 でも今回はメロがいてくれたおかげもあるしなと、俺は隣でばくばくと肉にかぶりついている獣人少女の頭を撫でる。


「それにしてもこのドラゴンの肉、本当に美味いのぅ。これを食べているだけで寿命が伸びた気すらしてくるわい」

「市場ではまず出回らないものですしね。といっても大半は岩に押し潰されてたので持ち帰れたのは一部でしたけど」

「メロ、こんなおいしいお肉が食べられるならいくらでも頑張っちゃう。あるじ、またドラゴンを見つけたらやっつけよーね」

「いや、そんな気軽に戦うような相手じゃないんだけどな……」


 俺は嬉々として語るメロをたしなめ、短く溜息をつく。


 結局のところ、手持ちの装備ではドラゴンの装甲を突破できなかったわけだし、さっきも話した通り今回は地の利がこちらにあった。


 またドラゴン種の魔物と戦うことはあまり考えたくないと、そんな言葉を漏らしたところ、ガンドフさんから声がかかる。


「それなんじゃが、リヒトよ。儂から今回の依頼を受けてくれたお礼をせねばなと思う」

「お礼、ですか?」

「うむ。儂は鍛冶師じゃからの」


 そう言ってガンドフさんはニヤリと笑っていた。


   ***


「ふう、できたぞい」


 食事の後しばらくして。


 別室にこもっていたガンドフさんが姿を現すと、その手には短剣が握られていた。

 ガンドフさんは額に浮かんだ汗を拭い、俺にその短剣を差し出してくる。


 刀身が青く透き通っていて、観賞用にもできそうなほどだと感じさせられた。


「これは……、ナイフですか?」

「うむ。お主が持ち帰ってきた鱗を使わせてもらった。いや、久々に面白い素材で剣が打てたわい」


 鱗というのは俺が肉などと一緒に剥ぎ取ったアズールドラゴンの鱗のことだろう。


 ガンドフさんなら何かに使えるかと思い持ってきた素材だったのだが、まさかこんな短時間で武器を作ってしまうとは。


「ということでそれはお主にやろう」

「え? 良いんですか?」

「メルキス鉱石を採ってきてもらった礼と、それから美味い肉を食わせてもらった礼じゃよ。勇者の剣とはまた違ってイケてる武器じゃろう?」


 ガンドフさんはお茶目にウインクしてみせた。


(確かにこの短剣、不思議と手に吸い付くように馴染むな。それに、何よりも軽い)


 こんなに軽いと武器として機能するのかと思ったが、ガンドフさん曰くそこには自信があるらしい。


「ほれ、試し斬りじゃ」


 ガンドフさんがそう言って丸太を用意する。


 促されるまま短剣を振るってみたところ、音がしなかった。


「あれ? 斬れてない?」


 メロが不思議がって指でつつくと、丸太はパカッと二つに割れる。

 どうやら切断面でくっついていたらしい。


「これ、すごい切れ味ですね……。勇者の剣に匹敵するかも……」

「フフン、そうじゃろうそうじゃろう。あの鱗の大きさだと短剣が精一杯じゃったが、むしろお主にはこの方が都合良いこともあるじゃろうしな」

「ありがとうございます。確かに旅をしていると剣よりも短剣の方が役立つことの方が多いんですよね」

「喜んでくれて何よりじゃわい。と、その短剣に名を付けておかねばな。……そうじゃな。竜の名称から取って、『アズールダガー』とでも名付けておくか」

「アズールダガー……。青の短剣ですか。良いですね」


「大切に使わせてもらいます」と告げると、ガンドフさんは柔らかく笑ってうんうんと頷く。


 そうして、俺は一流の鍛冶師が打ってくれた新たな武器を手に入れたのだった。


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