第21話 魔物退治に海へ
「こ、これはマフィーナ金貨じゃないですか。しかも、こんなにたくさん……」
「ピカピカなお金がいっぱい!」
ドーグルさんが卓上に置いたのは大量の金貨が入った麻袋だった。
魔物を討伐した場合の報酬ということらしいが、それにしても破格すぎる。
「あるじ。まふぃあ金貨って前に教えてくれたぶろーむ銅貨とやくざ銀貨よりも強い?」
「いや、強いというより価値があるって感じだけど。あと、ラクザ銀貨とマフィーナ金貨な」
「ほうほう。まふぃあはやくざより強い、と」
いや、そうとも言えないしそもそも名前が間違っているんだが……。
メロが妙な知識を定着させようとしていたが、俺は後で訂正することにしてドーグルさんの顔を見やる。
「それにしてもドーグルさん。魔物討伐の報酬としては多すぎでは?」
「まあ、ラハテさんには恩があるから甘くなっちまってるかもしれねえな。ただ、それだけオレたちもその魔物には手を焼いてるってことなんだ」
「ちなみにその魔物というのはどこにいるんです?」
「海の上さ」
「え?」
ドーグルさんは
「ここは港町でもあるからな。ウチの商会も漁業を手掛けてるんだが、その魔物のおかげで部下の連中も負傷して帰ってくる始末でよ」
「なるほど……」
「最近じゃ他の商会の連中も含めて船が出せなくなっててな。だから、これはさっきも言った通りウチだけの問題じゃねえ」
「つまり他の大陸との貿易にも支障が出ていると」
「そういうこった。その魔物はデカい上に船の上での戦闘になるし。討伐しようにもなぁ。魔王を倒してくれた勇者様でもいれば話は違ったんだろうが」
「……」
そういえば先程から運ばれてくる女将さんの料理にも魚料理の類がなかった。
港町だということを考えればそれは不自然で、こういうところにも影響が出ているということだ。
だからこそ、ドーグルさんにとって見過ごせる問題ではないのだろう。
「頼む! あの大樹を一刀両断するほどの腕前を見込んでのお願いだ! ここは一つ助けになってくれんか!」
「はい。もちろん、協力させていただきます」
「おお、そうか……! いや、そいつは助かる!」
「あ、でもやっぱりこれは貰い過ぎだと思いますので」
俺はそう告げて、マフィーナ金貨の入った麻袋をドーグルさんにお返しする。
「ラハテさん、アンタ……。いやでも、さすがにタダでやってもらうってわけには……」
「それならこうしましょう。討伐に成功したらまた女将さんの料理をご馳走してもらうということで。今度は魚料理も食べてみたいですしね」
「……」
俺がそう告げると、ドーグルさんは呆気にとられた顔でこちらを見ている。
そして――。
「ハハ……。ガハハハハッ! ラハテさん、アンタ本っ当にお人好しだなぁ! ますます気に入ったぜ!」
ドーグルさんは豪快に笑った後、嬉しそうに酒を呷っていた。
***
「おおー。うみー!」
翌日――。
俺たちはドーグルさんに連れられ、ガザドの漁港エリアにやって来た
初めて海を見たというメロがぱたぱたと走り出し、ブンブンと尻尾を振っている。
目の前に広がる大海を見て俺も思わず溜息が漏れた。
(そういえば、この世界に来て海ってそんなに縁がなかったな。他の大陸にでも渡る機会があればもっと目にしたんだろうが……)
「ねえねえ。あっちの方、海がとぎれてるんだけど、あそこまで行ったら落ちちゃう?」
「いや、あれは水平線ってやつで――」
「おおそうだぞ、おチビちゃん。あそこより先に行くと船が真っ逆さまに落ちちまうんだ。そうすると別の世界があるんだが、二度と戻ってこれねえって言われてる」
「うへぇ……」
ドーグルさんがメロに思い切り嘘の情報を吹き込んでいる。
真に受けたメロが「あんまり近づいて落っこちちゃわないようにしないとね!」などと言っていたが、無邪気な感じで可愛らしかったのでそのままにしておいた。
「さて、そんじゃ行くとするか。ラハテさん、よろしく頼むぜ!」
「はい、お任せください」
俺とドーグルさんは言葉を交わし、用意されていた船へと乗り込む。
それなりに大きな帆船だ。
そこには既にフロイト商会の人が何人か乗っていて、出港の準備に取り掛かっている。
俺が挨拶をすると、彼らは事情を聞いているのか、緊張した面持ちで激励の言葉を飛ばしてくれた。
「うっしゃ! それじゃ行くぜ! 野郎ども、気合い入れてけ!」
「「「オォオオオオ!!!」」」
ドーグルさんが出港の合図を出すと、船員たちも雄叫びを上げる。
まるで海賊船みたいだなと感想を抱きながら、俺は海上に現れるという魔物の討伐に出かけることとなった。
***
「うぷ……。きぼちわるい……」
「大丈夫か、メロ?」
出港してから間もなくして。
港ではあれだけ元気の良かったメロが船酔いでダウンしていた。
「お魚たくさんのいーところだと思ってたのに……。海きらい……」
「ほら、横になってろ。魔物は俺の方でなんとかするから」
「うん……。あるじはへーきなの?」
「ああ、俺は全然。加護のおかげかな」
「ずるい……」
俺はこの世界に喚び出された時に授かった《
RPGゲームで言うところの状態異常なんかを無効化してくれるんだろうと解釈していたが、こういう場面でも役立ってくれるのだ。
「あるじ……。メロがもし天国にいったらお魚たくさんお供えしてね……」
獣耳をぺたんと頭に貼り付けて、メロが消え入りそうな声で呟く。
「船酔いでそんな大げさな。ほら、これ噛むと少し楽になるぞ」
「あむ……」
俺が差し出した薬草を口に含ませると、幾分かは楽になったようだ。
やがて横たわったメロからすうすうと寝息が聞こえてきて、俺は船室から甲板へと出ることにした。
「どうですか、ドーグルさん」
「ラハテさんか。今のところ何か動きはねえなぁ。出たらすぐに分かるような魔物なんだが」
ドーグルさん曰く、ガザドの近海を脅かしているのは巨大な触手を持った魔物だという。
目撃者の情報によると、海中に潜んでいてハッキリとした姿は確認できなかったものの、この船と同じくらいの大きさの影が見えたらしい。
その時は触手なようなものが伸びてきて船を揺らされた挙げ句、転覆させられかけたのだとか。
(そんな魔物が潜んでいるとなったら確かに怖いよなぁ……)
そうしてしばし穏やかな海を見ていたところ、後ろから声がかかる。
「あるじ」
見るとメロが船室から出てきていた。
「どうしたんだメロ。まだ寝てた方がいいぞ」
「ううん……。あるじのくれたちょびっとだけ元気になった。それより、何かおいしそーな匂いが近づいてくる」
「美味しそうな匂い?」
メロの言葉にハッとして海面に視線を向ける。
すると僅かではあったが、ぬめりと動く影が目に入った。
(あれか……?)
「ドーグルさん」
「ああ。どうやらお出ましみてえだな」
俺は剣に手をかけ、接近してくるその影を注視する。
そして――。
「うわぁ、でっかいうねうね……」
後ろでメロが呆然と呟く。
その言葉通り、俺たちの目の前には巨大な「黒いイカ」が姿を現していた。
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