第28話 竜の討伐


「こいつは、ドラゴンか……!」


 鉱石を探しにやって来た鍾乳洞の奥地で遭遇した魔物。

 それは青い鱗を持つ巨大な竜――アズールドラゴンだった。


「メロ、ドラゴンって初めて見た」

「そりゃそうだろうな。俺もこんな所でお目にかかれるとは思わなかったよ。ガンドフさんも知らなかったあたり、最近になってここに住み着いたのかもな。この地底湖もどこかへ繋がってるってことなんだろう」


 言いつつ、俺は腰から護身用の剣を抜いた。


 この世界で竜というのは魔物の中でも上位に位置する強敵である。


 かつて俺たちも戦ったブラックサーペントと同様、その巨体から予想通りの破壊力を持つ攻撃を繰り出してくる、というのが理由の一つだ。


 そしてもう一つ、竜系の魔物には共通して厄介な点がある。


 その体表を覆っている堅い鱗はまさしく天然の鎧であり、斬撃系の攻撃に対し堅固な防御力を誇るとされているのだ。


(ガンドフさんに打ってもらった勇者の剣であればまだしも、この普通の剣だとどこまでやれるか……)


「あるじ、どうする?」

「メルキス鉱石が手に入れられればそれでいいし、できれば交戦は避けたいところだけどな」


 ――グルルルル!


 しかし、アズールドラゴンは地底湖から這い出ると、俺たちに敵意のこもった視線を向けてきた。


 奥の道に進めばメルキス鉱石は手に入るだろうが、狭い通路で背後から襲いかかられたら洒落にならないだろう。


「相手がそう来るなら、ここで討つしかないな」

「りょーかい。やるしかない、ってやつだね」

「ああ。でもメロにとって良いことを一つ」

「ん?」

「ドラゴンの肉はめちゃくちゃ美味いって言われてる」


 その言葉で気合いが入ったのか、狼姿のメロは前足を掻いた後、アズールドラゴンに突進を試みた。


「そーとなれば、せんてひっしょう!」


 そしてその勢いのまま、メロはアズールドラゴンの尾に噛みつこうとした。のだが……。


 ――フシャアッ!


 アズールドラゴンはその攻撃をものともせず、メロを引き剥がそうとして尾を払った。


「そこだっ!」


 メロが後退させられる中、俺はアズールドラゴンの首の位置まで跳躍し、渾身の力で剣を振る。


 ブラックサーペントの時と同じ要領だ。

 いかに巨大な生物でも首を両断されて無事な魔物はいない。


 そう考えての攻撃だったが、アズールドラゴンの堅い鱗はそれを許してくれなかった。


「くっ……!」


 少しはダメージを与えられるかと思ったが、そう甘くはなかったらしい。

 ガギンと剣が弾かれる音がして、俺は空中に身を晒されることになった。


「あるじ!」


 アズールドラゴンは俺に噛みつこうと大口を開けて襲いかかってくる。

 俺は天井から伸びている鍾乳石を蹴り、その反動でアズールドラゴンから距離を取った。


「やっぱりそう簡単にはいかないか……」

「あのドラゴン、尻尾までカチカチだった。歯が欠けちゃうかと思った……」


 苦い顔をしているメロの様子を窺うが、幸い怪我などはないようでホッとする。


(しかし、どうしたもんか……)


 今の攻防から察するに、今の手持ち武器でアズールドラゴンの装甲を突破することは難しいだろう。


 となると、別の攻撃手段が求められるところだが……。


 俺はふと、アズールドラゴンの周りを見やる。

 正確にはアズールドラゴンの上を、だ。


「……」

「あるじ、何か良い作戦思いついた?」

「ああ。たぶん、アズールドラゴンの鱗より岩盤の方が斬りやすそうだと思ってな」

「どーいうこと?」


 俺は首をもたげてきたメロに耳打ちする。


「おっけー。それじゃあその間、メロがあのドラゴンを引き付ければいいってことだね」

「無理はするなよ」

「うん。あ、でもおいしーお肉のために頑張る」


 そうして作戦を共有した俺たちは再びアズールドラゴンに向かっていく。


 メロが前足に体当たりを食らわすと、アズールドラゴンの注意はそちらに引きつけられた。


 俺はその隙に跳躍し、剣を振るう。

 しかし、その攻撃が見当違いの方向に繰り出されたものだと思ったのか、アズールドラゴンは俺の方を一瞥しただけですぐに注意をメロの方に戻した。


 そのまま、俺は鍾乳洞の天井に向けて、、、、、、剣を振るい続ける。


(よし。やっぱり岩の方が斬れる)


 そして何度目かの打ち込みで天井の岩盤がズレたのを確認し、俺はメロに声をかけた。


「メロ! 離れろ!」


 その声でメロはアズールドラゴンから距離を取り、俺もまた離れる。


 直後、鍾乳洞の天井が轟音とともに崩れ落ちた。


 ――グルアァッ!?


 圧倒的な質量を持った岩盤の広範囲落下――。


 斬撃への耐久性が高い鱗を持ってしても、その攻撃はさすがに防げなかったらしい。


 アズールドラゴンは降り注ぐ岩盤の直撃を受け、断末魔の叫びを上げる。


「なんとかなった、かな」

「さっすがあるじ」


 瓦礫の山からは押し潰されたアズールドラゴンの頭部だけが覗き、完全に沈黙していた。



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