第23話 デスクラーケン料理


「ドーグルさんたちが戻ってきたぞぉ!」


 デスクラーケンを撃破した後で。

 俺たちを乗せた船はガザドの港へと帰還していた。


 待っていたのは地元の漁師や商会の人たちだろう。

 俺たちの無事が分かると、皆が手を振って出迎えてくれた。


「ガッハッハ、喜べ皆の衆! この近海を脅かしていた魔物はラハテさんたちがぶっ倒してくれたぜ! これで船も今まで通り出せるぞ!」


 ドーグルさんが下船した後にそう報告すると、その場にいた皆が喝采を上げた。


「ありがとう、旅の人! アンタはガザドの英雄だ!」


 大勢の人からそんな声をかけられ、むしろこちらが恐縮してしまう。


 そうして俺たちはもみくちゃにされ、ドーグルさんから受けた魔物の討伐依頼を完遂することができた。


   ***


「で? さっそくアタシんとこにメシを食いに来たってのかい。ご苦労さんだったねぇ」


 夕方になって。


 俺たちはドーグルに連れられ、昨日訪れた女将さんの料理店を訪れていた。

 約束していた魔物討伐のお礼ということである。


 目の前には昨日以上に豪勢な料理が並んでおり、中には魚料理も見えた。

 デスクラーケン討伐の帰りに、ドーグルさんが抜け目なく魚を手に入れていた成果だ。


「いやぁ、女将さんにもラハテさんの凄え戦いっぷりを見せたかったぜ」

「まったく。昨日会ったばかりの旅人さんをこき使うんじゃないよ」

「すみません、女将さん。連日2階の席を使わせてもらっちゃって」

「何を言ってんだい! 旅人さんのおかげでやっとガザドの海が元通りになったんだ。こんな店で良ければいくらでも来てもらいたいくらいだよ!」

「昨日はオレがこんな店って言ったら怒ってたくせにな」

「何か言ったかいドーグル」

「い、いや何も」


 女将さんに睨まれ、ドーグルさんは逃れるように酒を呷る。

 いつもは豪胆なドーグルさんも女将さんの前では型なしだなと、俺は苦笑しながら料理を口に運んだ。


「おばちゃんおばちゃん。おかわりいーい」

「はいはい。ちょっと待ってなさいね」


 お腹いっぱい料理が食べられてメロもご満悦な様子である。

 昼間は船酔いにやられていたが、デスクラーケンの電撃を受けて治ったのは本当らしい。

 既にメロの前には俺の5倍以上の皿が積み上げられていた。


 そうして料理や酒を交わしながら談笑し、しばらく時間が経った頃。


「おっといけない。危うく忘れるところだったよ」


 女将さんがポンと手を叩く。


「ラハテさんが倒してくれたっていうアレを調理しないとだね」

「お、待ってました!」

「今焼いてくるから待ってな」


 言って、女将さんはパタパタと階下に降りていった。


 そう――。

 討伐が終わった後、俺たちは船でデスクラーケンの身を持ち帰っていたのだ。


 当初の目的は討伐完了の証明として皆に安心してもらうためだったのだが、港の漁師の人たちにも調べてもらったところ、何と普通に食べられることが判明した。


 そして、俺たちはその一部をいただき、女将さんに差し入れたわけである。


「はいよ、デスクラーケンの炙り焼きお待ちっ!」


 少しすると女将さんがやって来て、俺たちのテーブルに大皿を置いた。

 その身は黒く、見た目はお世辞にも良いとは言えない。


 が、海の匂いと香ばしさを混ぜ合わせたような湯気がほくほくと立ち昇っており、否応なしに食欲を刺激された。


(そういえば、デスクラーケンが接近してきた時、メロが美味しそうな匂いがするって言ってたな……)


「もうビリビリこない?」


 一度感電したからだろう。

 メロは恐る恐るといった感じでデスクラーケンの身をちょんちょんつついていた。


 そしてまずは俺が、デスクラーケンの炙り焼きを口の中に放り込む。


「え……。う、美味い……」


 それは意外にも美味だった。


 程よい弾力性があり、海鮮系独特の香りが麦酒エールともよく合う。

 これならいくらでも食べられそうだ。


「うーん。こんな真っ黒いイカ、美味そうには見えねえけどなぁ」


 ドーグルさんも続いて半信半疑といった様子で手を付ける。


「うぉっ! 何だこれ、めちゃくちゃ美味えじゃねえか! 女将さん、明日からコイツをメニューに加えてくれ!」

「あるじあるじ! 海の味が口の中にいっぱい!」


 ドーグルさんとメロにも好評のようだ。

 本当に意外である。


 女将さんの料理人魂にも火がついたらしい。

 デスクラーケンの唐揚げに刺し身、サラダなどなど。


 それからたくさんのデスクラーケン料理がテーブルに並び、俺たちは皆で舌鼓を打つこととなった。



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